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第二部 第五章 初めてのデート
初めてのデート6 R15
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―――――――
その後、休憩を挟みながらいくつかの寺を回り(八戒は「あんなに仏像ばっかり見て、何がおもしれえんだ」とぼやいた)、時刻は夕方になった。
「七里ガ浜で夕陽を見てキスしろ」という紅害嗣の指令が悟空のスマホに既に届いている。スマホを見てため息をついた悟空を、玄奘は心配そうに見ていた。
江ノ電の駅を降りた二人は、ふかふかした砂浜に腰を下ろした。低くたれこめた雲が赤く染まっている。
夕陽にを受けて黒く陰になった江の島が大きなくじらのようにも見える。まばらに人も歩いているが、シーズンオフだからか、二人のそばには 人気はなかった。
「ふふ、靴の中に砂が入ってしまった」
言いながら玄奘が靴を脱いで裸足になった。悟空は言葉を探して黙っている。
玄奘は心から満足そうに言った。
「今日は楽しかった、悟空のおかげだ。どうもありがとう」
燃えるような夕陽の赤が、玄奘に一日の締めくくりをさせる。
だめだ、まだ終わってほしくない。
「これ、どうぞ」
内ポケットに忍ばせていた小さな包みを悟空は手渡した。
「なんだろう?」
玄奘が開けると、小町通りで見た、大仏のアロマストーンとアロマオイルのセットギフトだった。香りはローズマリー。力強さを感じさせるグリーンの香りが、一番玄奘に似合うと思って悟空が選んだものだ。
「玄奘が気に入ってたから……その……」
「かわいいな、ありがとう」
玄奘はそっと悟空の手を握った。そっと、じゃ足りなくて、悟空はぎゅっと握りしめた。
「この贈り物も嬉しいが、悟空の気持ちが私はうれしい」
「でも、これを買いに行ったせいで玄奘がナンパされちまったんで……。すみません」
「悟空が助けてくれたのだから、気にしなくていい」
玄奘が顔を近づけてくる。もうキスのタイミングはわかる。
悟空も目を閉じようとした矢先、スマホが震えた。紅害嗣からのメッセージだ。「もうキスしたか」と書いてある。スマホを見て悟空は思わずため息をついた。
お前が邪魔しなきゃしてたっつーの。
玄奘が少し不安そうな顔で言った。
「何か急用でも入ったのか?今日は何度もスマホを見ているから、何か大事な要件でもあるのかと気になっていた」
「すいません、ないです」
悟空は素直に頭を下げて、詫びた。
「おれがデートプランなんて考えたことないって言ったら、紅害嗣から玄奘が喜ぶプランを考えたからその通りにしろって、一日その指示が来てただけです。」
「そうか」
「ごめんなさい。おれが甲斐性なしのせいで」
玄奘があんなに感謝してくれるのだったら自分で計画を立てればよかったと、今更ながら悟空は後悔している。紅害嗣のプランにただ乗りして、玄奘の信頼を裏切ってしまった。
「この贈り物も、その指示で?」
「いや。それはおれがあげたかったからです」
「そうか……」
玄奘は大きく頷いてから続けた。
「私が今日一緒にいて楽しかったのは、相手が悟空だったからだ。だから気にすることはない。良かったら……その、また……デートしてもらいたい」
「もちろんです。今度はおれがしっかり計画しますから」
玄奘は再び黙った。何かを待たれていることを悟空は知っている。悟空は伊達メガネを外した。玄奘はごくりと唾を飲み込んだ。
悟空には周りを見る余裕はまだ残っていた。近くに人気がないことを確認し、玄奘の肩を抱いた。
玄奘は再び悟空の手を握り、指を絡めてきた。悟空は妖艶な夕陽の雰囲気を皮膚になすりつけるように何度も玄奘の指をこすってやった。何度も、何度も。
次第に距離を詰めるように玄奘が悟空の肩にもたれかかってくる。時折、くぐもった声を漏らす玄奘の肩がびくんと震える。悟空は手首をすりつけあい、指先を扇情的に動かし続ける。玄奘の敏感な感覚が興奮で目覚めていく。それでもまだキスはしない。
とうとう玄奘が悟空の首元に熱い息を吹きかけながら言った。
「悟空……ずるい」
悟空は両手で玄奘の左手を包んだ。
「どうしました?」
「キス……してほしい」
物欲しそうな玄奘の唇が黄昏に染められた瞬間、悟空は唇を合わせた。二人の唇は快感を欲して開いている。最初から深いキスだ。
「んっ、……んぁはぁん……んっ」
玄奘の声が漏れる。すでにもう身体はこの先の快感を知っている。もっとしたい。もっと近づきたい。玄奘は悟空の首に腕をまわした。
「……んあんっ、あっ」
