電波少年と幽霊マネージャーの迷宮探索裏街道

春池 カイト

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1 電波少年の受難

彼が変わった日

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「おっ、カナメ、遅いぞ」
「ごめんごめん」
「先に行こうって話しとったところやで」
「ダイスケもごめん、それにしても寒いね」
「ほんまやね、カイロたくさん持ってきてよかったわ」

 仲の良い友人、クニオ、ダイスケと待ち合わせしていたのは最寄りの駅だった。
 なお、僕のフルネームは宗崎そうざきカナメ、二人の友人はそれぞれ柴山しばやまクニオ、工藤くどうダイスケだ。
 なお、ダイスケだけが関西から引っ越してきたためにそちらの言葉が抜けていない。

 本当は僕のカナメには要という漢字が当たる。
 クニオは邦夫で、ダイスケは大輔だ。
 だけど、折からの難読ネーム対策で、最近は下の名前はカタカナで記すのが普通になっている。
 公的書類でもそうで、父さんに見せてもらったが、運転免許証も『宗崎タツヒコ』となっていた。

 義務年齢の15歳を前にして、ダンジョンに入る体験会というのが中三の行事となって三年目。ついに僕たちの番になった。
 全校生徒一斉に行われるわけではない。
 4月生まれが12月まで待つというのでは集中しすぎてダンジョン側にも迷惑だ。
 そこで、次の月に誕生日がある生徒ごとに分散して行くことになる。

 とはいえ、高校受験真っ最中の1月、2月にそんな行事を入れるわけにもいかない。
 1月生まれのクニオ、2月生まれの僕とダイスケはまとめて12月体験会組となったわけだ。

 ただでさえ平日の昼間に学校を休んで外を出歩けるというのは胸躍ることであったが、それにもましてダンジョンで与えられるファーストスキルというのが楽しみだった。
 ファーストスキルとは、女神が個人に与えてくれる最大の恩恵といってもよい。
 もちろん、チップで手に入るスキルを主軸にしてダンジョンで戦うものはいくらでもいるが、それでもファーストスキルを主軸にしている人は多い。

「カナメはどんなスキルだと思う? やっぱり魔法系とか?」
「なんでもいいよ。父さんはダンジョンで、母さんは研究所で、どっちも進路としては魅力的だしね。クニオは?」
「俺はやっぱり、電撃かな」
「かっこええもんな、電撃の勇者」

 ダイスケが言うところの『電撃の勇者』というのは相模さがみヒロトという有名探索者だ。
 国内では最強と言われており、直接雷撃を腕から飛ばす攻撃の他に、拳銃型の道具で弾をレールガン的に飛ばす攻撃など、派手な立ち回りをするので人気だ。

 実は、ダンジョン内ではスマホやドローンどころか電子機器はすべて使えない。
 電機器ではないことに注意が必要だ。
 デジタル回路がうまく動かないらしく、電卓やデジタル腕時計も使用不能だ。

 一方でデジタル回路でないもの、例えば扇風機などはバッテリーを持ち込めば使える。
 そんなわけで、ダンジョン内の映像というのは、アナログの映写機で撮られた映像しか存在しない。
 外でデジタル処理したものがテレビで放送されたり、動画サイトに上がったりしているのだ。
 手間がかかるので猫も杓子も動画になるというわけではなく、探索者の動画も有名人のものしか出回っていない。
 その中で一番人気が相模ヒロトなのだ。
 片手に剣を持ち、もう片手に銃を持ち、素早い動きで多数の敵を仕留めていくその姿は実際かっこいい。

「俺はやっぱり大剣とかがええな」

 ダイスケは体が大きく、力持ちだ。
 学校の成績の方はあまり良くないので、将来はダンジョンの攻略を本業にしようと考えているらしい。
 結構いばらの道なんだけどなあ……

 ダンジョンの入口付近でブルーシートを敷いて座り込んでいるような、最低限の義務でダンジョンに来ている人は収入を得られない。
 積極的に先に進み、モンスターを倒し、多くのリソースを物品の形で持って帰る『探索者』になって初めてダンジョンは収入源になる。
 それもアルバイトや副業程度の収入でやるエンジョイ派、装備や準備を入念にする本業派がいて、本業派の中には少ないがスポーツ選手並みの高収入を得るものもいる。

 僕の父さんが本業派の一人だ。
 母さんも、ダンジョン関連の研究をしているからあえて本業派、ということもできるかもしれない。

 父はもともとダンジョン出現以前から専業の荷物運びポーターで、秘境の探検や各種調査などの大学チームに加わって活躍していたらしい。
 ダンジョン出現以降はより深部に潜るチームに荷物運び兼ナビゲーターとして参加していて、以前よりかなり収入が上がったそうだ。

 母は学者だ。
 専門は……なんだろう?
 もともと小さいころから天才で、アメリカの大学で複数の博士号を得た。
 それも日本でいうところの(向こうではそういう言い方はしないらしい)文系、理系を横断し多くの業績を上げているらしい。
 ダンジョン出現以降は、ダンジョンそれ自体の研究、探索装備や得られた物品の研究などで国立の研究所で忙しくしている。
 給料はそれほどでもないらしいが、付随して特許や知的財産がたくさん得られたため、実は大金持ちの端くれであった。

 なお、先ほどの電撃が欲しいといっていたクニオだが、彼は流行に敏感で、若干流されやすいところがある。
 夏終わりには、炎の魔法が良いといっていたし、1学期には確か双剣が良いとか言っていた覚えがある。
 だが、ともかく彼も目指すところは本業派ということになるんだろう。

「とにかく、少々外れスキルでもこの3人なら大丈夫さ」

 クニオが言うように、僕たち3人は最低でも高校3年間は一緒にダンジョンを攻略しようと約束しあっていた。

「そうだね。ファーストスキルは戦えるものしか出ないって聞いているし……」

 僕はあらかじめ調べてあったのでそう返す。
 よくダンジョンもの創作であるような、鑑定とかアイテムボックスとかは現実でも希少だし、テレポートなんていうのはまだ確認されていない。
 そうしたレアなスキルをいきなり最初に得られるというのが実際にあったらいいのだが、これらはどれも攻撃スキルではない。
 ファーストスキルは、少なくともその能力で敵を倒すことができるものしか得られないことが知られていた。
 だから、何のスキルを得られるにしても戦えないことはないし、実際ずっと研究所にこもっている母でさえ、ファーストスキルは槍術だったらしい。
 なお、ちょっと探索をしていた当時使っていた槍は、階段下の物置でほこりをかぶっている。

「そうだな、楽しみだ」
「盾とかだったらどうしよう……」

 僕たちは、そんなことを話しながら電車でダンジョンに向かうのだった。
 満員電車は通勤、通学の人でいっぱいだったが、僕たちがその中で浮いていたのは服装などより希望に満ちた明るい表情だったかもしれない。
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