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3 騒がしく始まり、静かに終わる
静かな夜
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「すごい、久しぶりにこんな静かなのを感じたかも……」
「良かったわね……本当に……」
エリスも喜んでくれるが、僕のはしゃぎ方はいっそう激しいもので、近くに人がいたらびっくりしたかもしれない。
あのあとすぐ外に出てきたのだが、微妙に聴覚にかかるぐらいのAM放送の雑音すらなくなっている。
もちろん夏の森の中だから結構音はあるのだが、うるさいはずの虫の音も今は極上の音楽のようだった。
「これで! ……いや、そうだね。ごめん、エリスの方はまだまだだもんね。うん、心配しないで、ちゃんと最後まで僕はエリスに付き合うから」
「ふふ、ありがとう。でもいいのよ? 町に戻っても別に私の手伝いができなくなるわけじゃないんでしょう?」
「そうだけど……とりあえずしばらくこのままかな。いきなり治ったって言っても理由を説明できないし、それに他の二人はこの方法使えないでしょ?」
「そうね、私もこれを他の人に提供する予定はないわ」
エリスは僕の左手に装着されているATSMATS端末に目をやって断言する。
「とにかく帰りましょ」
「そうだね」
僕は来る時と全然違う気楽な気分でマウンテンバイクをこぎ出すのだった。
*****
「ああ、やっぱり」
僕はピカピカ光る留守番電話のサインを見て、電話があったことを知る。
聞いてみると母さんだ。
何回もかかっているのですぐに電話を掛ける。
「お疲れ……どう? うまくごまかせた?」
「うん、なんとか……」
返す声に元気がないのは、大変だったのと、理由として仮病を使ったのが残っていたのかもしれない。
一応納得してもらえたが、丸一日連絡がつかなかったことにかなり心配された。
幸いにも、無断外泊するような悪い子ではないという信用と、スキルの問題で外に出歩けるような状況ではないということでなんとかなった。
「でも、今後はどうしようか……」
「それなら昼間に出かければいいじゃない」
「あ、そうか」
苦労して夜を移動時間にしているのは、スキルの問題だった。
それが解消された今となっては、昼間の活動に支障はない。
「じゃあ、次は数日空けて、例のダンジョン?」
「そうね、できればお願いしたい」
「でも、移動するダンジョンなんでしょ? うまく見つけられるの?」
「大丈夫、今も場所は把握できているわ」
「なら、大丈夫だね……あとは……とりあえず明日からでいいから、裏のダンジョン貸して」
「ああ、スキルの練習ね」
敵を倒さなければそれほどスキルの数値は伸びないが、この間の飛ぶ氷玉はぜひとも習得しておきたい。今後数日かけて練習するつもりだった。
今日はもう夜なので明日からの方がいいだろう。
全然眠くないけど。
「丸一日寝てたもんなあ……」
「ごめんね、すっかり忘れていたの」
「まあ、エリスが持ってたものじゃないものね」
これをくれたマリアさんに対しても、僕は感謝しかない。
「そういえば、マリアさんも表に出ている女神様じゃないよね?」
「ええ、彼女は単独で動いていろいろなところの手伝いをしているの。だから顔は広いわよ」
「へえ、じゃあエリスの情報を誰かに話したりとかは……」
「そのあたりは隠してもらうように言ってある。心配の必要はないわ」
「大丈夫?」
「大丈夫」
信用できる? という意味で言った言葉に、エリスは断言で返したので、信用できる人(女神)なのだろう。
僕はそれ以上心配するのはやめた。どうせ僕にはどうしようもないことだ。
「それより、カナメの方のスケジュールはどうするつもり? いずれ町に戻るんでしょ?」
「うん……今のところ、この間みんなと話したのと大筋でずれないようにしようと思ってる。だから冬まではこのままで、冬になったら都会じゃなければ大丈夫ということで下の集落ぐらいまでは足を延ばせることにして、来年春で郊外ぐらい、で元の家なら来年の夏明けぐらいに変えれるようにしようかなって思ってる」
