電波少年と幽霊マネージャーの迷宮探索裏街道

春池 カイト

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1 電波少年の受難

ダンジョンに入る

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「ここかあ」
「でっけえなあ」
「怖そうな人が多いね」

 ダンジョンの入口は、危ないので子供は近づいてはいけないといわれている。
 だから、僕たちも実際に見るのは初めてだ。

 世の中にはたくさんのダンジョンがある。
 日本では重要ダンジョン2か所、一般ダンジョン28か所、野良ダンジョン153か所の場所がダンジョン担当の政府サイトで公開されている。
 そして野良ダンジョンを除く、重要・一般ダンジョンなので、入口に近寄ることはできない。
 その一方、野良ダンジョンなので、放置されている。

 女神が作ったダンジョンは安全で、スタンピードやらフラッドやらの、モンスターが外にあふれ出てくる災害は起きない。
 だから、危険なのはダンジョンから出てくるモンスターではない。ダンジョンから帰ってくる人間の方だ。

 ダンジョン内でたっぷりリソースを吸収した人間は、出てきた直後はダンジョン内と同じくスキルを使うことができる。
 だから、帰還した人間はリソースが大気中に放出されるまで30分の間、入口の施設で隔離され、待機を義務付けられている。
 リソースは別名魔力や魔素などと呼ばれており、ダンジョン内では派手な魔法でも、リソースが無い外では微弱な効果しか得られない。
 もちろん、全く使えなくなるわけではないが、例えばかの相模ヒロトでさえ、触ったらピリッとする程度の電撃になってしまうとのことだ。
 スタンガンどころかせいぜい真冬の静電気ぐらいの威力であるらしい。
 このため、ダンジョンが発生した混乱は、少なくとも町中には広がっていない。

 そんなわけで、重要・一般ダンジョン、これらを総称して管理ダンジョンというが、その周辺には帰還者を待機させるための隔離施設があるのが普通で、建物自体が事故を防ぐために頑丈に、そして大きく作られているのが普通だ。

 ここは東京の市部にある一般ダンジョンだ。
 東京には重要ダンジョンの一つがあり、一般ダンジョンも3つあるため訪問者は分散されているはずだが、それでもその施設は巨大だ。
 同じように見上げているのは同じく中3の体験会参加者だろうか、何人かそれらしいのが周りにもいる。

 僕たち3人は、その巨大さに比べて小さく、混雑する入口を抜け、広いロビーの中で『新規』と札が上がっている受付を見つけて近づく。
 首都圏で人口が多いためか、窓口も行列だったが、列の進みは早い。

「はい、次の方、書類を……」

 僕たちがあらかじめ準備をしていた書類を提出すると、受付の人は慣れた手つきで確認してハンコを押し、書類を返却してくれる。

「じゃあ、こっちでお待ちください、人数がそろったら係員がお連れします」

 そういわれて脇の待合室を示された。
 受付を終えたほとんどの人の進むダンジョンの入口と逆方向で、そちらには人影が少ない。
 ダンジョン入口は不思議な黒い平面で、遠くから見るそれは、異様な雰囲気を漂わせている。
 ひっきりなしに人が出入りするので、感覚がマヒしてしまうが、あれは危険なものだと僕はその時感じた。

「自由に入っていいわけじゃないのか」とクニオ。
「ほら、今日は奥まで行っちゃいけないし……」
「ゲーム機持ってきたらよかったなあ」などと不届きなことを言うのはダイスケだ。
「それは動かなくなるだけじゃないかな」
「あ、そやね」

 中では電子機器が動かない。
 当然スマホやゲーム機も動かない。
 それらは壊れるわけではないが機能しない。
 だけど、念のため電源は落とすようには言われる。

 3人でわいわい話しながら待合室に入ると、そこには同世代の先客が5人いた。
 皆私服なのでわかりにくいが間違いなく中三だろう。
 男子の2人組、そして女子の3人組だ。
 やはり中学生が自由に組を作ると男女別になってしまう。
 僕たちもそうなんだけどね。

