83 / 103
10話 犠牲と約束
12.一撃
しおりを挟む
準備を整えたセノンとカイオは、タイミングを見計らって竜の背後から奇襲を仕掛けた。
セノンが先行して疾走し、竜が完全にこちらを振り向く前に可能な限り距離を詰める。
「グアッ!!」
だが優れた感知能力を持つ竜は接近する二人に素早く気づき、距離を詰め切られる前に機敏な動きで向き直った。
そして、その胸元が僅かに膨らむ。
「カイオ!」
「分かっています!」
掛け声を受け、カイオはセノンと二手に別れて進路を右に大きく変更する。
セノンの進路はそのままだ。
竜は当然、正面からまっすぐ突撃してくるセノンに向けて竜の息吹を吐き出した。
しかしセノンは事前に、かなり大きく強化魔法の出力を引き上げていた。
「ふっ!」
そのまま疾走の勢いを利用し、全力で跳躍する。
竜はそれを追ってセノンのいる位置に向け首を振るうが、その急激な動きに完全にはついていけない。
セノンを追って吐き出された炎はすべて、セノンを捉えきれずに地面を焼くに留まった。
十分に疾走し勢いがついていたからこそ出来た芸当だ。
奇襲を仕掛けても竜の息吹で先手を取られるだろうという予測は、当たっていた。
予測していたからこそ、対策し、なんとか対応できる。
「カイオ、今だ!」
セノンへと注意が向いた隙をつき、カイオが竜へと一気に肉薄する。
その洋剣の切っ先が狙うのは、竜の残った左目だ。
強化魔法により鋭さを増したカイオの動きに対し、竜は左手を薙ぎ払うことで迎撃する。
カイオはあっさりと身を引き、その一撃を躱す。
しかしその間に、今度はセノンが潰れた右目の死角に潜り込み、竜に向かい剣を振るう。
視覚以外の感覚も優れた竜はその接近に気づき、とっさに身体ごと頭を振り回すことでセノンの刺突を器用に弾いた。
その隙に再びカイオが攻撃を仕掛ける。
竜はうっとおしそうに傷ついた翼を羽ばたかせながら飛びずさり、二人と距離を取った。
(なんとか、戦えてる…!)
空いた距離を埋めるべく、すかさず二人で距離を詰める。
竜が距離を取りながら竜の息吹を吐き出す場合は、大きく散会して逃れる。
あとは隙を見て接近し、同じことの繰り返しだ。
龍の息吹は短時間に何度も連発出来ないので、必ず付け入る隙は生まれる。
そして竜は正確に目を狙ってくるカイオを無視できず、むしろ一撃が重いはずのセノンへの注意が次第に薄れていく。
事実、セノンの攻撃はカイオに比べれば重くても、強靭な竜の鱗を砕くほどではない。
何度斬りつけても、ほとんどダメージは与えられていない。
(…ここだ!)
竜の意識が完全に自分から外れた一瞬の隙に、セノンは一気に強化魔法の出力を跳ね上げた。
強化された脚力で、全力で跳躍する。
そして落下の勢いも利用し、無防備な姿を晒す竜の首へと、逆手に握った剣を全力で突き立てた。
「ガァ!?」
「くそ!」
しかし直前で竜に気付かれ動かれたため、完全に突き刺すことは叶わなかった。
だが、セノンの一撃はなんとか竜の鱗を貫き、幾らかの肉を斬り裂いていた。
竜は頭を振り回してセノンを吹き飛ばそうとするが、セノンはその直前で竜の体を蹴りつけ離れる。
(やっぱり、連発は出来ないな…!)
