17 / 57
2 幽霊少女は権限を求める
ダンジョンマスター
しおりを挟む
「うぅ……」
目覚めたときには僕は座っていた。
ボスを倒した直後は、うつぶせで寝ていたはずだが、そうなると誰かが移動させてくれたことになる。
『ああ、起きたわね』
聞きなれたエリスの声。
だけど、その声に重なってなんかカラカラと音がする。
「僕はどれぐらい寝てた……って、うわぁ!」
覗き込んでくるのが骸骨だと普通そうなるでしょ?
『しょうがないじゃない……私は憑依してるだけなんだから……』
さすがに革の鎧や剣は持っていないが、さっきまで死闘を繰り広げた相手だ。今は全身をローブ? みたいなもので覆っているが、頭はむき出しだ。
「……まあ、危険が無いならいいけど、これからずっとそのまま?」
『安心して、ちゃんと元に戻れるわよ。今は久しぶりに動く身体を楽しんでいるところ』
「そうなんだ……って、ちゃんとダンジョンマスターの力は使えるようになったの?」
『ふふん、完璧よ。当時設定した機能は隠しメニュー含め全部使えてるわよ』
隠しメニュー? なんか怪しい言葉が聞こえてきた気がするが、それはさておき。
「じゃあ帰れる? さすがにボロボロだし、汚れているから帰りたいんだけど……」
『おっけー、じゃあダンジョンの構造を変えるね。趣味の悪い墓石とか卒塔婆? とか全部取っ払って……えいっ』
するとそとからゴゴゴゴという地響きがしばらく続き、そして収まった。
『えっと、今日は疲れていると思うから、また明日にでも訪ねてくれると嬉しい。その時に今後のことを話しましょう』
「うん、じゃあね」
疲れ切った体で何とか立ち上がって、リュックとナタを持ってボス部屋入口の扉を出る。確かにダンジョンマスターの力が働いたのだろう、そこはすでに入口の狭い広間だった。もちろん、敵は一体もいない。
僕はそのままダンジョンの外へ出る。
外はもう真っ暗だった。
僕は力の入らない指で何とか苦労しながらリュックからLEDランタンを取り出し、それを掲げながら夜の山道を進む。
「ダンジョン探索のために持ってきたはずなんだけどな……」
ここまで出番がなかった灯りだったが、使い道があって良かった。
だけど、たとえ灯りがあっても夜の山道は昼と違って見えて混乱する。
なんとか、方向を覚えてたおかげで家の裏までたどり着いた。
「シャワーでいいか……」
このまま寝るというのは考えられない。
だけど湯舟に入るとそのまま意識がなくなりそうだ。
僕は半ば無意識に服を脱ぎ、シャワーを浴びる、今日一日、主にボスにやられたところが内出血で黒くなっている。
シャワーを浴びて気づいたが擦り傷も結構あるようで、全身ひりひりする。
結局、敷布団を広げたところで限界がきて、そのまま倒れこんだ。
夏だし、掛布団が無くてもいいだろう……
そんなことを思いながら、僕はようやく一日を終わらせることができた。
*****
「いててっ……」
やはり全身痛む。
でも、起き上がらないわけにはいかない。
外は明るくなっているが、まだ普段起きる時刻ではない。夏の夜明けは早いのだ。
とりあえず食事と……あとは一度ゆっくり風呂に入るか……
考えてみれば昨日の昼以降はまともにご飯を食べていない。
ご飯は炊いていないから……まあ買い置きのカップ麺でいいか……
なんか連日生活が乱れているな。
そんなことを思いながら、僕は動き出す。
「そういえば多少は強くなってるのかな……」
湯船につかりながら、ふと気になる。
いわゆるありがちなステータス表示というのは現実にはないし、経験値が一定に達すればレベルアップなんていうのもない。
だけど、確かにダンジョンで戦うことで強くなるのは確かで、それは普通に体を鍛えたのとは段違いだということが知られている。
そしてここでもダンジョン内、ダンジョンを出て直後、ダンジョンを出てリソースが抜け切った後で差がある。
その結果一般社会では、超人的な力がある探索者による犯罪というのはあまり問題にはなっていない。スポーツにしても、全員がダンジョンに入ることが義務付けられているのだから、探索による能力向上はトレーニングの一環として扱われ、大会参加資格でも区別はない。
ぐっと力こぶを作ってみる。
できなかった。
「ま、もともと筋トレとかしてなかったしな……」
でも、今回で終わりじゃない。
僕はスキルの制御のために、もっとダンジョンで修業しなくちゃいけない。
