電波少年と幽霊マネージャーの迷宮探索裏街道

春池 カイト

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5 隣人は仲間になりたそうにこちらを見ている

ミノリと一緒に出発

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 季節はすでに12月だ。
 自宅前で待つ僕の吐く息は白い。
 荷物を増やしたり動きにくかったりするのは避けたいので、いつもの探索用の作業服だが、上着を取ってくるべきだろうか?

『来たわよ』

 エリスに言われて見ると、確かに見慣れたアシスト自転車が門を通ってくるのが見えた。

「おはようございます」
『おはよう。今日はよろしくね』
「おはよう、あれ? 武器は?」

 見た感じ、大きなリュックをかごに入れているが、武器を持っているようには見えない。

「ちゃんと持ってますよ。こちとらダンジョン出現以前から妖怪退治してた家ですからね。持ち運びできる武器もあるんですよ」
「へえ……それならいいよ。じゃあ行こうか」

 僕たちはそろって家の裏の森に入っていく。
 季節が冬で、もう何回も出入りしているからか、裏の元墓地まではくっきりと道になってきている。
 そのおかげで歩きやすくなっているのはいいのだが、今度両親が泊まりに来た時にそのことを指摘されないか今から心配だ。
 ただ、道を進んで行っても何もない空き地が存在するだけなので、特に問題はないのかもしれない。
 それでもキャンプ用のテーブルやいすを設置して、森の中の休憩所みたいにしてごまかした方がいいかもしれない。
 ただでさえ金欠なのに、また余計な出費がかさむことに気が重いが、ともかく今日はダンジョン探索だ。

「あ、私先に行きますね」

 言って駆けだすミノリ。
 そして慣れた手つきで縄ばしごを上っていく。
 すでに彼女をヴィクトワール号に招待しているので、その手つきに迷いはない。
 ただ……いくらジーパン姿とはいえ女の子を下から見上げることになるのはちょっと落ち着かない。

『ふふん、私も先に行こうか?』
「絶対にやめてっ!」

 僕の考えなど女神にはお見通しだ。
 そしてたるエリスの服はひらひらした衣なので、下から見上げるべきものではない。
 からかわれながらも、僕はミノリに続いて船に入る。

「船員さんがいないのは寂しいですね……」
「いてもどうせスケルトンだから寂しさは紛れないと思うよ」

 ヴィクトワール号は無人で動いているが、そもそも動く必要があるのだろうか?
 疑問に思って前にエリスに聞いたことがあるが、ダンジョン入口の移動はこの船が風に乗って移動するのに連動しているので意味があるそうだ。
 だから、移動中はせわしなく帆が上がったり下りたり、ロープが引っ張られて方向を変えたりしている。
 まさしく幽霊船だ。

 実は興味が出てきて、この船のもとになったヴィクトリー号の図解絵本みたいなものを通販で買い求めたのだ。
 それを見ると、当時の帆船というものがいかに複雑な仕組みかということに感心した。
 そして、確かに大きな船体だが、ここに1000人近くの人が住んで数か月も航海していたという事実に信じられないとも思った。
 今はがらんとしているが、到底そんな大きさには思えないのだ。
 とはいえ、2名と幽霊1体にとって広いことには変わりなく、僕たちは後部甲板か、せいぜい休むためにその下の船長室を使うぐらいで、後の空間は使い道がない。

『座ったら?』
「うん」

 僕が手すりにもたれかかってそんなことを考えていると、エリスが声をかけてくる。
 僕はその場にそのまま座り込む。
 ダンジョン探索用の作業着だから下が甲板でも気にならない。

「今日はどんなダンジョンだっけ?」
『ご希望通り、アンデッド系よ。近くにお寺があるからボウズスレイヤーも喜ぶはずよ』
「お寺のアンデッドでお坊さんは出てこないと思うなあ……」

 むしろお化けを退治する側だろう。
 だが、ボウズスレイヤーもお化けの味方というわけではないだろうし、問題ないのかな?

「呼ばれた気がしました」

 ミノリが歩いて近づいてくる。

「別に呼んでないけど、準備はいいの?」
「問題ないです。我が愛槍、禿切丸も完璧です」
「……そのネーミング、絶対ミノリだよね?」
「なんでわかったんですか?」

 彼女が持っているのは振り回しやすそうな長さの槍だ。
 普段は柄が分割されていて、ねじが切られたそれらを連結することで槍の姿を取り戻す。
 これなら警官に呼び止められることもないだろう。

「スケルトンか一つ目小僧か、後は河童が出るといいですね」
「うん……スケルトンは出ると思うよ」

 最初のダンジョンから考えても、スケルトンと人魂は確実だろう。

「ランク的にはどうなんだっけ?」

 ここで僕が言うランクとは、もちろん本来そのダンジョンが公開されていたらどれぐらいの扱いになるか、ということだ。公開されていない以上実際の分類がDランクであるのは間違いない。

『うーん、C下位ってところね』
「なにが問題だったの?」

 それなら公開されていて問題ないはずだ。

『えっと、エ……違った、リソース量を計測した時にはC下位だったんだけど、内部設定中にその水準を超えたモンスターが発生したので閉鎖になったわ』
「それって、危なくない?」
『それでもせいぜい基準としてはC中位ぐらいのモンスターだったから、私たちなら危険はないと考えたわ。閉鎖は当時時間的余裕が無かったことと、ちょっと交通の便が悪いから有用性が低いという理由もあっての判断よ』
「そうか……それなら、問題ないのかな?」

 結局C中位ということだったら、世間で初めてダンジョン探索を始める高校生の方がよっぽど強いモンスターと戦うことになる。彼らはBやAのダンジョンに入るわけだから。
 もちろん、上位だからといって最初から強いモンスターが出てくることはないのだが、それでもCランクよりは強いはず。
 そして、探索初心者の死亡率は今のところ0%だ。
 死者はもっと奥地の、簡単に退却できないような場所で発生している。

「なら大丈夫かな……」

 僕は少し離れた甲板で、何やら足を上げて踏みしめたり、槍を振ったりしておかしな踊りをしているようなミノリを眺めながら、そう思うのだった。
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