電波少年と幽霊マネージャーの迷宮探索裏街道

春池 カイト

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4 少年は電波となり、少女は翼を手に入れる

ヴィクトワール

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「ああ、これはすごいなあ」

 それから、僕は痛む部分をどんどんほどき、そしてつむぐことを繰り返した。
 けがをしている部分はそのままなのかといえばそうではなく、傷は跡形もなくなっている。

「まさかそんな風になるなんて……」

 幽霊から天狗に変わったエリスに手伝ってもらいながら、僕は作業着を脱いでTシャツと短パンになっていた。
 腕や足、肩などに多くの傷があったはずだが、それらのうち主だった傷についてはすでに消えている。
 細かい擦り傷などについては面倒だったのでそのままにしてある。ちょっとひりひりするが、わざわざ治療することはないだろう。
 エリスとしては、普通に回復系の効果になると思っていたようだ。
 なにせもともとダンジョンモンスターを一から作り出せるほどなのだから当然だろう。
 今の彼女は力を失っており、支配下にない僕の体はその対象外だったようだが、もしかすると彼女の詠唱に「しもべ」という部分があったことから、今の僕は彼女の支配下になったのかもしれない。
 ちょっと聞くのが怖いな……

 それはともかく、なぜかその加護は僕のファーストスキルである『電波』を進化させる方向に作用したようだった。
 確かに、『ほどく』はともかく『つむぐ』の方は自分の肉体を作り出しているといえるから、彼女の力がかかわっているのには違いない。
 そして、『ほどく』つまり肉体を電磁波に変化させる方は、もしかすると電波スキルの応用として将来発現していたかもしれない。
 ただ、その場合に電磁波になった体を元に戻せるかどうかはわからない。
 例えば肉体変化でいわゆる獣人の姿になった探索者がいるが、彼は元に戻れなくて苦しんでいるという話を父さんから聞いている。
 その意味では、スキルと加護が融合した結果、ということなんだろう。

「……ちょっと疲れるね。でもいい効果で助かった」
「言いたくないけど、奇跡ってあるのね……」
「エリスがそれを言う?」
「だから言いたくなかったのよ」

 残念ながら、衣服に着いた血や空いた穴はそのまま、右手のグローブは指が1本分消えてしまったが、体の傷は問題ないレベルまで治療できた。
 これなら動ける……けど……血まみれの恰好で自転車は嫌だなあ……
 Tシャツや短パンにも作業服を通して血がにじんでいる。
 警察以外でも人に会いたくない。

「ふふん、それじゃ私の番ね」

 エリスは気を取り直したようで、起き上がった僕の前で出した椅子に座る。

「なんか移動系だっけ?」
「それ以上よ。まあ見てて……」

 言うと、彼女は手をかざし、中空にメニュー画面のような半透明の表示を出す。

「初めて見た」
「あなたの端末と同じようなものよ。今回はちゃんと見せてあげようと思って……」

 そして彼女はベッドの、僕の腰かけている隣に座る。
 一応元けが人であることを考慮してか、今日はべたべた引っ付いてこない。

「……まず、今までのダンジョン……裏山、墓地、森、神社とダム……、よしっ、充分なリソースはあるね。これらを閉鎖しちゃう」
「閉鎖? できたの?」
「リソースがこっちの世界に流れ込む口がないとちょっと面倒なんだけどね、大丈夫。その閉鎖したリソースの流れ先をこのダンジョンに接続っと……」

 つまり他のダンジョン5つのリソースをここに集中させるということで、そうなればここで使えるリソースが増えるということだろう。

「……そして、その力を使ってこのダンジョンをもっと自由に移動させられるように構造変更……」

 エリスの言葉と共に、暗かった空が晴れ、遠くからマストがぐぐぐっと近づいてきて、そして……

「船? 本物の……」

 僕は思わず立ち上がり、舵輪のそばの柵まで行って全体を見回す。
 もちろんモンスターは一匹もいないが、大砲はあるしマストも前に2本、そして今いる船尾の高くなっているところに1本。そして、これまでのようなダンジョンとしての構造ではないいろいろな道具や設備が存在している。

「ふふ、なかなかの再現度でしょう?」

 いつの間にか付いてきていたエリスが自慢げに言う。

「すごいね、本格的だ。これで移動を?」
「そうね、実は女神たちも同じようなのを持っているのよ。ダンジョン空母エンタープライズ。これはそれの真似をしただけよ」
「エンタープライズってアメリカの? 宇宙とか行く?」
「宇宙には行けないわね。でも、船としては世界最大でスペースもたっぷりあるから女神たちが便利に使っているわね」
「へえ、じゃあこの船にもモデルがあるの? 大和……は違うと思うけど……」

 日本は鎖国していたのでこんな木造帆船はなかったはずだ。大和は第二次世界大戦時代だから全体が鉄でできている。

「もちろんあるわよ。フランス海軍一等級戦列艦ヴィクトワールね」
「へえ、実際にそんなのがあるんだね……」
「ないわよ」
「え?」
「同名の船はいくつもあるんだけどね。これは、トラファルガーの戦いでイギリスのネルソンを打ち破ったヴィルヌーヴ提督が、ネルソンの乗艦ヴィクトリー号を拿捕して名前をフランス風にして乗艦にし、ナポレオンの世界征服の原動力となったという設定の船なの」

 彼女がおかしなことを言っているのはわかる。
 ナポレオンは世界を征服していない。
 フランスの仮想戦記という奴だろうか?

「ということで、この船の構造は今もイギリスに保存されているヴィクトリー号と同じってことね。やっぱりエンタープライズに対抗するにはこれぐらいのビッグネームを持ってこないと……」
「戦うの?」
「まさか、ボロ負けするに決まってるじゃない。気分よ」
「そうだよね」
「ともかく、これでこのダンジョンはある程度移動できるようになったわ」
「どれぐらい?」
「そうね、半径250kmというところかしら」

 それだと、東京は圏内だ。大阪は……ちょっと微妙か?

「すごいね。じゃあ東京には行き放題?」
「うーん、移動に時間がかかるからね」
「でも歩くよりはましでしょ?」
「えっと、12ktだから……時速22kmぐらい?」
「それじゃ原付より遅いよ」
「でも直線を進めるからその分は早く着くわよ」

 ともかく、自宅に帰るのには不足はないようだ。
 僕たちは、船になったことで揺れるようになった甲板上で、のんびり移動時間を過ごすのだった。
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