電波少年と幽霊マネージャーの迷宮探索裏街道

春池 カイト

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5 隣人は仲間になりたそうにこちらを見ている

「そっちか……」

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 その後もやっぱり蜘蛛しか出てきていなかった。
 中には糸を吐き、アクロバティックな動きでこちらを翻弄してくる蜘蛛もいたが、結局蜘蛛だ。

「いい加減飽きてきた……」
『そうねえ……』

 運が良ければ次かその次あたりがボス部屋だと思うが、ここまで手を変え品を変え、だが結局変わらず蜘蛛ばっかり出てきている。

「これは、ボスもそうかな?」
『そうね。見上げるぐらいの巨大蜘蛛』
「げっ、それは嫌だな」

 そのサイズだと何か変わるだろうか?
 正直、〈ウェイブ・ワン〉はほとんどの敵に通用している。
 仮に問題があるとすると、大質量過ぎて効果が薄いということがありうる。
 水分の加熱は奥に浸透するが、金属の渦電流による加熱は表面に留まる。
 仮に厚さ5cmの装甲なんてあったら、加熱するそばから周囲の素材に熱を奪われ、効果が限定的ということもある。
 蜘蛛の表面がどういう構造になっているのかわからないが、暑い被殻があるとするとなかなか通らない可能性がある。まあ、その時は水分の加熱を使えばいいのだが……

 後は、先手を取られてこっちが一撃でやられるとか……
 その時は最悪〈フル・モジュレーション〉で躱すぐらいしかないが、攻撃を受けるタイミングで素早く発動するのはちょっとできそうな感じがしない。

 あれこれ考えながらも、僕はメモ帳に経路図を書き加える。

「いったん休憩しようか……」

 体もそうだが頭もいろいろ考えすぎて疲れている。

『眠る?』
「軽く……30分ぐらいしたら起こして」
『お任せっ』

 今日は最近には珍しく夜の探索になっている。
 まあ、昼間でもめったなことでは誰かに見られることはないと思うけど、一応人の多い場所だったから夜にしたのだ。
 久々の夜更かしで、いくら昼間のうちに仮眠をとっていてもそろそろ眠い。
 僕は、床を軽く手で払って、その上に寝転ぶ。
 リュックを枕にし、そのまま目を閉じる……

『あれ? やっぱりやめるの?』
「床が冷たい」

 鉄板だ。
 あまりに冷えるし、今後は冷たくないようなキャンプ用のマットか何かをもってこよう。
 ということで、しばらく休んですぐに先を急ぐことにした。


*****


「両開きのドアの代わり?」
『そうかもしれないわね』

 なぜか横に2つ並んだはしごを前に、僕は経路図を確認する。
 うん、ここがボス部屋で間違いないようだ。

『船の時もあれ、左右の階段が両開きドアの代わりだったんじゃない?』
「そういうことかあ……」

 例外はあるかもしれないが、左右対称な何かを見たらボスを疑う、というのは合っているように思える。
 武器よし、リュックの荷物よし、服よし、靴紐よし、さあボス戦だ。
 僕ははしごを下りる。
 下りてみると暗かったその場が明るくなる。
 僕は武器を引き抜き敵に相対する。

「……そっちか……」
『まさか蜘蛛じゃないとは……』

 そう、ボスは蜘蛛ではなかった。
 だからといって、共通点が全然ないわけではない。
 蜘蛛の足は8本、目の前のボスの足も……全部見えてないけど多分8本。
 他のフロアより広いその場所にいたのは巨大タコだった。
 確かに自然界広しといえど、足が8本なのはタコと蜘蛛ぐらいだ(偏見)。

「ともかく、水気が多くて良かった……〈ウェイブ・ワン〉」

 タコの頭は頭じゃない。
 昆虫の一番大きな部分が腹であるように、タコの大きな部分も内臓が詰まっている。
 たしか頭は足の付け根の近くだったはずだ。
 そのあたりを狙い、僕は強力なマイクロ波を連発し、そして特に盛り上がりもなく、巨大タコを倒すことができた。

『おお、体の一部分が赤くなってるね』
「たこ焼きだから食べる?」
『それより憑依……って嫌だなあ』
「つべこべ言わない。ここまでの僕の努力を無駄にするつもり?」
『はいはい』

 ということでダンジョンマスターであるタコを支配下に置き、このダンジョンもエリスのものになった。

「よいしょっと、あんまり使えるダンジョンマスターの体手に入らないねえ」

 そんなことを言いながらタコ、ではなくもう見慣れた天狗少女の姿を取るエリス。

「あ、どうすんの? このダンジョンも封鎖?」
「そうだね。エリアを広げる意味だけだったし、封鎖でいいかな……」

 ということで、このダンジョンも二度と来ることはなさそうだ。
 僕はボスがまた銀チップとかを落としていないかあたりを捜索する。
 すると、変なものを見つけた。拾い上げてみる。
 うーん……

「何してるの?」
「いや、これってどう見ても祭りの屋台とかで見るあれだよね?」
「ああ、ボスドロップ?」
「いる?」
「いらない」
「しかし、微妙に合ってるのかどうなのか……」

 僕が拾ったのは、いわゆるひょっとこのお面だ。
 確かに口を突き出しているからタコになぞらえられることもあるが、本来タコとは関係ないし、蜘蛛にも関係ない。

「鑑定しようか?」
「え? できるの?」
「できるようにした。いい加減いろいろ貯まってるでしょ? 一応ある程度のリソースを費やせばダンジョンマネージャーの権限に追加することができるの」
「あ、ありがとう」

 確かに、今使っているカトラス、同じところで手に入れた懐中時計をはじめとして、こまごましたアイテムが貯まっている。

「じゃあお願い」
「えっと……ふむふむ……あーなるほど、これはあれだね。やってみたほうが早いか」

 そう言うと、エリスは僕からひょっとこの面を強奪し、顔の天狗の面と交換で自分の顔につけた。
 ひももないのに張り付くということは屋台のお面ではないのだろう。

「こうかな……」
「うわっ」

 見ると、ひょっとこの顔がたちまち別の顔に変わる。

「なんで母さん?」
「さすがマザコン、一目でわかったね」
「マザコンは余計」

 驚くべきことは、硬い面ではなくちゃんと話すのに合わせて口が動くし表情も変わる。

「他にはこれ」
「おお、本物だ」

 テレビの俳優の顔になる。

「あ、でも……」
「そう、やっぱり映像だけだとね……それに声も」

 若干顔を振ると不自然になる。現物の理解度と関係するのだろう。
 声も変わったりしない。

「あ、もしかしてこれで金策できるんじゃない?」
「そうか! ……でも身分証明が無いと買取りは無理だったはずだなあ」

 一瞬僕もいける? と思ったけど、身分証明がなければ普通の変装と変わらない。いや、普通の変装でもいいのか……探索者として得たものを買い取ってもらって親に連絡が行くっていうことはないはずだし……

「そうか、別に知り合いのいない場所なら僕が買い取りに持ち込んでもいいのか……」
「どういうこと?」

 エリスに僕の考えを説明する。

「そうね、私は人間の作った制度に詳しいわけじゃないけど、できそうな気がするわね」
「そしたら、このお面とか懐中時計とかも売れるかな?」
「あんまり高価なものだと不審に思われたりしないかしら? それに、このお面は無理よ」
「え? どうして?」
「これってボツアイテムだもの。デメリットは無いけど、犯罪に使われそうだからボツにしたって鑑定結果に出てるわよ」
「そんな……」

 だが、銀チップなどを換金するのは大丈夫らしいということなので、今度行ってみよう。
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