電波少年と幽霊マネージャーの迷宮探索裏街道

春池 カイト

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5 隣人は仲間になりたそうにこちらを見ている

ミノリと一緒にダンジョン

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 入口は確かに分け入った森の中で、交通の便がいいとは言えない。
 だけど、木々を通して遠くにお寺の鐘が見えるぐらいだから、人が立ち入れない秘境というわけでもない。

「いよいよダンジョンですね。腕が鳴ります」
「今まで居たのもダンジョンだけどね……」

 今回は入るのにアクロバティックなことをする必要がないので、僕の電波スキルはまだオフのままだ。
 いつでも戻せるようにしてオンにしてみるが……うん、耐えられる。

「それって便利ですよねえ……うらやましい」

 横から見ているミノリがそんなことを言っている。
 中空の半透明画面も、別に本人にしか見えないわけではないため、僕が何をやっているのかは彼女にもわかる。

「女神様、エリス様、私にもご慈悲を……」
『前にも言ったけど、私はもう持ってないわよ。それも貰い物だし……』
「それに、前にも見せたと思うけどクリスタルの埋め込みが必要だぞ? 体育の時間とかどうするんだよ」
「ふふ、それなら問題ありません。女には隠せる場所があるので……胸の谷間とか」
「谷間……」
「谷間!(胸を突き出し)」
『谷間?(そのなだらかなフォルムを空中でなぞり)』
「……谷間(ちょっと弱気になりながら)」
「……(一人だけの男としては何も言えない)」
『まあ、今後に期待?(とりあえず問題を先送り)』

 問題は現在の話なので、結局その場所は不適という三者合意が得られた。
 男の僕と違って首後ろの生え際なら問題ないだろう、ということで本人が納得したからだ。
 まあ、同じ端末セットが得られるかはわからないけどね。今度マリアさんが来た時に聞いてみよう。


*****


 ちょっと入る前にひと騒動があったが、ともかくダンジョン突入。
 最初の広間は敵が出ないので気を張る必要もない。
 あたりを見回して、雰囲気を探る。

 見た感じは一般的な洞窟タイプと同じように見える。
 最初に入った近くのダンジョンも同じだったので、よほど特殊な環境を写し取っていない限り共通なのだろう。

「おお、普通のダンジョンだ」
「ん? ああそうか、体験会で……」
「そうですね。退屈だったのでほとんど居眠りしてたんですけど……」

 受験勉強すればいいのに、と言おうとして、去年の自分もそうだったと思い直す。
 正直、その後の出来事が衝撃的過ぎて、内部のことなんか忘れていた。

『はいはい、二人ともちゃんと準備できた?』
「僕は出来てる」「大丈夫です」

 そして、僕を先頭に奥の通路に足を踏み入れる。

「やっぱりこういう感じか……」

 通路は墓が左右にぎっしり並んでいる洞窟だった。
 通路の広さ自体は他のダンジョンと変わらず幅4mぐらいだが、墓の分狭くなっており、横に二人並んで戦うのはちょっと厳しいぐらいだ。

「これなら、私は後ろから槍を使うのが良いですかね?」
「そうだね。スキルも気になるけどまずは武器で対処してみるのも大事だ」

 スキルは発動に時間がかかることもあるし、とっさのタイミングで全く接近戦ができないと困ることになる。

「慣れたら前にも出てもらうから、まずは付いてきてね」
「わかりました。先輩」

 先輩なんて呼ばれたことは無かったが、彼女なりに先駆者に教えを乞おうとする姿勢なのかもしれない。
 僕は警戒しながら前へと移動を始める。


*****


「えいっ」

 槍の突きがスケルトンの肋骨の隙間に突き刺さる。
 それで動きを止められたスケルトンは、再び動き出そうとする前に破裂してバラバラになる。

「できました」
「結構威力あるね」

 もちろんタネはミノリのスキル〈斥力〉だ。
 ここまでヴィクトワール号に入り浸ってスキルを訓練していた彼女は、槍の穂先からスキルを使うことができるようになっていた。
 これがスケルトンだから骨が飛び散るだけで済んでいるが、生身のモンスターだと肉が飛び散って悲惨なことにならないだろうか?

「大丈夫です。その場合は奥に伸ばしますから」

 今のは穂先の左右に力を使い、傷口を押し開く方向の使い方。それに対して、穂先を伸ばす方向の使い方をすればいいのだ、と彼女は言う。

『練習頑張ったねえ』
「えへへ」

 頭を撫でるエリスだが、実体のない手が頭にめり込んでいる。
 傍から見ている僕はわかるが、ミノリはわかっていないと思うが、喜んでいるからいいだろう。

「じゃあ、次行くか」
「はーい」


*****


『そういえばもう一つの方は使い物になりそう?』
「うーん、そうですねえ。あれはソロ向きというかなんというか……」
「何の話?」

 ダンジョンを進む最中、後ろで話される内容が気になったので話に入る。

『カナメには秘密よ』
「そうです。秘密、ダメ、ゼッタイ」
「何のことだか……」

 どうやらミノリはエリスと秘密特訓をしていたみたいだ。
 本当なら立ち回りが変わるから、教えてほしいんだけど二人が一致して秘密というのだから聞かない方がいいんだろう。

「でも、ソロ向きっていうことなら、そろそろ前衛代わるか?」
「うーん、そうですねえ……確かに少し経験しておきたいかも……」

 迷うそぶりを見せるも、僕がフォローに回れば問題ないだろう。
 ここから前後を入れ替えて進むことにした。


*****


「前だけじゃなくて、左右も上下も注意しろよ」
「了解です、師匠」

 先輩から師匠にクラスチェンジできたようだ。
 それはともかく、今のところミノリの探索に危なげはない。
 槍の扱いに関しては僕なんかよりよっぽど手馴れているし、接近された時の立ち回りも問題なかった。
 むしろ、僕の方も剣術を訓練しなければいけないと反省するほどだった。
 そんな風に進んでいくと、ダンジョンの雰囲気が変わる。

「気をつけて、多分敵のパターンが変わる」

 気づいたのは床の凹凸が激しくなったこと。
 単純に足場が悪くなることに加えて、ここまでの道との違いは出てくる敵が変わることを表している。

「了解です」
「前、代わろうか?」
「そうですね……」

 だが、ミノリが迷っている間に前方に動きがあった。

「敵、多いぞ」
「はい」

 前後を入れ替える暇はなさそうだ。
 僕はここまで使っていなかったスキルを使うために頭を切り替える。
 だが、その集中は敵が違ったことによっていったん途切れる。

「まさか、ゾンビ?」
「臭いです」

 わらわらとやってくるのは体が半ば腐り落ちたような死体。
 見た感じ10体近くはいるのではないか?
 確か、スケルトンよりはかなり面倒な相手だったはずだ。
 それこそ、Cランクのダンジョンではめったに見られないほどに……

「まずいな……」

 僕が黒いGにスキルを使わないのは、万が一破裂して破片が自分に飛んできたら嫌だからだ。
 もしかしたら平気な人もいるかもしれないが、そういう人でもゾンビの腐肉が自分に飛んで来たら悲鳴をあげて逃げるだろう。
 僕の電子レンジを模したスキルではよほど注意しないと腐肉まみれで逃げ帰ることになる。

 僕が逡巡しゅんじゅんしていると、そこに力強い言葉が、意外なところから聞こえる。

「不浄なものの浄化であれば、私の仕事です。先輩は下がって足を踏ん張っていてください」
「ミノリ……いいのか?」
「大丈夫、こちらは400年以上続く山返神社の八城一族です。本職にお任せください」

 すごく自信満々なのと、エリスが『大丈夫』というように頷いて下がるので、僕はちょっと迷ったが言われた通りにすることにした。
 でも、足を踏ん張る?

 いつでも飛び出せるように見ていると、ミノリは槍を手から離し地面に突き立て、そして重心を左半身に移して右足を高く上げ……そして踏み下ろした。

 彼女の動作の後に起こった効果は劇的だった。
 こちらにも響いてくる地面の揺れ。
 幽霊を見ることができる僕の目に映る、彼女から円状に広がる光の柱。
 そしてその光に触れたとたん跡形もなく消えてしまうゾンビの一団。

「ふうう……」

 彼女が大きく息を吐きだしたのち、その場を静寂が支配する。
 僕は、あっけにとられて声を出すのも忘れて、それを見つめるのだった。
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