電波少年と幽霊マネージャーの迷宮探索裏街道

春池 カイト

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5 隣人は仲間になりたそうにこちらを見ている

蜘蛛だらけ

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「またか……」

 また蜘蛛が出た。
 最初に出たようなやつより大型のやつだ。
 このダンジョンは意外と面倒で、時に下りのはしごが2か所あったり、下りてきたのと別の上りはしごがあったり、果たしてどのような構造になっているのか意味不明だ。
 実際の建築物であればすでに崩壊しているぐらいの増築に増築を重ねた違法建築で、当然モデルになったと思われるスカイタワー西東京と似ても似つかない。
 ただし、構造の複雑さとは関係なく、出てくるのはひたすら蜘蛛、蜘蛛、蜘蛛だ。
 大きさに違いがあることと、時に高い所に張った蜘蛛の巣から飛び降りてくるぐらいで、基本的には同じようにわしゃわしゃ動いて近寄り、牙で攻撃してくる点は共通している。
 毒は……いたのかな? とりあえずさっさと遠距離攻撃で倒しているのでまだ噛まれたことはなく、毒持ちが混じっていたのかどうかはわからない。
 毒を飛ばしてくるのとかが出てきたら嫌だなあ……
 思いながらも手っ取り早くスキルで敵を片付けていく。

『あ、また見っけ』
「今回は多いね……あ、でも銅か……」

 チップの大きさ的には数十円というレベルだ。これが銀なら1000円近くになる。
 まあ、売れるつては無いんだけど……
 ということで、チップはその場に捨てる。
 ここまでの探索は2時間。
 そろそろ休憩か……

「ねえ、ここって敵を倒した部屋は安全?」
『多分そうじゃない? 部屋連結型は通路が安全地帯なんだけど、ここじゃねえ……』

 はしごの途中でどうやって休めというのか?
 世の中には垂直の岸壁で休むロッククライマーがいるのは知っているが、ダンジョンにそんな装備を持ってきているわけもなく、持ってきていてもうまく使える自信がない。
 ということで、部屋の中でしばし休憩をとることにした。
 一応背後から襲われることを防ぐために部屋の隅に腰を下ろす。

「そろそろ仲間が欲しいなあ……」

 ポロっとこぼした言葉に、すぐさまエリスが反応する。

『え? 何? 浮気ですか? それとも3ぴ……』
「何を口走ってんの! 違うよ。別にダンジョンは今のままでも十分だと思ってるよ。ただ、ほら、今回だって……」

 僕が取り出したのは懐に入れた小袋。
 そこに入っているのはこれまでに集めた銀チップ。
 じゃらじゃらしているが、これだけで1万円は超えるだろう……売れさえすれば。

『ああ、そうですね』
「一応何とかなっているけど、最近だとちょっと食費がかさんで……」
『アア、ソウデスネ……』

 他ならぬエリスこそが食費がかさむ原因だ。
 食べなくてもいいはずなんだけど1日3食のうち2食は食べる。
 それに、どちらかというと嗜好品に近い保存食の方から先に、だ。
 その分僕は栄養バランスの取れた宅配弁当中心の健康的な食生活ができているが、それにもかかわらず食費は減っていく。

『つまりカナメは、換金の手伝いをしてくれる人を探していると……』
「そう、探索者じゃないと難しいし、かといって知り合いに頼むのも……」

 身近に探索者がいないわけではない。
 父さんがそうだし、クニオやダイスケもそう。他にも中学の友達で探索を頑張っている者もいるし、高校に入って画面越しだが友達になった中にも「探索者を頑張るから通信制」という連中もいる。
 とはいえ、彼らはみんな僕が置かれた状況について知っている。
 体に問題を抱えていること、田舎の山奥でダンジョンが近くにない場所だと知られている。
 だからといって、知らない人にそれを頼むというのも難しい。
 出所を疑われたり、自分で換金できない事情を詮索されたりするだろうし、その結果足元を見られてしまう。
 エリスのことを秘密にするのが最優先、だが、そのために外部との接触に制限がついている状態なのだ。

「例えば、すごく義理堅くて絶対に秘密を洩らさない探索者、とか、細かいことを気にしないで何も言わず換金を代行してくれる探索者、とか……」
『すごく都合の良い人物像ね。それよりむしろ知り合いに怪しまれずに換金を依頼できる言い訳を考えた方がよくない?』
「それはそれで難しいんだよね……」

 結論は出ないまま、それで休憩は終わって、僕は再び奥へ進む。


*****


「まさか出るとは……」
『良かったじゃない』

 これまでずっと下に進んできて、上りはしごは無視してきたが、その結果として行き止まりに付いてしまった。
 もちろんボス部屋ではなく、引き返さないといけないのだが、ここで宝箱が初めて出た。

「でも大したことないんだよね……」
『そう思うわ。でもその分トラップなんかはないと思う』
「まあ、でも一応……」

 僕はリュックを前に持って身を隠しながら、カトラスを使って箱を開ける。
 罠は……無かった。

「さて中身は……あ」
『スキルチップね。おめでとう』

 それ自体が光を発する金属っぽいチップだ。

『早速取得する?』
「……うーん……」

 もちろん、スキルを手に入れるのは戦力を上げることになる。
 とはいえ……

「今って過剰戦力じゃない?」
『……もしかして売るつもり?』
「それもいいかなって」
『まあ……確かにそうだけど、ボツスキルの可能性も高いわよ』
「あ、それがあったか……」
『それに、スキルの売買なんて銀チップ以上に面倒なことになると思わない?』
「そうだね……うん、でもちょっと保留にする」

 僕はチップの面に触らないように注意して、持っているハンカチに丁寧に包んでリュックにしまう。

『ま、どうせ今取得しても練習しないと使えないし、それでいいと思うわ』

 僕はリュックを背負い、今度ははしごを上る。

「このダンジョン広いね」
『通路型の1層が部屋型だと5~10部屋ぐらい。で、C上位だから通路型換算で5層は固いわ。だから部屋換算で50部屋を超えることはありうる』

 一応経路図は作っているが通った部屋は30部屋ちょっと。
 まだ先は長そうだ。
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