駅前のカフェの端で

幸花

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魔の電車がきたら、うっかりそれに乗ってはいけない。
乗ってしまったら、永遠にその時を繰り返さなければならない。



電車の中はそこそこに混んでいた。
揺られる人々は、皆、虚ろな表情をしている。
乗車している子供だけが、はしゃぎ声を上げて、人にぶつかりながら走り回る。

電車は、暗い地下鉄の線路の上を走り続ける。

やまない子供の笑い声に嫌気が差し、前の車両に移動することにした。
空いている席はないか、と人をかき分けて車両の中を、前へ前へと進む。
すると突然、吊り革を持って立つ人たちが、ぼやくように歌い始めた。

青い光が
見えた
青い光も暗闇にのまれた
何もかもを消した
そして何もかもが消えた

耳の中で、頭の中で、繰り返す歌に寒気がし、さらに車両を変える。
扉を開けたとき、人とぶつかった。
ぶつかった人物は謝りもなく、無言で、よろけながらふらふらと、あの歌がする車両へと入っていった。

駅を三つ過ぎたとき。
電車の中にアナウンスが響く。
しかし、そのアナウンスからは人の声ではなく、唸り声だけが聞こえる。まるで、大きな獣が歯をむき出しにして威嚇するような音。
アナウンスがプツリ、と切れた。
一体何だったのか、と天井に目を向けていると、一人の若者が席から立ち上がった。
その若者は坊主頭で、薄くボロ汚い、着物と羽織をしていた。
ニタリ、と笑う。
その片手には、黒い塊が握られていた。
「これを爆破させる!」
若者が叫んだ。
爆破の意味を理解すると同時に逃げ出した。
まだ事態を飲み込めていない者もいた。
ごった返す車両の中。
一番前の車両に飛び込み、運転席の扉を、拳で殴りつけるような強さで叩いた。
けれども、電車は止まらず。
叩き続けて気がついた。
運転席の目の前に見えた黒い壁。
電車は壁に向かって速度を上げた。
爆発音がし、青い光と炎が車両を覆っていく。
阿鼻叫喚。
差し迫った、眼前の黒い壁と背後の青い光。
何を思う暇もなく、恐怖だけを遺した。

留める形なく、無残に砕けた。
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