しばらくは……両親がそろって来るお盆休みまでの2週間ほどは、ダンジョンに集中しよう。
*****
『いらっしゃい』
「全然違うね」
一通り落ち着いてから裏山のダンジョンに足を踏み入れると、そこは雰囲気が一変していた。
最初の広間はそのまま、そしてそこに直接ボス部屋の扉があるのも昨日帰るときのままだけど、ボス部屋の中は部屋が四角になっていて真ん中にテーブルがあり、椅子やソファが並べられている。
『まだまだね……リソースに余りがないから装飾までは手が回らなかったし、私自身は睡眠も食事も必要ないから妥協したのよ』
「そういえば、その姿でいても大丈夫なの? 勝手にボスが復活したりしない?」
彼女は幽霊のままソファに寝そべっていたのだ。
『モンスター管理の権限自体を私が持っているから問題ないわ。だからほら……』
彼女が指を振ると煙の中から小さな影が出現する。
昨日見慣れたゴブリンスケルトンだ。
だが、今は戦闘態勢ではなく突っ立っている。
『自由に出したり消したりできるのよ』
彼女の言葉と共に、スケルトンは消え去る。
僕は勧められるままに椅子に座る。
そしてふよっと浮き上がったエリスはその体面に座る。
『改めて、ありがとう。最初の一歩だけど、ダンジョンマスターの権限が得られたのはカナメのおかげよ。本当はもっと安全にやってほしかったけどね』
「それは……そうだね。自分でもあの時はちょっとおかしかったかもしれない」
『そこは、まあ私も注意するわよ。それで……私ができることになったことがね』
エリスの説明によると、このダンジョン内では内部空間や環境をある程度変えられるらしい。そして、ダンジョンマスターに乗り移って物理的な力も発揮できるが、これもこのダンジョン内限定だそうだ。
『結局リソース次第のところがあるのよね。だから宝物をカナメに出してあげたいと思っても、元手がないの。ごめんね……あ、でも能力判定ぐらいはしてあげられるかも』
「本当? ぜひお願い」
そして彼女が目を閉じて何やら念じると、半透明のステータスボードが僕の前に……現れることはなかった。
『紙とペンある?』
超アナログだった。
目覚めたときには僕は座っていた。
ボスを倒した直後は、うつぶせで寝ていたはずだが、そうなると誰かが移動させてくれたことになる。
『ああ、起きたわね』
聞きなれたエリスの声。
だけど、その声に重なってなんかカラカラと音がする。
「僕はどれぐらい寝てた……って、うわぁ!」
覗き込んでくるのが骸骨だと普通そうなるでしょ?
『しょうがないじゃない……私は憑依してるだけなんだから……』
さすがに革の鎧や剣は持っていないが、さっきまで死闘を繰り広げた相手だ。今は全身をローブ? みたいなもので覆っているが、頭はむき出しだ。
「……まあ、危険が無いならいいけど、これからずっとそのまま?」
『安心して、ちゃんと元に戻れるわよ。今は久しぶりに動く身体を楽しんでいるところ』
「そうなんだ……って、ちゃんとダンジョンマスターの力は使えるようになったの?」
『ふふん、完璧よ。当時設定した機能は隠しメニュー含め全部使えてるわよ』
隠しメニュー? なんか怪しい言葉が聞こえてきた気がするが、それはさておき。
「じゃあ帰れる? さすがにボロボロだし、汚れているから帰りたいんだけど……」
『おっけー、じゃあダンジョンの構造を変えるね。趣味の悪い墓石とか卒塔婆? とか全部取っ払って……えいっ』
するとそとからゴゴゴゴという地響きがしばらく続き、そして収まった。
『えっと、今日は疲れていると思うから、また明日にでも訪ねてくれると嬉しい。その時に今後のことを話しましょう』
「うん、じゃあね」
疲れ切った体で何とか立ち上がって、リュックとナタを持ってボス部屋入口の扉を出る。確かにダンジョンマスターの力が働いたのだろう、そこはすでに入口の狭い広間だった。もちろん、敵は一体もいない。
僕はそのままダンジョンの外へ出る。
外はもう真っ暗だった。
僕は力の入らない指で何とか苦労しながらリュックからLEDランタンを取り出し、それを掲げながら夜の山道を進む。
「ダンジョン探索のために持ってきたはずなんだけどな……」
ここまで出番がなかった灯りだったが、使い道があって良かった。
だけど、たとえ灯りがあっても夜の山道は昼と違って見えて混乱する。
