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4 少年は電波となり、少女は翼を手に入れる
そして彼らは裏を行く
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「なんとかたどり着けた……」
「別にカナメは座ってただけでしょ?」
自分は船の行き先を決めていた、と主張するエリスだったが、そういう彼女も隣で座っていたじゃないか。
そう言ってみるが、彼女は聞こえないふりをして移動する。
「うん、ちゃんと閉じているね」
今の場所は例の裏山の開けた場所。
もともとの我が家の先祖代々の墓があった場所だ。
そして、彼女が確認したのはここの草むらにあったはずのダンジョンの入口だ。
「普段はここに開いておくつもり?」
「そうね、それがいいと思うわ。今まで見つかっていなかったわけだし……」
今、ダンジョンの入口は空中にあるが、その入口から縄梯子が下りている。
縦は縄で横は板の構造だったので、横板に捕まれば何とか僕でもここまで下りてくることができた。
日は傾いており、木々のただなかであるこの場は足元が見えないほどではないが暗い。
僕たちは足元が見えなくなる前に家に急ぐことにした。
*****
「うえっ、これは捨てなきゃだめかな……」
とりあえず服を脱ぎ、シャワーを浴びて体の汚れや残った血を洗い流す。
タオルで体を拭きながら、僕は着ていた服を眺める。
「少なくとも洗濯機には入れたくない気分」
僕がここに来る時に両親が買ったものなので、まだ半年。
衣類の汚れより最新式の洗濯機の汚れの方が気になってしまう。
「明日庭で洗おうか……」
「血は早く洗わないと落ちにくいわよ」
「何? 何で入ってきてるの?」
僕は慌ててバスタオルで下半身を隠す。
おとなしくリビングでテレビでも見てると思ったんだけど……
「いいじゃない、減るもんじゃないし」
「減るよ! わかんないけどなんか減るよ!」
「え? 減るの? あ、つまりカナメは見られただけで射せ……」
「何下品なこと言ってんの? ともかく出てって!」
人のことを見られて興奮する変態みたいな言い方をするな!
僕は彼女を無効に向かせてそのまま押し出して洗面所の引き戸を閉める。
再び入ってくる様子が無いことを確認して、僕は洗面所兼脱衣所(洗濯機もある)の床に散らばった衣類を風呂に放り投げる。
本人の趣味はともかく、早く血を洗い流す必要があるのは本当だろう。
僕は、シャワーから再びお湯を出し、風呂で衣服に付いた血を洗い流す作業を始めた。
*****
「おつかれー」
僕が満足いくぐらい血を落とした衣類を洗濯機に放り込んで居間に戻ると、エリスはテレビでネット配信の映画を見ていた。
「それは、エンタープライズじゃないよ」
「いいのよ、でっかい軍艦という点では大して違わないわ」
画面内では某最強のコックが外と通信しようとしているところだった。
どうも、彼女は実利というより単なる娯楽としてみているようだった。
隣に腰を下ろすと僕も一緒に映画を見る。
「そういえば……」
「何?」
「次はどうするの?」
「そうね……」
彼女はちょっと考えて続けた。
「……本当は、次々にダンジョンをクリアしてもらおうと思っていたんだけど、ちょっと考え直したの」
「どうして?」
「あなたのスキル」
「ああ……確かに、ちょっと練習しないといけない気は僕もしている」
「多分、今世界で見ても相当に希少な力をあなたは得たわ。だから、それがどういう風にあなた……いえ、私たちに影響するか……私の方でも考える必要がある」
「そうかあ……」
とはいえ、僕たちの戦いや関係はこの先も続くだろう。
一段落した感じはあるが、まだまだ強くならないといけない。
それは一部彼女のためだが、それだけでもない。
女神たちが焦っていた、という話を前に彼女がしていたのを覚えている。
今の人類の努力では、25年後には被害が出るということだ。
まだ25年残っている、ともいえるが、最初の5年のスタートダッシュに失敗している、という見方もあるだろう。
あんまり、世界のため、なんて大きなことは思っていない。今でも。
だけど25年後、僕が40歳、両親は還暦を越えたぐらい? まだまだ元気なはずだ。
そしてこれまでの友人やこれから出会う人、その人たちのために、できることはやっておきたいという気持ちは本当だ。
「ねえ……」
「何?」
「前の世界は……言えなかったらいいんだけど、みんなが頑張ったら崩壊しなかったのかな?」
エリスは天狗の面を外して、それをもてあそびながら考える。
「そうね……危機の種類が全然違うからわからないわね。でも私個人の感想でいいなら、多分無理だったと思う」
「そう……僕たちはうまくできるかな?」
「どうかしら? 勝算はあると思うけど……」
「けど?」
「いつだって予想外のことは起きるのよね。どうしても一つの計画に固執するとリカバリーが効かない」
「それが……他の女神と協力しない理由?」
根拠はない、だけどもしかしたらと考えて僕は聞いてみる。
「もちろん私の……犯人が分からないから離れているのがメインだけど、確かにそういう考えも含まれているわね」
「じゃあ、僕も頑張るよ。世界を救う……そう第二、いやBプランのために」
「ふふっ、そうね。表のAプランはみんなに任せて、私たちはBプラン担当。こっそり裏道を行きましょう。これからもよろしくね」
「こちらこそ」
この世界の片隅で小さな勢力が生まれる。
これがそのタイミングだったのかもしれない。
(参考)一章終了時のカナメの能力
能力値:
PA[筋力]1.031
STA[構造]1.029
BA[脳]1.035
NA[神経]1.039
SEA[感覚]1.034
FS:
電波 1.055
マイクロウェーブ、インダクション
CS:
氷玉 1.015
アイス・ワン(氷玉・電波)1.033
「別にカナメは座ってただけでしょ?」
自分は船の行き先を決めていた、と主張するエリスだったが、そういう彼女も隣で座っていたじゃないか。
そう言ってみるが、彼女は聞こえないふりをして移動する。
「うん、ちゃんと閉じているね」
今の場所は例の裏山の開けた場所。
もともとの我が家の先祖代々の墓があった場所だ。
そして、彼女が確認したのはここの草むらにあったはずのダンジョンの入口だ。
「普段はここに開いておくつもり?」
「そうね、それがいいと思うわ。今まで見つかっていなかったわけだし……」
今、ダンジョンの入口は空中にあるが、その入口から縄梯子が下りている。
縦は縄で横は板の構造だったので、横板に捕まれば何とか僕でもここまで下りてくることができた。
日は傾いており、木々のただなかであるこの場は足元が見えないほどではないが暗い。
僕たちは足元が見えなくなる前に家に急ぐことにした。
*****
「うえっ、これは捨てなきゃだめかな……」
とりあえず服を脱ぎ、シャワーを浴びて体の汚れや残った血を洗い流す。
タオルで体を拭きながら、僕は着ていた服を眺める。
「少なくとも洗濯機には入れたくない気分」
僕がここに来る時に両親が買ったものなので、まだ半年。
衣類の汚れより最新式の洗濯機の汚れの方が気になってしまう。
「明日庭で洗おうか……」
「血は早く洗わないと落ちにくいわよ」
「何? 何で入ってきてるの?」
僕は慌ててバスタオルで下半身を隠す。
おとなしくリビングでテレビでも見てると思ったんだけど……
「いいじゃない、減るもんじゃないし」
「減るよ! わかんないけどなんか減るよ!」
「え? 減るの? あ、つまりカナメは見られただけで射せ……」
「何下品なこと言ってんの? ともかく出てって!」
人のことを見られて興奮する変態みたいな言い方をするな!
僕は彼女を無効に向かせてそのまま押し出して洗面所の引き戸を閉める。
再び入ってくる様子が無いことを確認して、僕は洗面所兼脱衣所(洗濯機もある)の床に散らばった衣類を風呂に放り投げる。
本人の趣味はともかく、早く血を洗い流す必要があるのは本当だろう。
僕は、シャワーから再びお湯を出し、風呂で衣服に付いた血を洗い流す作業を始めた。
*****
「おつかれー」
僕が満足いくぐらい血を落とした衣類を洗濯機に放り込んで居間に戻ると、エリスはテレビでネット配信の映画を見ていた。
「それは、エンタープライズじゃないよ」
「いいのよ、でっかい軍艦という点では大して違わないわ」
画面内では某最強のコックが外と通信しようとしているところだった。
どうも、彼女は実利というより単なる娯楽としてみているようだった。
隣に腰を下ろすと僕も一緒に映画を見る。
「そういえば……」
「何?」
「次はどうするの?」
「そうね……」
彼女はちょっと考えて続けた。
「……本当は、次々にダンジョンをクリアしてもらおうと思っていたんだけど、ちょっと考え直したの」
「どうして?」
「あなたのスキル」
「ああ……確かに、ちょっと練習しないといけない気は僕もしている」
「多分、今世界で見ても相当に希少な力をあなたは得たわ。だから、それがどういう風にあなた……いえ、私たちに影響するか……私の方でも考える必要がある」
「そうかあ……」
とはいえ、僕たちの戦いや関係はこの先も続くだろう。
一段落した感じはあるが、まだまだ強くならないといけない。
それは一部彼女のためだが、それだけでもない。
女神たちが焦っていた、という話を前に彼女がしていたのを覚えている。
今の人類の努力では、25年後には被害が出るということだ。
まだ25年残っている、ともいえるが、最初の5年のスタートダッシュに失敗している、という見方もあるだろう。
あんまり、世界のため、なんて大きなことは思っていない。今でも。
だけど25年後、僕が40歳、両親は還暦を越えたぐらい? まだまだ元気なはずだ。
そしてこれまでの友人やこれから出会う人、その人たちのために、できることはやっておきたいという気持ちは本当だ。
「ねえ……」
「何?」
「前の世界は……言えなかったらいいんだけど、みんなが頑張ったら崩壊しなかったのかな?」
エリスは天狗の面を外して、それをもてあそびながら考える。
「そうね……危機の種類が全然違うからわからないわね。でも私個人の感想でいいなら、多分無理だったと思う」
「そう……僕たちはうまくできるかな?」
「どうかしら? 勝算はあると思うけど……」
「けど?」
「いつだって予想外のことは起きるのよね。どうしても一つの計画に固執するとリカバリーが効かない」
「それが……他の女神と協力しない理由?」
根拠はない、だけどもしかしたらと考えて僕は聞いてみる。
「もちろん私の……犯人が分からないから離れているのがメインだけど、確かにそういう考えも含まれているわね」
「じゃあ、僕も頑張るよ。世界を救う……そう第二、いやBプランのために」
「ふふっ、そうね。表のAプランはみんなに任せて、私たちはBプラン担当。こっそり裏道を行きましょう。これからもよろしくね」
「こちらこそ」
この世界の片隅で小さな勢力が生まれる。
これがそのタイミングだったのかもしれない。
(参考)一章終了時のカナメの能力
能力値:
PA[筋力]1.031
STA[構造]1.029
BA[脳]1.035
NA[神経]1.039
SEA[感覚]1.034
FS:
電波 1.055
マイクロウェーブ、インダクション
CS:
氷玉 1.015
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