セノンは地面に着地し今の動きで荒れた呼吸を整えながら、内心で毒づいた。
何度か斬りつけた時の感触を基に龍鱗を貫けるほどの強化出力を把握したが、実際にやってみると思った以上に腕や足への負担が厳しい。
今の一撃だけで、手足はミシミシと嫌な痛みを訴えてきている。
鳥獣型魔獣を仕留めた時に近いかなり過剰な強化だったため、当然といえば当然だ。
「グウゥ…!」
しかしその甲斐はあり、竜は再びセノンの動きに警戒を払うようになった。
実際に竜を仕留めることができなくとも、自分に「致命傷を与えうる一撃」があることを竜に認識させられれば十分だ。これで再びカイオが動きやすくなる。
二人で事前に話し合った結果、最優先で潰すべきは残った目だと決めていた。
両目を潰すことに成功すれば遥かに戦いやすくなるし、うまくいけば最初ほどの規模でなくても幻惑魔法をかけることに成功するかもしれない。
感覚の一つを潰せば、幻惑魔法は断然かけやすくなる。
それは竜の凶悪な両腕を掻い潜って心臓を狙うよりも、セノンが無理をして奇跡的な一撃で頭や首に致命傷を与えるのを狙うよりも、よっぽど現実味のある方法だった。
ただこれは、激しく動き回る竜の目玉を狙える、カイオの正確な斬撃があって成立する手段だ。
セノンには真似できないため、一撃を狙いつつ竜の注意を引くしかない。
(過剰な強化は、まだダメだ…機会を窺わないと…!)
身を滅ぼすほどの強化は軽々しく使えない。
無理をして、動けなくなった瞬間にセノンの命は終わる。
使うなら、竜を確実に仕留められると確信できた瞬間だけだ。
それは今ではない。
(ここまではカイオの想定通り…あとは油断せずに、根比べだ…!)
余りに事前の想定通りに進むため、一瞬こちらが有利に戦闘を進めていると錯覚しそうになる。
だが、セノンは息を細く吐き出してその考えを頭から追い出した。
決して、油断は出来ない。
直撃を一撃でも貰えば戦闘不能になる分、こちらが不利な状況は変わっていない。
あとはひたすら竜の猛攻に耐えながら、目を潰せる隙を虎視眈々と狙うだけだ。
(焦るな…!カイオを信じてれば、絶対に倒せる…!)
はやる気持ちを抑え、セノンは絶対の信頼を置く従者のことを考え、戦いに集中した。
セノンが先行して疾走し、竜が完全にこちらを振り向く前に可能な限り距離を詰める。
「グアッ!!」
だが優れた感知能力を持つ竜は接近する二人に素早く気づき、距離を詰め切られる前に機敏な動きで向き直った。
そして、その胸元が僅かに膨らむ。
「カイオ!」
「分かっています!」
掛け声を受け、カイオはセノンと二手に別れて進路を右に大きく変更する。
セノンの進路はそのままだ。
竜は当然、正面からまっすぐ突撃してくるセノンに向けて竜の息吹を吐き出した。
しかしセノンは事前に、かなり大きく強化魔法の出力を引き上げていた。
「ふっ!」
そのまま疾走の勢いを利用し、全力で跳躍する。
竜はそれを追ってセノンのいる位置に向け首を振るうが、その急激な動きに完全にはついていけない。
セノンを追って吐き出された炎はすべて、セノンを捉えきれずに地面を焼くに留まった。
十分に疾走し勢いがついていたからこそ出来た芸当だ。
奇襲を仕掛けても竜の息吹で先手を取られるだろうという予測は、当たっていた。
予測していたからこそ、対策し、なんとか対応できる。
「カイオ、今だ!」
セノンへと注意が向いた隙をつき、カイオが竜へと一気に肉薄する。
その洋剣の切っ先が狙うのは、竜の残った左目だ。
強化魔法により鋭さを増したカイオの動きに対し、竜は左手を薙ぎ払うことで迎撃する。
カイオはあっさりと身を引き、その一撃を躱す。
しかしその間に、今度はセノンが潰れた右目の死角に潜り込み、竜に向かい剣を振るう。
視覚以外の感覚も優れた竜はその接近に気づき、とっさに身体ごと頭を振り回すことでセノンの刺突を器用に弾いた。
その隙に再びカイオが攻撃を仕掛ける。
竜はうっとおしそうに傷ついた翼を羽ばたかせながら飛びずさり、二人と距離を取った。
(なんとか、戦えてる…!)