「ずいぶんゆっくりね」
「そんなものでしょ? 本来だと多分高校3年かかってもあっちの家に帰れるかどうかわからないよ」
「そうか……じゃあ、とりあえずあと1年は私と二人っきりね」
「って、なんでそこでこうもたれかかってくるの⁉ なに、誘惑したいの?」
「してる」
「くっ、さすが年齢なりに……」
「年齢なりに?」
腕をつかんでいる手に力が入る。
「痛いっ、痛いって……」
「……まあいいわ」
こっちとしてはそういうからかいは勘弁してほしい。
僕としては、確かにエリスのように近しい女性というのは初めてだったりするし、からかわれているとわかっていてもドキドキしてしまう。
実際に、天狗少女の素顔になったときなんかはかわいいと思うし、幽霊の姿でもあれが生身なら平静ではいられないだろう。
だから、僕も恥ずかしくてつい年齢ネタで返してしまうのだが、そうすると手痛い反撃が帰ってきて、僕は痛い目に合う。
どう対応すればいいんだろうね……
「そういえば自転車以外の交通手段はないんだっけ?」
「無理だよ。原付だって16歳からだし、あと半年もある」
それに高校生がバイクというのはいろいろ難しいところがある。
幸い学校は通信制なのでそちらからの禁止はないが、親を説得しないといけないし、バイクも高い。
確かに今の生活をしていると欲しいが、町中に戻ったらあんまり必要とも思えないし……
「そうか、じゃあ私の方が先ね」
「私の方? 先? なんのこと?」
「ふふ、楽しみにしてなさい」
なんだかわからないけど、彼女が交通手段の当てがあるということなのだろうか……
話はここで終わり、眠れないのがわかっていても、とりあえず深夜なので僕は休むことにした。
エリスは、今日はダンジョンに戻るらしい。
久しぶりに静かな夜だ。
僕は虫の声に耳を澄ませながら、目を閉じて横になる。
帰りも自転車を二時間こいだ疲労が良かったのか、それともあの気を失っていた時間は睡眠扱いではないのか、それともほかの理由かわからないが、意外に早く眠気がやってきた。
おやすみなさい。
「良かったわね……本当に……」
エリスも喜んでくれるが、僕のはしゃぎ方はいっそう激しいもので、近くに人がいたらびっくりしたかもしれない。
あのあとすぐ外に出てきたのだが、微妙に聴覚にかかるぐらいのAM放送の雑音すらなくなっている。
もちろん夏の森の中だから結構音はあるのだが、うるさいはずの虫の音も今は極上の音楽のようだった。
「これで! ……いや、そうだね。ごめん、エリスの方はまだまだだもんね。うん、心配しないで、ちゃんと最後まで僕はエリスに付き合うから」
「ふふ、ありがとう。でもいいのよ? 町に戻っても別に私の手伝いができなくなるわけじゃないんでしょう?」
「そうだけど……とりあえずしばらくこのままかな。いきなり治ったって言っても理由を説明できないし、それに他の二人はこの方法使えないでしょ?」
「そうね、私もこれを他の人に提供する予定はないわ」
エリスは僕の左手に装着されているATSMATS端末に目をやって断言する。
「とにかく帰りましょ」
「そうだね」
僕は来る時と全然違う気楽な気分でマウンテンバイクをこぎ出すのだった。
*****
「ああ、やっぱり」
僕はピカピカ光る留守番電話のサインを見て、電話があったことを知る。
聞いてみると母さんだ。
何回もかかっているのですぐに電話を掛ける。
「お疲れ……どう? うまくごまかせた?」
「うん、なんとか……」
返す声に元気がないのは、大変だったのと、理由として仮病を使ったのが残っていたのかもしれない。
一応納得してもらえたが、丸一日連絡がつかなかったことにかなり心配された。
幸いにも、無断外泊するような悪い子ではないという信用と、スキルの問題で外に出歩けるような状況ではないということでなんとかなった。
「でも、今後はどうしようか……」
「それなら昼間に出かければいいじゃない」
「あ、そうか」
苦労して夜を移動時間にしているのは、スキルの問題だった。