「玄奘、もう少し声を抑えられます?」
「んっ……だって……」
夕陽はもう半分以上が海に沈んだ。もっと夕闇が深くなって二人の姿を隠してくれればいいのに、と悟空は思う。この艶やかな表情の玄奘は誰にも見られたくない。
予定では日帰りデートのはずだったが、悟空はもう帰る気をなくしていた。
スマホで地図アプリを呼び出してホテルを検索する。観光地だからか、ラブホではなくリゾートホテルが多いようだ。広告で表示されたホテルが近くて綺麗だと書いてある。平日だし空室もあるだろう。
「今日は帰るのやめましょう」
悟空は玄奘の腕をとって、歩き出した。
―――――――
悟空と玄奘が砂浜を立ち去ってからしばらくして、暗闇に紛れてぬるっと姿を現わしたのは例の三人だった。
悟空と玄奘が砂浜でキスにふけるところを誰かに目撃させるわけにはいかず、この三人はこっそりと、でも熱心に人払いをしていのだ。
悟浄の低音がつむじ風のように響いた。
「誘導成功でござる」
「まさか、こんなところで本番をさせるわけにいかないもんね」
「それにしても、玉竜ってほんとにお坊ちゃんだったんだな」
八戒が感心したように言う。
玉竜の父は海運会社の社長である。玉竜がコネを総動員して素敵なリゾートホテルに空室を作り、悟浄がハッキングして悟空のスマホ広告におすすめとして表示させたのだ。
「大事な友達の初体験を適当なところで済ませてほしくないじゃん。悟空にロマンチックな配慮を期待するのはどだい無理な話だし、ここは僕が一肌脱がないとね。どうせするならちゃんとしたところでさ、ねえ?」
八戒はのしのしと繁華街の方に向かいながら言った。
「ああ、腹減った。なんか食って帰ろうぜ。俺、しらす丼まだ食ってねえや。寿司屋に行くか」
「そういえば、さすがに拙者も空腹じゃ。日も暮れたというに悟空らは何も食しておらぬな。」
「あの二人、飯も食わずにヤる気なのかな。元気だねえ」
食べ物屋に行くときだけは足取りが軽快な八戒の肩を玉竜が叩いた。
「ねえ、今日は僕も悟浄も大活躍したんだから、何も役に立ってない八戒が奢りなよ」
「いやなこった。金持ちの坊ちゃんが奢れよ」
「……あの店まで競争して一番遅かった者の奢りとする」
悟浄が突然ぼそっと提案し、急に走り出した。長い手足を直角に動かしてスピードに乗っている。「ずるいよ~」と言いながら玉竜が追いかける。
「飯屋がゴールなら俺だって負けてらんねえぞっ」
八戒も鼻息荒く走り出した。
その後、休憩を挟みながらいくつかの寺を回り(八戒は「あんなに仏像ばっかり見て、何がおもしれえんだ」とぼやいた)、時刻は夕方になった。
「七里ガ浜で夕陽を見てキスしろ」という紅害嗣の指令が悟空のスマホに既に届いている。スマホを見てため息をついた悟空を、玄奘は心配そうに見ていた。
江ノ電の駅を降りた二人は、ふかふかした砂浜に腰を下ろした。低くたれこめた雲が赤く染まっている。
夕陽にを受けて黒く陰になった江の島が大きなくじらのようにも見える。まばらに人も歩いているが、シーズンオフだからか、二人のそばには 人気はなかった。
「ふふ、靴の中に砂が入ってしまった」
言いながら玄奘が靴を脱いで裸足になった。悟空は言葉を探して黙っている。
玄奘は心から満足そうに言った。
「今日は楽しかった、悟空のおかげだ。どうもありがとう」
燃えるような夕陽の赤が、玄奘に一日の締めくくりをさせる。
だめだ、まだ終わってほしくない。
「これ、どうぞ」
内ポケットに忍ばせていた小さな包みを悟空は手渡した。
「なんだろう?」
玄奘が開けると、小町通りで見た、大仏のアロマストーンとアロマオイルのセットギフトだった。香りはローズマリー。力強さを感じさせるグリーンの香りが、一番玄奘に似合うと思って悟空が選んだものだ。
「玄奘が気に入ってたから……その……」
「かわいいな、ありがとう」
玄奘はそっと悟空の手を握った。そっと、じゃ足りなくて、悟空はぎゅっと握りしめた。
「この贈り物も嬉しいが、悟空の気持ちが私はうれしい」
「でも、これを買いに行ったせいで玄奘がナンパされちまったんで……。すみません」
「悟空が助けてくれたのだから、気にしなくていい」
玄奘が顔を近づけてくる。もうキスのタイミングはわかる。
悟空も目を閉じようとした矢先、スマホが震えた。紅害嗣からのメッセージだ。「もうキスしたか」と書いてある。スマホを見て悟空は思わずため息をついた。
お前が邪魔しなきゃしてたっつーの。
玄奘が少し不安そうな顔で言った。
「何か急用でも入ったのか?今日は何度もスマホを見ているから、何か大事な要件でもあるのかと気になっていた」
「すいません、ないです」
悟空は素直に頭を下げて、詫びた。
「おれがデートプランなんて考えたことないって言ったら、紅害嗣から玄奘が喜ぶプランを考えたからその通りにしろって、一日その指示が来てただけです。」
「そうか」
「ごめんなさい。おれが甲斐性なしのせいで」
玄奘があんなに感謝してくれるのだったら自分で計画を立てればよかったと、今更ながら悟空は後悔している。紅害嗣のプランにただ乗りして、玄奘の信頼を裏切ってしまった。
「この贈り物も、その指示で?」
「いや。それはおれがあげたかったからです」
「そうか……」
玄奘は大きく頷いてから続けた。
「私が今日一緒にいて楽しかったのは、相手が悟空だったからだ。だから気にすることはない。良かったら……その、また……デートしてもらいたい」
「もちろんです。今度はおれがしっかり計画しますから」
玄奘は再び黙った。何かを待たれていることを悟空は知っている。悟空は伊達メガネを外した。玄奘はごくりと唾を飲み込んだ。
悟空には周りを見る余裕はまだ残っていた。近くに人気がないことを確認し、玄奘の肩を抱いた。
玄奘は再び悟空の手を握り、指を絡めてきた。悟空は妖艶な夕陽の雰囲気を皮膚になすりつけるように何度も玄奘の指をこすってやった。何度も、何度も。
次第に距離を詰めるように玄奘が悟空の肩にもたれかかってくる。時折、くぐもった声を漏らす玄奘の肩がびくんと震える。悟空は手首をすりつけあい、指先を扇情的に動かし続ける。玄奘の敏感な感覚が興奮で目覚めていく。それでもまだキスはしない。
とうとう玄奘が悟空の首元に熱い息を吹きかけながら言った。
「悟空……ずるい」
悟空は両手で玄奘の左手を包んだ。
「どうしました?」
「キス……してほしい」
物欲しそうな玄奘の唇が黄昏に染められた瞬間、悟空は唇を合わせた。二人の唇は快感を欲して開いている。最初から深いキスだ。
「んっ、……んぁはぁん……んっ」
玄奘の声が漏れる。すでにもう身体はこの先の快感を知っている。もっとしたい。もっと近づきたい。玄奘は悟空の首に腕をまわした。
「……んあんっ、あっ」
「玄奘、もう少し声を抑えられます?」
「んっ……だって……」
夕陽はもう半分以上が海に沈んだ。もっと夕闇が深くなって二人の姿を隠してくれればいいのに、と悟空は思う。この艶やかな表情の玄奘は誰にも見られたくない。
予定では日帰りデートのはずだったが、悟空はもう帰る気をなくしていた。
スマホで地図アプリを呼び出してホテルを検索する。観光地だからか、ラブホではなくリゾートホテルが多いようだ。広告で表示されたホテルが近くて綺麗だと書いてある。平日だし空室もあるだろう。
「今日は帰るのやめましょう」
悟空は玄奘の腕をとって、歩き出した。
―――――――
悟空と玄奘が砂浜を立ち去ってからしばらくして、暗闇に紛れてぬるっと姿を現わしたのは例の三人だった。
悟空と玄奘が砂浜でキスにふけるところを誰かに目撃させるわけにはいかず、この三人はこっそりと、でも熱心に人払いをしていのだ。
悟浄の低音がつむじ風のように響いた。
「誘導成功でござる」
「まさか、こんなところで本番をさせるわけにいかないもんね」
「それにしても、玉竜ってほんとにお坊ちゃんだったんだな」
八戒が感心したように言う。
玉竜の父は海運会社の社長である。玉竜がコネを総動員して素敵なリゾートホテルに空室を作り、悟浄がハッキングして悟空のスマホ広告におすすめとして表示させたのだ。
「大事な友達の初体験を適当なところで済ませてほしくないじゃん。悟空にロマンチックな配慮を期待するのはどだい無理な話だし、ここは僕が一肌脱がないとね。どうせするならちゃんとしたところでさ、ねえ?」
八戒はのしのしと繁華街の方に向かいながら言った。
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「そういえば、さすがに拙者も空腹じゃ。日も暮れたというに悟空らは何も食しておらぬな。」
「あの二人、飯も食わずにヤる気なのかな。元気だねえ」
食べ物屋に行くときだけは足取りが軽快な八戒の肩を玉竜が叩いた。
「ねえ、今日は僕も悟浄も大活躍したんだから、何も役に立ってない八戒が奢りなよ」
「いやなこった。金持ちの坊ちゃんが奢れよ」
「……あの店まで競争して一番遅かった者の奢りとする」
悟浄が突然ぼそっと提案し、急に走り出した。長い手足を直角に動かしてスピードに乗っている。「ずるいよ~」と言いながら玉竜が追いかける。
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