 座って待っていると続々と体験会の参加者がやってくる。
 12月は1~3月の3か月分が集中するので、ほかの月に比べると多いからだろう。
 狭い待合室はたちまちいっぱいになった。

「はーい、じゃあ今から中に入りますので荷物を持ってついてきてください」

 女性職員の声が聞こえたので、僕たちは立ち上がり、皆に続いて部屋を出る。

「あんまり待たなかったね」
「せやな」

 そんなことをダイスケと話しながら、僕らはぞろぞろと行列をなしてダンジョン入口へと進む。
 おっと、突然列が止まって危うく前の人にぶつかりそうになってしまう。

「はい、じゃあ今から皆さんに守ってほしいことを説明します……」

 見ると先導してくれている職員の人が立ち止まっており、この場で説明を始めるようだった。

「……まず、係員の人、この腕章をしている人のいうことはちゃんと聞きましょう。いうことを聞かない人は、最悪の場合、強制的に外に出されて帰ってもらうことになります」

 一同の空気がちょっと変わる。
 もし追い出されたら大変だ。
 中3の体験会は今回が最終回になる。
 すると、今回を逃すと来年一学年下に交じっての体験会に混じることになる。
 それは恥ずかしいし、追い出されたことに対して親や学校からも怒られるだろう。
 絶対に避けたい事態だ。

「中に入ったら、専用の場所があります。これは義務で入って座っている人とは別の場所なので注意してください。近くにトイレもありますが、3つしかないので譲り合って仲良く利用してください。最後に、能力を得ても勝手に使用しないように。能力の使用はダンジョンの法律が適用されるため、ただのいたずらだと思っていても重い罰が課されることがあります。最悪は警察に捕まって牢屋に入ることになります」

 最後の言葉も脅しだろうが、雰囲気的にはみんなの顔色が変わったのでみんなの注意は引けたのだろう。
 僕はスキルについても両親に聞いたり調べたりしている。
 ファーストスキルが発動型だった場合は練習しないとなかなか発動しないし、武器の扱いなどはそのカテゴリーの武器を持っていない限り発動しない。
 敏捷や防御などは生身でも発動するだろうが、攻撃力が無いのでファーストスキルの対象外だ。
 だから、勝手にスキルを使用するというのはあんまり心配しないでいいのだ。

「はい、じゃあ行きます」

 一同に話が浸透したと思ったのか、その職員は僕たちを入口に連れていく。
 そして僕らは初めてダンジョンに入った。

「うわ、ほんとに洞窟だ」
「意外とあったかい」
「すげえ広いなあ」

 一歩入ると、そこは大きな空間だった。
 ダンジョンは女神が作った。
 だからいろいろと僕らに都合がよく作られており、この入り口の大広間もその一つだ。
 その広間の先に、奥に続く暗い入口が見える。
 そして、大広間にはいたるところに明かりが灯されており中の様子はよく見える。

 奥の道までまっすぐは踏み固められた土の道があるが、その左右にはブルーシートが一面に敷き詰められており多くの人が座り込んでいる。
 何をしているのかと見ると、読書したりカードゲームをしたり、中には横になって昼寝をしている人もいた。

 ダンジョン休の日は有給で4時間ここに滞在し、外で30分の待機時間。
 例えば朝8時から入れば正午過ぎには終わり、後は半日休日になる。みんな比較的喜んでダンジョンに来ているのだ。
 中には母さんのように、仕事が進まなくなるから嫌だと言っている少数派もいるが……

 僕らは紐で区切られて『体験会区画、部外者は入らないでください』と書かれたブルーシートに案内され、そこで各自場所をとって座り込むことになる。
 スペースは十分あるので、場所に困ることはない。

 僕たちの、いや僕の体験会は順調だったんだ。
 その時まではね……
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