それが解消された今となっては、昼間の活動に支障はない。
「じゃあ、次は数日空けて、例のダンジョン?」
「そうね、できればお願いしたい」
「でも、移動するダンジョンなんでしょ? うまく見つけられるの?」
「大丈夫、今も場所は把握できているわ」
「なら、大丈夫だね……あとは……とりあえず明日からでいいから、裏のダンジョン貸して」
「ああ、スキルの練習ね」
敵を倒さなければそれほどスキルの数値は伸びないが、この間の飛ぶ氷玉はぜひとも習得しておきたい。今後数日かけて練習するつもりだった。
今日はもう夜なので明日からの方がいいだろう。
全然眠くないけど。
「丸一日寝てたもんなあ……」
「ごめんね、すっかり忘れていたの」
「まあ、エリスが持ってたものじゃないものね」
これをくれたマリアさんに対しても、僕は感謝しかない。
「そういえば、マリアさんも表に出ている女神様じゃないよね?」
「ええ、彼女は単独で動いていろいろなところの手伝いをしているの。だから顔は広いわよ」
「へえ、じゃあエリスの情報を誰かに話したりとかは……」
「そのあたりは隠してもらうように言ってある。心配の必要はないわ」
「大丈夫?」
「大丈夫」
信用できる? という意味で言った言葉に、エリスは断言で返したので、信用できる人(女神)なのだろう。
僕はそれ以上心配するのはやめた。どうせ僕にはどうしようもないことだ。
「それより、カナメの方のスケジュールはどうするつもり? いずれ町に戻るんでしょ?」
「うん……今のところ、この間みんなと話したのと大筋でずれないようにしようと思ってる。だから冬まではこのままで、冬になったら都会じゃなければ大丈夫ということで下の集落ぐらいまでは足を延ばせることにして、来年春で郊外ぐらい、で元の家なら来年の夏明けぐらいに変えれるようにしようかなって思ってる」
「ずいぶんゆっくりね」
「そんなものでしょ? 本来だと多分高校3年かかってもあっちの家に帰れるかどうかわからないよ」
「そうか……じゃあ、とりあえずあと1年は私と二人っきりね」
「って、なんでそこでこうもたれかかってくるの⁉ なに、誘惑したいの?」
「してる」
「くっ、さすが年齢なりに……」
「年齢なりに?」
腕をつかんでいる手に力が入る。
「痛いっ、痛いって……」
「……まあいいわ」
こっちとしてはそういうからかいは勘弁してほしい。
僕としては、確かにエリスのように近しい女性というのは初めてだったりするし、からかわれているとわかっていてもドキドキしてしまう。
実際に、天狗少女の素顔になったときなんかはかわいいと思うし、幽霊の姿でもあれが生身なら平静ではいられないだろう。
だから、僕も恥ずかしくてつい年齢ネタで返してしまうのだが、そうすると手痛い反撃が帰ってきて、僕は痛い目に合う。
どう対応すればいいんだろうね……
「そういえば自転車以外の交通手段はないんだっけ?」
「無理だよ。原付だって16歳からだし、あと半年もある」
それに高校生がバイクというのはいろいろ難しいところがある。
幸い学校は通信制なのでそちらからの禁止はないが、親を説得しないといけないし、バイクも高い。
確かに今の生活をしていると欲しいが、町中に戻ったらあんまり必要とも思えないし……
「そうか、じゃあ私の方が先ね」
「私の方? 先? なんのこと?」
「ふふ、楽しみにしてなさい」
なんだかわからないけど、彼女が交通手段の当てがあるということなのだろうか……
話はここで終わり、眠れないのがわかっていても、とりあえず深夜なので僕は休むことにした。
エリスは、今日はダンジョンに戻るらしい。
久しぶりに静かな夜だ。
僕は虫の声に耳を澄ませながら、目を閉じて横になる。
帰りも自転車を二時間こいだ疲労が良かったのか、それともあの気を失っていた時間は睡眠扱いではないのか、それともほかの理由かわからないが、意外に早く眠気がやってきた。
おやすみなさい。
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