1 / 1
プロローグ
プロローグ
しおりを挟む
柔らかい風が五月の新緑を揺らして吹き抜けていく。真野は風で乱れた髪を掻きあげてから望遠カメラを構える。
関東地方の某陸上競技場で小規模の記録会が開催されている。参加人数が少ないせいか、どこかのんびりとした牧歌的な雰囲気が漂っている。山の上に位置し、緑で囲まれた競技場のスタンドはホームストレート側にしか設置されていない。ほとんど観客もいないので、真野が立ち上がって撮影しても、周囲の迷惑にはならないだろう。
目前にはスタンドとほぼ同じ高さに棒高跳のバーが設置されている。物干し竿のような長大なポール一つで、次々に人が空を駆けていく。
今、助走位置に立つのは雷堂昂生だ。雷堂は風向きを確認するように首を左右に軽く振ったあと、バーを睨みつける。軽く上げた前髪は日に焼けた額を顕わにし、瞳には肉食獣のような鋭さが宿っている。雷堂が軽くその場でジャンプするたびに跳躍を待ちかねた下腿の筋肉が躍動する。
雷堂はポールを両手で持ち上げて走り出す。全速力で駆けた勢いそのままにポールを支えにして、勢いよく跳びあがる。全体重を腕で支えながら逆立ち状態になったあと、ポールから押し出されるように身体が宙に投げ出される。光線の影響か、彼の身体が描く軌道が流れ星のように煌めいて見えた。
バーにまったくふれることなく雷堂がマットに着地した瞬間、まばらな観客席からかすかなどよめきが起きた。のどかな晴天の牧場に突然、眩しい閃光が走ったかのような、未知の無遠慮な美しさだった。
真野は息を呑んだ。カメラを構えていたのにシャッターを切ることさえ忘れている。
(まるで流星だ……)
真野にとって、棒高跳を生で見たのは初めてだったが衝撃を受けたのはそれだけが理由ではない。他の選手と比べても雷堂の跳躍はずば抜けて印象的だった。
真野の事前のメモによると、
『雷堂昂生、御暁山大学二年生。兄の影響で高校から棒高跳を始める。高三時のインターハイは「記録なし」、昨年のインターカレッジは怪我で欠場。全国大会で記録を残せていないが、自己ベストは5m40。今年のインカレ優勝を狙うダークホース』とある。
雷堂が一度跳ぶごとに歓声が大きくなっていくことに真野は気づいた。
(この選手はきっと――)
関東地方の某陸上競技場で小規模の記録会が開催されている。参加人数が少ないせいか、どこかのんびりとした牧歌的な雰囲気が漂っている。山の上に位置し、緑で囲まれた競技場のスタンドはホームストレート側にしか設置されていない。ほとんど観客もいないので、真野が立ち上がって撮影しても、周囲の迷惑にはならないだろう。
目前にはスタンドとほぼ同じ高さに棒高跳のバーが設置されている。物干し竿のような長大なポール一つで、次々に人が空を駆けていく。
今、助走位置に立つのは雷堂昂生だ。雷堂は風向きを確認するように首を左右に軽く振ったあと、バーを睨みつける。軽く上げた前髪は日に焼けた額を顕わにし、瞳には肉食獣のような鋭さが宿っている。雷堂が軽くその場でジャンプするたびに跳躍を待ちかねた下腿の筋肉が躍動する。
雷堂はポールを両手で持ち上げて走り出す。全速力で駆けた勢いそのままにポールを支えにして、勢いよく跳びあがる。全体重を腕で支えながら逆立ち状態になったあと、ポールから押し出されるように身体が宙に投げ出される。光線の影響か、彼の身体が描く軌道が流れ星のように煌めいて見えた。
バーにまったくふれることなく雷堂がマットに着地した瞬間、まばらな観客席からかすかなどよめきが起きた。のどかな晴天の牧場に突然、眩しい閃光が走ったかのような、未知の無遠慮な美しさだった。
真野は息を呑んだ。カメラを構えていたのにシャッターを切ることさえ忘れている。
(まるで流星だ……)
真野にとって、棒高跳を生で見たのは初めてだったが衝撃を受けたのはそれだけが理由ではない。他の選手と比べても雷堂の跳躍はずば抜けて印象的だった。
真野の事前のメモによると、
『雷堂昂生、御暁山大学二年生。兄の影響で高校から棒高跳を始める。高三時のインターハイは「記録なし」、昨年のインターカレッジは怪我で欠場。全国大会で記録を残せていないが、自己ベストは5m40。今年のインカレ優勝を狙うダークホース』とある。
雷堂が一度跳ぶごとに歓声が大きくなっていくことに真野は気づいた。
(この選手はきっと――)
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか
風
BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。
……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、
気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。
「僕は、あなたを守ると決めたのです」
いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。
けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――?
身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。
“王子”である俺は、彼に恋をした。
だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。
これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、
彼だけを見つめ続けた騎士の、
世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。
王様の恋
うりぼう
BL
「惚れ薬は手に入るか?」
突然王に言われた一言。
王は惚れ薬を使ってでも手に入れたい人間がいるらしい。
ずっと王を見つめてきた幼馴染の側近と王の話。
※エセ王国
※エセファンタジー
※惚れ薬
※異世界トリップ表現が少しあります
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる