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調査助手を引き受けました2
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入用の買い出しだと聞いていたので、てっきり探偵グッツみたいなものを買うのだと思っていた。
試着室を出ると、にこやかな女性店員さんと、面倒くさそうな穂積さんの顔があった。
「お客様、とてもお似合いです」
「あはは……」
私は店員さんの言葉に、顔を引つらせながら笑った。
穂積さんに連れてこられたのは、お洒落なブティック。私のお給料では、ボーナスでもない限り、足を踏み入れることすらない店だ。
「あの、穂積さん。私、今日はあまり手持ちがなくてですね」
手を添えて、小声で穂積さんに言うと、「謝礼金に入れとく」と言われた。
これって、もう謝礼金は、ほぼほぼなくなるのでは?と悲しくなる。
背中が大きく開いたレースのワンピースを一着買い、私と穂積さんは車に戻った。
「お会計、ありがとうございます」
お金は私の謝礼金からだけど、取り敢えず、今は立て替えてもらった形なので、彼にお礼を言っておく。
「次は、ヒール?買いに行くからな」
「…………それも、謝礼金から、ですよね?」
「当然だ」
「……」
もしかして、穂積さんはわざと服装について、事前に言ってくれなかったのではないかと思えてくる。
「穂積さん、これって本当に浮気調査ですか?」
私は膝に乗せた、高級感しかない紙袋を見て聞いた。
「馬子にも衣装っていうだろ。それ着て、俺についてくればいいんだよ」
そのことわざ、否定はしないが、少し腹が立つ。
入用の買い物を終わらせ、着いた場所は、大理石で建てられた高級なサロンだった。
ヒールの高さとは関係なく、足が震える。
「穂積さん。私は夢でも見てるのですか?」
私は隣の穂積さんに、助けを求める気持ちで呼びかけた。
「お前は、何を言っているんだ」
無精髭を剃ったスーツ姿の穂積さんは、まるで別人のように、かっこ良くなっていた。
私だけが、場違いに浮いている気がする。
「最初に言っておくが、お前はここで何を見ても、一切口外はするな。もし、口外すれば、その服と靴の金額の百倍を請求する」
百倍!!!?恐ろしい……。
私は顔を何度も縦に振った。
「それと、ここでは“英生さん”と呼べ。琴美」
「わかりました。ひ、英生さん」
穂積さんに腕を差し出され、おずおずとその腕を掴んだ。
隣を歩くだけのはずなのに、すごく緊張してきた。
赤いカーペットの上を歩きながら、私は思ったことを聞いてみる。
「その、浮気調査の相手の人、こんな所を出入りするってことは、かなり裕福な方なのでしょうか?もしかして、有名人とか」
すると、穂積さんは前を向いたまま、存外な口調で言った。
「仕事内容は、絶対教えない。でも、まあ、これくらいは教えてやる。ここはお金さえ払えれば、誰でも入れる。だが、女連ればかりだな。男は装飾のように、女を見せびらかし、女は新しい男を求めてついてくる」
穂積さんの言葉に、うわぁ…、と内心で引いて、足取りを重くする。
「私では、見せびらかしにもならないと思います」
今すぐ、回れ右で帰りたくなる。
「そうだな。だから、翔に可愛い子紹介しろって言ったんだが。翔には、お前が可愛く見えてるんだろう」
こんな所を紹介した翔を怨む気持ちが強かったが、そういうことなら悪い気はしない。
「まあ、適当に選んだ可能性が高いだろうけど」
これもまた否定はできないので、すごくくやしい。
エレベーターで二十階まで上がると、フロア丸々が、広い談話室となっていた。
「行くぞ。琴美」
穂積さんの声掛けに、私は強く気を引き締めた。
試着室を出ると、にこやかな女性店員さんと、面倒くさそうな穂積さんの顔があった。
「お客様、とてもお似合いです」
「あはは……」
私は店員さんの言葉に、顔を引つらせながら笑った。
穂積さんに連れてこられたのは、お洒落なブティック。私のお給料では、ボーナスでもない限り、足を踏み入れることすらない店だ。
「あの、穂積さん。私、今日はあまり手持ちがなくてですね」
手を添えて、小声で穂積さんに言うと、「謝礼金に入れとく」と言われた。
これって、もう謝礼金は、ほぼほぼなくなるのでは?と悲しくなる。
背中が大きく開いたレースのワンピースを一着買い、私と穂積さんは車に戻った。
「お会計、ありがとうございます」
お金は私の謝礼金からだけど、取り敢えず、今は立て替えてもらった形なので、彼にお礼を言っておく。
「次は、ヒール?買いに行くからな」
「…………それも、謝礼金から、ですよね?」
「当然だ」
「……」
もしかして、穂積さんはわざと服装について、事前に言ってくれなかったのではないかと思えてくる。
「穂積さん、これって本当に浮気調査ですか?」
私は膝に乗せた、高級感しかない紙袋を見て聞いた。
「馬子にも衣装っていうだろ。それ着て、俺についてくればいいんだよ」
そのことわざ、否定はしないが、少し腹が立つ。
入用の買い物を終わらせ、着いた場所は、大理石で建てられた高級なサロンだった。
ヒールの高さとは関係なく、足が震える。
「穂積さん。私は夢でも見てるのですか?」
私は隣の穂積さんに、助けを求める気持ちで呼びかけた。
「お前は、何を言っているんだ」
無精髭を剃ったスーツ姿の穂積さんは、まるで別人のように、かっこ良くなっていた。
私だけが、場違いに浮いている気がする。
「最初に言っておくが、お前はここで何を見ても、一切口外はするな。もし、口外すれば、その服と靴の金額の百倍を請求する」
百倍!!!?恐ろしい……。
私は顔を何度も縦に振った。
「それと、ここでは“英生さん”と呼べ。琴美」
「わかりました。ひ、英生さん」
穂積さんに腕を差し出され、おずおずとその腕を掴んだ。
隣を歩くだけのはずなのに、すごく緊張してきた。
赤いカーペットの上を歩きながら、私は思ったことを聞いてみる。
「その、浮気調査の相手の人、こんな所を出入りするってことは、かなり裕福な方なのでしょうか?もしかして、有名人とか」
すると、穂積さんは前を向いたまま、存外な口調で言った。
「仕事内容は、絶対教えない。でも、まあ、これくらいは教えてやる。ここはお金さえ払えれば、誰でも入れる。だが、女連ればかりだな。男は装飾のように、女を見せびらかし、女は新しい男を求めてついてくる」
穂積さんの言葉に、うわぁ…、と内心で引いて、足取りを重くする。
「私では、見せびらかしにもならないと思います」
今すぐ、回れ右で帰りたくなる。
「そうだな。だから、翔に可愛い子紹介しろって言ったんだが。翔には、お前が可愛く見えてるんだろう」
こんな所を紹介した翔を怨む気持ちが強かったが、そういうことなら悪い気はしない。
「まあ、適当に選んだ可能性が高いだろうけど」
これもまた否定はできないので、すごくくやしい。
エレベーターで二十階まで上がると、フロア丸々が、広い談話室となっていた。
「行くぞ。琴美」
穂積さんの声掛けに、私は強く気を引き締めた。
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