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第二部 第五章 初めてのデート
初めてのデート
プロデューサー太上の手腕により、新曲「Bite the Peach」は競馬のキャンペーンソングに選ばれた。重賞のテレビCMの際にバックで流れるとのことだ。それにちなみ、MVも競馬場で撮影することになった。無論、ゲスト参加の紅孩児もMV撮影に参加する。
本日は競馬が開催されない日であるが、競馬場の営業前の早朝からジャニ西とスタッフが集合し、撮影開始である。
ジャニ西の面々が各自衣装に着替えてメイクを済ませると、プロデューサー太上が紅害嗣及び納多と話をしていた。
「ああ、普段の牛家族のMVは暗い色調が多いゆえ、今日のような健康的なMV撮影もまた新鮮じゃろうて」
「いつもの撮影よりも紅孩児のメイクも少し薄めにした方が世界観にも合うかと思って、ナチュラル寄りにしてます」
納多が紅孩児の顔を首実験のように遠慮なく捕まえて、プロデューサー太上に見せている。
撮影が始まった。新曲を流しながらの口パクでの撮影ではあるが、カメラテスト、リハーサル、本番、と何度も繰り返しながら撮影していく。
馬が入るゲートにジャニ西と紅害嗣が入って一斉にスタートを切るシーン、芝生を疾駆するシーン(八戒は一回でバテた)、競馬場の芝生の上で歌うシーンに加え、フラッシュカットで使用する短い映像のために競馬場の様々な場所で撮影を重ねていく。
八戒は競馬場内に併設された売店のうどんやら牛丼やらを食ってばかりいる。悟浄は小物として渡された競馬新聞と耳にさした赤鉛筆が非常に似合っている。しかし、オッズ表を見ている後ろ姿は玄人感があるわりに競馬のことは全然わかっていないようで馬券購入のマークシートを手に「どこに印をつければ?」と途方に暮れている。
撮影スタッフによればそれぞれの個性が出ているのでそれでよいとのことで撮影はスムーズに進んで行く。
エレキのアンプ設置のための待ち時間、屋内のベンチに腰かけていた悟空のそばに紅害嗣が寄ってきた。
この前のレコーディングをきっかけに悟空への態度を和らげている様子である。
「普段、玄奘とのデートはどこに行くんだ?」
「デート⁉︎」
「するだろデート、休みの日に二人でどこに出かけることが多いんだって聞いてんだよ」
そういえば、玄奘とは一緒に住んではいるものの、休みの日に一緒にでかけたことなどほぼない。グループでの練習や、打ち合わせなど仕事でずっと一緒にいるせいか、たまの休日はそれぞれの時間を過ごすことが多い。
適当なことを答えてごまかしておくか、それとも……。
「もしかして、お前らデートしたことないのかよ?」
紅害嗣が信じられないというような非難めいた目で悟空を見てきた。
「いや……あの」
「おい、待てよ。綺麗なものを見せてやったり、好きなものをたくさん買い与えたり、美味いもの食わせてやったりとかさ、そんなことしてやったことねえの?おっまえ、本当に甲斐性ねえのな」
悟空はぐうの音も出ない。本当は恋人同士ではないとは言え、紅害嗣の批判は的を射ていることは認めざるを得ない。
過去の恋人にはいつも甲斐性がない、自分のことが結局一番大切なんだろう、と言われて別れてきたのだ。
紅害嗣は腕組みをして鼻を鳴らす。
「本当に玄奘はこんなやつのどこがいいんだ。俺だったらいろんな場所に連れてってやっていろいろ楽しませてやるのに」
「まぁ、おれらはもう一緒に住んでるからな。特別どこかに出かけなくても、一緒にいるだけで満足なんだよ」
苦しまぎれの悟空の言い訳も紅害嗣に一蹴される。
「そういう怠慢が別れを招くんだぜ。お前、亭主関白ぶって家事でもなんでも玄奘にやらせてるんじゃねえだろうな?いつも飯はどうしてるんだ?」
「ええと、大体は外で食べてくるか買ってくることが多いな。簡単なものだったらおれが作るけど」
「玄奘は?」
「玄奘は料理は苦手だ」
「皿洗いくらいは玄奘がするのか?」
「いや、玄奘は皿を割っちまうから」
「なら、掃除はどっちが?」
「仏壇周りは玄奘がするっていうから任せてるが、他はおれがしてる。玄奘にトイレ掃除なんかさせられねえし」
「そ、そうか。洗濯は?」
「おれの下着なんか洗わせられねえだろ?おれだよ」
「食料とか洗剤とかの買い物は?」
「宅配以外の買い物は大体おれが仕事とかジムの帰りにしてる。重いものは玄奘には持たせられねえから」
「つまりお前が全ての家事をしてるんだな?その間、玄奘は何をしてるんだ?」
「別に……本を読んでるか、経を唱えているか、瞑想をしてるか、そんなもんだ」
「手伝ってはくれねえのか」
「おれが一人でやった方が早えんだ。玄奘はちゃんと礼は言ってくれる」
悟空の答えに紅害嗣は真顔になった。
「お……まえ、意外と苦労してるんだな」
紅害嗣は悟空の背中を励ますようにばしばしと叩いた。
「憧れの玄奘と一緒に住むために、いろいろ大変な思いしてんじゃねえか」
悟空としては玄奘の世話を焼くのはごく当然のことなので、腑に落ちない思いではある。
「そ、そうか?」
「俺は玄奘とは住めねえわ。あいつあんなにきれいな顔してるのに、見かけによらず結構横暴なんだな。そうか、破れ鍋にとじ蓋、相性ってもんがあるんだなあ。よしよし、元気を出せ。ここらで一発、デートにでも誘ってこいよ。ネズミーランドのチケットでも奢ってやろうか?」
「……玄奘はあまり好きではなさそうな気がする」
玄奘はどの場所であっても一通り楽しんでくれそうな気はするが、心から喜ぶ場所はどこだろうか。
「じゃあ、どこがいい。水族館か?夜景の見えるスカイラウンジか?そのくらい俺が奢ってやるぞ」
紅害嗣は悟空のことを不憫だと同情しているらしい。
悟空は考える。どこに連れて行けば玄奘は喜んでくれるだろうか。仏壇売り場か線香売り場か……。
「もっと、落ち着いた感じの……仏像とかある場所が好きかもしれねえ」
「博物館、とかか?あ!そうだ、鎌倉に行けばいい。有名な寺もたくさんあるし、買い物もできるし、海もある」
「鎌倉……?」
「よし、俺がデートプランを立ててやる。甲斐性なしのお前には考えつかないプランをな。楽しみにしてろ。お前は玄奘を誘っておけよ」
「……勝手に決めんな!断られるかもしんねーだろっ」
いつになく悟空は弱気だ。
「恋人に誘われて断る阿呆がいるかよ」
「い、いや……まあ、そうかもしれねえけど」
「悟空さん、紅害嗣さん、準備整いましたー」
スタッフに声を掛けられ、撮影に戻った。
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