なんとか、方向を覚えてたおかげで家の裏までたどり着いた。
「シャワーでいいか……」
このまま寝るというのは考えられない。
だけど湯舟に入るとそのまま意識がなくなりそうだ。
僕は半ば無意識に服を脱ぎ、シャワーを浴びる、今日一日、主にボスにやられたところが内出血で黒くなっている。
シャワーを浴びて気づいたが擦り傷も結構あるようで、全身ひりひりする。
結局、敷布団を広げたところで限界がきて、そのまま倒れこんだ。
夏だし、掛布団が無くてもいいだろう……
そんなことを思いながら、僕はようやく一日を終わらせることができた。
*****
「いててっ……」
やはり全身痛む。
でも、起き上がらないわけにはいかない。
外は明るくなっているが、まだ普段起きる時刻ではない。夏の夜明けは早いのだ。
とりあえず食事と……あとは一度ゆっくり風呂に入るか……
考えてみれば昨日の昼以降はまともにご飯を食べていない。
ご飯は炊いていないから……まあ買い置きのカップ麺でいいか……
なんか連日生活が乱れているな。
そんなことを思いながら、僕は動き出す。
「そういえば多少は強くなってるのかな……」
湯船につかりながら、ふと気になる。
いわゆるありがちなステータス表示というのは現実にはないし、経験値が一定に達すればレベルアップなんていうのもない。
だけど、確かにダンジョンで戦うことで強くなるのは確かで、それは普通に体を鍛えたのとは段違いだということが知られている。
そしてここでもダンジョン内、ダンジョンを出て直後、ダンジョンを出てリソースが抜け切った後で差がある。
その結果一般社会では、超人的な力がある探索者による犯罪というのはあまり問題にはなっていない。スポーツにしても、全員がダンジョンに入ることが義務付けられているのだから、探索による能力向上はトレーニングの一環として扱われ、大会参加資格でも区別はない。
ぐっと力こぶを作ってみる。
できなかった。
「ま、もともと筋トレとかしてなかったしな……」
でも、今回で終わりじゃない。
僕はスキルの制御のために、もっとダンジョンで修業しなくちゃいけない。
しばらくは……両親がそろって来るお盆休みまでの2週間ほどは、ダンジョンに集中しよう。
*****
『いらっしゃい』
「全然違うね」
一通り落ち着いてから裏山のダンジョンに足を踏み入れると、そこは雰囲気が一変していた。
最初の広間はそのまま、そしてそこに直接ボス部屋の扉があるのも昨日帰るときのままだけど、ボス部屋の中は部屋が四角になっていて真ん中にテーブルがあり、椅子やソファが並べられている。
『まだまだね……リソースに余りがないから装飾までは手が回らなかったし、私自身は睡眠も食事も必要ないから妥協したのよ』
「そういえば、その姿でいても大丈夫なの? 勝手にボスが復活したりしない?」
彼女は幽霊のままソファに寝そべっていたのだ。
『モンスター管理の権限自体を私が持っているから問題ないわ。だからほら……』
彼女が指を振ると煙の中から小さな影が出現する。
昨日見慣れたゴブリンスケルトンだ。
だが、今は戦闘態勢ではなく突っ立っている。
『自由に出したり消したりできるのよ』
彼女の言葉と共に、スケルトンは消え去る。
僕は勧められるままに椅子に座る。
そしてふよっと浮き上がったエリスはその体面に座る。
『改めて、ありがとう。最初の一歩だけど、ダンジョンマスターの権限が得られたのはカナメのおかげよ。本当はもっと安全にやってほしかったけどね』
「それは……そうだね。自分でもあの時はちょっとおかしかったかもしれない」
『そこは、まあ私も注意するわよ。それで……私ができることになったことがね』
エリスの説明によると、このダンジョン内では内部空間や環境をある程度変えられるらしい。そして、ダンジョンマスターに乗り移って物理的な力も発揮できるが、これもこのダンジョン内限定だそうだ。
『結局リソース次第のところがあるのよね。だから宝物をカナメに出してあげたいと思っても、元手がないの。ごめんね……あ、でも能力判定ぐらいはしてあげられるかも』
「本当? ぜひお願い」
そして彼女が目を閉じて何やら念じると、半透明のステータスボードが僕の前に……現れることはなかった。
『紙とペンある?』
超アナログだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる