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5 隣人は仲間になりたそうにこちらを見ている
10月の空に舞う
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*注意*
試験的にスキルや詠唱を〈〉で書いてみます。しっくりくるなら遡って変更するかもしれません
波音が耳に飛び込んでくる。
潮風も感じるし、踏みしめる足は船の振動を伝えてくる。
時折、木造の船体がたてる軋み音も聞こえてくる。
「準備はいい?」
「いいけど、もっと近寄れなかったの?」
「操船って意外と難しいのよ。大丈夫、今のカナメなら」
「そうだろうけどね……」
僕は舷側に開いたダンジョンの出口から外を覗き込む。
外では当然波音も潮風も感じない。
ただ、10月の乾いた肌寒い風が吹きすさぶのみだ。
この船、というかダンジョンであるヴィクトワール号を手に入れたあの戦いから2か月、今は10月の下旬。
もちろんこの2か月何もしていなかったわけではない。
スキルを使いこなすための修行も行い、近場のダンジョンをいくつか攻略もした。
もちろん等級外のDランクダンジョンばかりだ。
そしてそれらのダンジョンは先の5つと同じように閉鎖され、このヴィクトワール号、元荒船山ダンジョンのリソース供給源として利用されている。
世間は今のところ穏やかだ。
だが、裏では女神の焦りがいよいよ高まり、近々何かの変化があるだろうというのはエリスの推測で、あれから2度訪ねてきたマリアさんも同じ見解だ。
端末をくれたことに「感謝しかない」と一度は考えた僕だったが、実際に会ってみてちょっとその評価は差し引く必要があった。
僕の新しいスキルについて知った彼女は「ちょっと解剖させて」とか言って迫ってきた。
「先っちょだけ」とか言われても困る。
メスの先っちょは痛いのだ。
他の先っちょならともかく……あ、もちろん指のことだよ。心のきれいな人だったらそれ以外の答えは思いつかないよね?
さて、そんなわけで2か月を過ごした僕だったけれど、今のところ大きなけがもなく、順調にダンジョンを攻略し続けられている。
そして今日は久々の遠出、なんと初の東京進出だ。
東京に役に立たないダンジョンなんてあるの? あるのだ。
リソースの通り道が小さすぎて使えない通常のDランクは、もはや今の僕にはあまり有用ではない。
そうしたものを除いても、到達困難なためにDランクとして封印されたダンジョンが存在する。
その一つがこれ。
眼下に広がる高い塔。
すなわち……
「西東京タワーか……」
「正式には『スカイタワー西東京』ね」
あるいは田無タワーか。
地上高195mの電波塔。
そして、ダンジョンの入口はその頂上から上空10m程の空中だ。
仮にダンジョンとして公開しても誰も入ることができなかっただろうそのダンジョンを、今日僕は攻略することになっている。
「たしかランクは……」
「C上位ね。久々に高いランクだわ」
C上位といえば、荒船山ダンジョン以来ということになる。
あの時は下手をすれば死んでいたし、幸運が無ければ後遺症が残っていただろう。
だが、自分もあの時の自分ではない。
とりあえず、さっさと入ってしまおうか。
「行くよ」
「後からついていくわね」
そして僕は地上300mの上空に生身で身を躍らせたのだった。
「〈フル・モジュレーション〉」
僕の体は服、そして荷物ごと電磁波に変換され、そして光の速さで目的のダンジョンの入口に飛び込んだ。
「ふうっ、うまくいった」
『いい感じね』
「練習したから」
フル・モジュレーション……日本語にするなら完全変調だが、本来の意味とはズレがある。無線通信の用語からとったのだが、変調とは正弦波に音声なりなんなりの情報を乗せて意味のある無線信号にする動作のことを言う。
僕の場合も、自分自身を意味のある、元の情報すべて保持した電磁波に変化させることをイメージしてこの用語を使用した。そして「フル」とは全身と所持物すべてを電磁波に変えるという意味で、つい最近安定してできるようになったものだ。
知られているように、電磁波とは波長が長いだけの光だ。
したがって、電磁波の速度は光速に等しい。
ということで、僕は光速の移動方法を手に入れることができた。
これはちょっと調子に乗ってもいいんじゃなかろうか?
難点としては、リソースが抜けた状態では使えないので、地上を移動しようとするとダンジョンを出てすぐにしか使えないということだ。
だが、こうしてヴィクトワール号を使えば問題ない。
そして僕はダンジョンを出て100m下の別のダンジョンの入口に飛び込んだのだった。
カン、カン、カン
足音が響くのは鉄の床。
歩き回って入口の広間の構造を把握する。
ここは正方形の鉄板の床、そして周りは鉄柵に囲われている。
いや、その鉄柵の一部に欠けがある。
よく見ると、そこからはしごが下に続いている。
『構造的には部屋を基本にして間に通路があるタイプね。今までのダンジョンが通路中心だったから初めてのタイプということになるわ』
「注意点は?」
『通路は敵が出ない。ただしその分部屋はほぼ何かあるわ。敵か、トラップか……』
「あるいは、宝箱か?」
『Cなのよ、そんなに期待しても大したものは出ないと思うわ』
「それは残念」
ともかく、僕はこの梯子を下りないといけないみたいだ。
カン、カン、カンと音を立ててはしごを下りていく。
すると床に行きついた。
前のフロアの真下ではなく、はしごを挟んで反対側に次のフロアは存在した。
僕はすぐに振り向き、敵に備える。
こういう両手が使えなくなることを想定して、僕はメイン武器のカトラスを腰に巻いた布に指している。
それを引き抜き、構えながら前をうかがう。
「ああ……」
僕もほぼ1年、山奥で暮らしているので『黒いG』以外の虫がいても大概平静でいられる。特に電波スキルに虫を遠ざける作用があることに気づいてからはいっそう気にならなくなった。
だけど、それは小さい虫だった場合だ。
自分の半分ぐらいのサイズの蜘蛛に対しては気持ち悪い以外の感想は出ない。
蜘蛛をすぐ目の前で見たことがあるだろうか?
うれしくないことに、大きい蜘蛛は離れた場所からもそのディティールがよくわかるのだ。
「〈ウェイブ・ワン〉!」
僕はその蜘蛛の頭をめがけてスキルを発動させる。
〈ウェイブ・ワン〉は、既存の〈インダクション〉と〈マイクロウェーブ〉の区別をつけないようにした結果、新たな名前が必要になって〈アイス・ワン〉を参考に名付けたものだ。
結局どちらも、強力な電磁波を発生させるという行為自体に違いはなく、単に周波数の違いとその結果としての射程距離の違いが出ていたにすぎない。勉強した結果そういう認識に到達したのだ。
実は〈モジュレーション〉を使えば遠隔で〈インダクション〉を発生させられるのではないかと実験していたのだが、そんなことしなくても直接離れた場所から金属にうず電流を発生させ、加熱することができてしまった。
以後、両スキルは〈ウェイブ・ワン〉として使用することにするが標準では周波数は電子レンジに合わせてある。
これは生体に使いやすいということと、外で使うことはまずないものの、電子レンジの周波数以外だと他の通信に影響を与える可能性があるため、万が一を考えてのことだ。電波法は守らなくてはいけない。
さて、そんなわけで電磁波を浴びた大蜘蛛は、内部をこんがり焼かれて動きを止めた。
周囲を見回して他の敵がいないかどうか確かめる。
蜘蛛の死体に近づき、周囲の床を見る。
ああ、また鉄チップか……
僕は一瞥してその場を去ろうとする。
『待って、それ、多分銀よ』
「え?」
慌てて戻って拾う。
実物を見たことは無いが、確かに鉄とは違う感じがするしちょっと重い。
「ラッキー」
『おめでとう』
ちょっと幸先がいい。
試験的にスキルや詠唱を〈〉で書いてみます。しっくりくるなら遡って変更するかもしれません
波音が耳に飛び込んでくる。
潮風も感じるし、踏みしめる足は船の振動を伝えてくる。
時折、木造の船体がたてる軋み音も聞こえてくる。
「準備はいい?」
「いいけど、もっと近寄れなかったの?」
「操船って意外と難しいのよ。大丈夫、今のカナメなら」
「そうだろうけどね……」
僕は舷側に開いたダンジョンの出口から外を覗き込む。
外では当然波音も潮風も感じない。
ただ、10月の乾いた肌寒い風が吹きすさぶのみだ。
この船、というかダンジョンであるヴィクトワール号を手に入れたあの戦いから2か月、今は10月の下旬。
もちろんこの2か月何もしていなかったわけではない。
スキルを使いこなすための修行も行い、近場のダンジョンをいくつか攻略もした。
もちろん等級外のDランクダンジョンばかりだ。
そしてそれらのダンジョンは先の5つと同じように閉鎖され、このヴィクトワール号、元荒船山ダンジョンのリソース供給源として利用されている。
世間は今のところ穏やかだ。
だが、裏では女神の焦りがいよいよ高まり、近々何かの変化があるだろうというのはエリスの推測で、あれから2度訪ねてきたマリアさんも同じ見解だ。
端末をくれたことに「感謝しかない」と一度は考えた僕だったが、実際に会ってみてちょっとその評価は差し引く必要があった。
僕の新しいスキルについて知った彼女は「ちょっと解剖させて」とか言って迫ってきた。
「先っちょだけ」とか言われても困る。
メスの先っちょは痛いのだ。
他の先っちょならともかく……あ、もちろん指のことだよ。心のきれいな人だったらそれ以外の答えは思いつかないよね?
さて、そんなわけで2か月を過ごした僕だったけれど、今のところ大きなけがもなく、順調にダンジョンを攻略し続けられている。
そして今日は久々の遠出、なんと初の東京進出だ。
東京に役に立たないダンジョンなんてあるの? あるのだ。
リソースの通り道が小さすぎて使えない通常のDランクは、もはや今の僕にはあまり有用ではない。
そうしたものを除いても、到達困難なためにDランクとして封印されたダンジョンが存在する。
その一つがこれ。
眼下に広がる高い塔。
すなわち……
「西東京タワーか……」
「正式には『スカイタワー西東京』ね」
あるいは田無タワーか。
地上高195mの電波塔。
そして、ダンジョンの入口はその頂上から上空10m程の空中だ。
仮にダンジョンとして公開しても誰も入ることができなかっただろうそのダンジョンを、今日僕は攻略することになっている。
「たしかランクは……」
「C上位ね。久々に高いランクだわ」
C上位といえば、荒船山ダンジョン以来ということになる。
あの時は下手をすれば死んでいたし、幸運が無ければ後遺症が残っていただろう。
だが、自分もあの時の自分ではない。
とりあえず、さっさと入ってしまおうか。
「行くよ」
「後からついていくわね」
そして僕は地上300mの上空に生身で身を躍らせたのだった。
「〈フル・モジュレーション〉」
僕の体は服、そして荷物ごと電磁波に変換され、そして光の速さで目的のダンジョンの入口に飛び込んだ。
「ふうっ、うまくいった」
『いい感じね』
「練習したから」
フル・モジュレーション……日本語にするなら完全変調だが、本来の意味とはズレがある。無線通信の用語からとったのだが、変調とは正弦波に音声なりなんなりの情報を乗せて意味のある無線信号にする動作のことを言う。
僕の場合も、自分自身を意味のある、元の情報すべて保持した電磁波に変化させることをイメージしてこの用語を使用した。そして「フル」とは全身と所持物すべてを電磁波に変えるという意味で、つい最近安定してできるようになったものだ。
知られているように、電磁波とは波長が長いだけの光だ。
したがって、電磁波の速度は光速に等しい。
ということで、僕は光速の移動方法を手に入れることができた。
これはちょっと調子に乗ってもいいんじゃなかろうか?
難点としては、リソースが抜けた状態では使えないので、地上を移動しようとするとダンジョンを出てすぐにしか使えないということだ。
だが、こうしてヴィクトワール号を使えば問題ない。
そして僕はダンジョンを出て100m下の別のダンジョンの入口に飛び込んだのだった。
カン、カン、カン
足音が響くのは鉄の床。
歩き回って入口の広間の構造を把握する。
ここは正方形の鉄板の床、そして周りは鉄柵に囲われている。
いや、その鉄柵の一部に欠けがある。
よく見ると、そこからはしごが下に続いている。
『構造的には部屋を基本にして間に通路があるタイプね。今までのダンジョンが通路中心だったから初めてのタイプということになるわ』
「注意点は?」
『通路は敵が出ない。ただしその分部屋はほぼ何かあるわ。敵か、トラップか……』
「あるいは、宝箱か?」
『Cなのよ、そんなに期待しても大したものは出ないと思うわ』
「それは残念」
ともかく、僕はこの梯子を下りないといけないみたいだ。
カン、カン、カンと音を立ててはしごを下りていく。
すると床に行きついた。
前のフロアの真下ではなく、はしごを挟んで反対側に次のフロアは存在した。
僕はすぐに振り向き、敵に備える。
こういう両手が使えなくなることを想定して、僕はメイン武器のカトラスを腰に巻いた布に指している。
それを引き抜き、構えながら前をうかがう。
「ああ……」
僕もほぼ1年、山奥で暮らしているので『黒いG』以外の虫がいても大概平静でいられる。特に電波スキルに虫を遠ざける作用があることに気づいてからはいっそう気にならなくなった。
だけど、それは小さい虫だった場合だ。
自分の半分ぐらいのサイズの蜘蛛に対しては気持ち悪い以外の感想は出ない。
蜘蛛をすぐ目の前で見たことがあるだろうか?
うれしくないことに、大きい蜘蛛は離れた場所からもそのディティールがよくわかるのだ。
「〈ウェイブ・ワン〉!」
僕はその蜘蛛の頭をめがけてスキルを発動させる。
〈ウェイブ・ワン〉は、既存の〈インダクション〉と〈マイクロウェーブ〉の区別をつけないようにした結果、新たな名前が必要になって〈アイス・ワン〉を参考に名付けたものだ。
結局どちらも、強力な電磁波を発生させるという行為自体に違いはなく、単に周波数の違いとその結果としての射程距離の違いが出ていたにすぎない。勉強した結果そういう認識に到達したのだ。
実は〈モジュレーション〉を使えば遠隔で〈インダクション〉を発生させられるのではないかと実験していたのだが、そんなことしなくても直接離れた場所から金属にうず電流を発生させ、加熱することができてしまった。
以後、両スキルは〈ウェイブ・ワン〉として使用することにするが標準では周波数は電子レンジに合わせてある。
これは生体に使いやすいということと、外で使うことはまずないものの、電子レンジの周波数以外だと他の通信に影響を与える可能性があるため、万が一を考えてのことだ。電波法は守らなくてはいけない。
さて、そんなわけで電磁波を浴びた大蜘蛛は、内部をこんがり焼かれて動きを止めた。
周囲を見回して他の敵がいないかどうか確かめる。
蜘蛛の死体に近づき、周囲の床を見る。
ああ、また鉄チップか……
僕は一瞥してその場を去ろうとする。
『待って、それ、多分銀よ』
「え?」
慌てて戻って拾う。
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