電波少年と幽霊マネージャーの迷宮探索裏街道

春池 カイト

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2 幽霊少女は権限を求める

最弱モンスター

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 夜更かし……というか夜中に起こされたせいで、目覚めはほとんど昼だった。
 ちょっと寝苦しいなと感じて目が覚めて、起きるとそういう時間だった。

「ああ、朝は抜いて昼を多めに食べようか……」

 予定が狂ってしまったが、そもそも一人ぼっちの夏休みなのだ、予定はあってなきがごときものだ。
 ただ食事と睡眠と風呂さえスケジュールの核として押さえておけばそれでいい。
 まあ、今日は3つのうち2つがすでに崩れているわけだけど……

 室内にいられると落ち着かないし、休息も睡眠もいらないそうなので、エリス、と呼ぶことにしたエリス・ベルはダンジョン前のあの広場で待ってもらっている。
 一応午後だと伝えてあるので、とりあえずゆっくり食事をとる時間は残されているだろう。
 ということで着替えて布団をたたみ、いつもの宅配おかずと、朝昼分の倍量のごはんにレトルトカレーをかけてたっぷりと昼食をとることにした。

「さて、準備しよう」

 服装、装備はダンジョンに入るのに重要だ。
 さすがにTシャツと短パンで入るわけにもいかない。
 こういう時のために、というわけではないが冬に来ていた厚手の長袖シャツとジーパンを、そして布一枚でも違うだろうと帽子もかぶり、リュックを背負う。
 リュックにはちゃんと水筒や包帯、消毒液などを入れてある。
 そして手に持つ武器は昨日も持ち歩いていたナタにした。
 エリスは『こんなショボいダンジョンなんてバット一本あればなんとかなる』と言っていたが、残念ながら野球が趣味ではない僕はバットなんて持っていない。

 持ち物を準備して時計を見ると午後1時30分過ぎ。

「行こう」

 ちょっと緊張はするが、ようやく一歩を踏み出せそうなのだ。
 ここでためらう必要はない。


*****


『おお、ちゃんと来たね……あれ? バットじゃないの?』
「持ってないし家にないんだよ」
『そうかあ……ちょっとなあ……』
「え? だってこっちの方がいかにも武器で強そうでしょ?」
『いや、威力なんていらないのよ。最初の敵なんて弱いというよりもろいから、棒切れでもなんでも倒せるのよ。だけど、慣れてないから遠くから攻撃できて丈夫な棒が一番いいのよねえ』
「そうか、短すぎるってことか……」
『まあいいわ、スキルの方をメインで戦えばいいんだし……』

 ということで、このままいくことにした。

「あ……そうだ」
『何?』
「いや、このダンジョンって未発見の野良ダンジョンってことでいいんだよね?」
『……そうね……いえ、そうか、国によって仕組みが違うものね。えっと、確認だけど野良ダンジョンって上から3番目のランクのダンジョンよね?』
「そうだよ。重要ダンジョン、一般ダンジョン、野良ダンジョンの3つ」
『ああ、そうよね……えっと……ダンジョンって私たち女神が場所を決めているわけじゃないって知ってる?』
「それは初耳かも……」
『えっと、イメージとしては……そうね、異世界に大きな石を投げて、砕けて跳ね返ってきた場所にダンジョンができるっていう感じなのよ』
「ものすごく適当だね」

 そう返したら怒られた。
 いろいろ理由があってそうなっているらしいのだが、それぞれのダンジョンの規模と場所、そしてダンジョンの総数はランダムに決まってしまったとのことだ。

『……で、運営担当の女神たちとしては、当然大きいのに入ってもらった方が効率いいし評価が高いの。だから可能な限り大きいものに人が集まるように仕向けるわ』

 だから最上位、重要ダンジョンにしか女神は顔を見せないし、上位2つしか施設が無く、能力鑑定や各サービスを提供していない。

『それで、4つに分けた一番下のランクは塞ぐこともできないけど入ってほしくないから見えないようにしているのよ。女神の間でこのランクのダンジョンを『野良』っていっていたからちょっと混乱したわ』

 つまり、日本でいうところの特別、一般、野良の3つと、女神が野良といっていたもので4ランクの区分けがされていて、人間には上位3つだけを伝えているということのようだ。

『だから、楽勝よ。頑張ってね』
「わかったよ」

 そして僕はダンジョンの入口に入る。

「狭っ!」

 思わず叫んでしまった。
 入口広間にモンスターが出ないのはすべてのダンジョンで共通だ。
 偶然にも体験会で入ったダンジョンもここも洞窟型だったので、床が土ところどころ岩、壁や天井が岩というのも共通だった。
 だけど、大きさが全く違う。
 せいぜい家の居間ぐらいの大きさの広間の突き当りに通路が開いている。

『だからショボいって言ったじゃない』

 ふよふよと浮かんでついてきているエリスがいう。

「ここまでだとは思わなかったよ。確かにこれは……みんなが入っても意味なさそう」

 広間に座り込めるのもせいぜい10人やそこらだろう。
 女神が入口を見えなくした意味もわかる。

『さ、さっそく行きましょう?』
「明かりとかいらないの?」

 一応腰に下げるLEDランタンは持ってきている。父さんもいくつも持っていて実家の装備用にしている物置に置いてあったのを知っている。

『ああ、それぐらいは私が何とかするわ』

 言うと、エリスの目の前に光の玉が湧いて出てきた。

「じゃあ安心だね」

 僕らは通路に足を踏み入れた。

*****

 通路はしばらく行って広くなった。
 これなら横に2人並んで戦えるかもしれない。
 そしてこのダンジョンの特色というのも分かってきた。

「まさか墓地なのか……」
『そうね、かなり前衛的だけど……』

 目の前に現れた墓石を見てそう感想を言い合う。
 幅3mの通路に墓石があったら邪魔だろうと思うかもしれないがまったく邪魔ではない。
 なんせ、その墓石は天井から生えていたからだ。

「これって落ちてきたら死にそうだね……」
『この規模のダンジョンだったらトラップなんて気の利いたものは無いから心配しなくていいんじゃない?』

 だとしても何かの衝撃で、ということがあるかもしれないから、念のため墓石はよけて進もう。

「あ……」
『来たわね』

 音もなく現れたのは、人間の子供サイズの骨。
 いや、これはゴブリンのスケルトンということだろうか?
 ゴブリンは最弱のモンスターと思われるかもしれないが、立って歩き、手に道具を持つことができる時点で意外に手ごわい。少なくともちょっと奥にいるモンスターだと聞いている。
 とはいえ……

「どりゃ」

 僕は手に盛ったナタでゴブリンスケルトンを叩く。
 『刃筋とかどうでもいいから適当に振り回してたらいい』とエリスが言っていたから、適当に振っただけだが、首尾よくその一撃は骨をとらえ、敵はそのまま吹っ飛ばされて、壁にガシャンとぶつかる。
 僕は、そのままナタを前に掲げて、敵が起き上がってくるのを待っていた。
 待っていた……
 ……
 ……あれ?

「もう終わり?」
『だから言ったじゃない。ショボいって』

 ゴブリンスケルトンは起き上がる気配がなく、そのまま骨として転がっていた。
 こうして、初戦闘は盛り上がりもなく一瞬で終わったのだ。
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