空いた距離を埋めるべく、すかさず二人で距離を詰める。
竜が距離を取りながら竜の息吹を吐き出す場合は、大きく散会して逃れる。
あとは隙を見て接近し、同じことの繰り返しだ。
龍の息吹は短時間に何度も連発出来ないので、必ず付け入る隙は生まれる。
そして竜は正確に目を狙ってくるカイオを無視できず、むしろ一撃が重いはずのセノンへの注意が次第に薄れていく。
事実、セノンの攻撃はカイオに比べれば重くても、強靭な竜の鱗を砕くほどではない。
何度斬りつけても、ほとんどダメージは与えられていない。
(…ここだ!)
竜の意識が完全に自分から外れた一瞬の隙に、セノンは一気に強化魔法の出力を跳ね上げた。
強化された脚力で、全力で跳躍する。
そして落下の勢いも利用し、無防備な姿を晒す竜の首へと、逆手に握った剣を全力で突き立てた。
「ガァ!?」
「くそ!」
しかし直前で竜に気付かれ動かれたため、完全に突き刺すことは叶わなかった。
だが、セノンの一撃はなんとか竜の鱗を貫き、幾らかの肉を斬り裂いていた。
竜は頭を振り回してセノンを吹き飛ばそうとするが、セノンはその直前で竜の体を蹴りつけ離れる。
(やっぱり、連発は出来ないな…!)
セノンは地面に着地し今の動きで荒れた呼吸を整えながら、内心で毒づいた。
何度か斬りつけた時の感触を基に龍鱗を貫けるほどの強化出力を把握したが、実際にやってみると思った以上に腕や足への負担が厳しい。
今の一撃だけで、手足はミシミシと嫌な痛みを訴えてきている。
鳥獣型魔獣を仕留めた時に近いかなり過剰な強化だったため、当然といえば当然だ。
「グウゥ…!」
しかしその甲斐はあり、竜は再びセノンの動きに警戒を払うようになった。
実際に竜を仕留めることができなくとも、自分に「致命傷を与えうる一撃」があることを竜に認識させられれば十分だ。これで再びカイオが動きやすくなる。
二人で事前に話し合った結果、最優先で潰すべきは残った目だと決めていた。
両目を潰すことに成功すれば遥かに戦いやすくなるし、うまくいけば最初ほどの規模でなくても幻惑魔法をかけることに成功するかもしれない。
感覚の一つを潰せば、幻惑魔法は断然かけやすくなる。
それは竜の凶悪な両腕を掻い潜って心臓を狙うよりも、セノンが無理をして奇跡的な一撃で頭や首に致命傷を与えるのを狙うよりも、よっぽど現実味のある方法だった。
ただこれは、激しく動き回る竜の目玉を狙える、カイオの正確な斬撃があって成立する手段だ。
セノンには真似できないため、一撃を狙いつつ竜の注意を引くしかない。
(過剰な強化は、まだダメだ…機会を窺わないと…!)
身を滅ぼすほどの強化は軽々しく使えない。
無理をして、動けなくなった瞬間にセノンの命は終わる。
使うなら、竜を確実に仕留められると確信できた瞬間だけだ。
それは今ではない。
(ここまではカイオの想定通り…あとは油断せずに、根比べだ…!)
余りに事前の想定通りに進むため、一瞬こちらが有利に戦闘を進めていると錯覚しそうになる。
だが、セノンは息を細く吐き出してその考えを頭から追い出した。
決して、油断は出来ない。
直撃を一撃でも貰えば戦闘不能になる分、こちらが不利な状況は変わっていない。
あとはひたすら竜の猛攻に耐えながら、目を潰せる隙を虎視眈々と狙うだけだ。
(焦るな…!カイオを信じてれば、絶対に倒せる…!)
はやる気持ちを抑え、セノンは絶対の信頼を置く従者のことを考え、戦いに集中した。
0
あなたにおすすめの小説
神は激怒した
まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。
めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。
ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m
世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる