電波少年と幽霊マネージャーの迷宮探索裏街道

春池 カイト

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5 隣人は仲間になりたそうにこちらを見ている

八城の力

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『うまくいったじゃない』

 最初に声をかけたのはエリスだった。

「はい、転ばなくて済みました」
「転ぶ? というか、何なの? ゾンビが吹き飛んでたけど……」

 混乱しているのは僕だけだったので、二人がかりで説明してくれる。

 あの動作は僕が一見してそう思ったように、相撲でおなじみの四股。
 ミノリの説明では、あれは元々結界や浄化をもたらす神道の技であるそうだ。

「要は柏手を足でやるっていうことです」
「なるほど……でも、槍を置いていたし柏手じゃダメだったの?」
「だって手が痛いじゃないですか」

 確かに、手のひらを打ち合わせて音を立てるのは、いい音を出そうとすれば痛いというのも分かる。
 お相撲さんは柏手も四股も両方やっていた気がするけど、あれは鍛えているからできるのだ。

「……それで、私四股は苦手だったんですよ。すぐ転んじゃうので」

 形をなぞるぐらいならできるが、ちゃんと技として特殊な効果をもたらすために集中すると、どうしても足元がおろそかになるらしい。

「あ、そうか、それで〈引力〉か……」
「そうです。足を地面にしっかり固定することができるようになって、私にも効果のある四股が使えるようになったわけです。ゾンビコロスベシ」

 ゾンビスレイヤーさんは、そのように言って胸を張った。

「今後は、踏み下ろす足の方にも〈引力〉を使って効果を高める練習もしているんですが、それはまだうまくいかなくて……」
「ともかく、効果はすごかったよ。びっくりした」

 スキル万能のダンジョン探索で、培っていた伝統の技がここまで役に立つとは思いもよらなかった。

『それにしても、あのモンスターは変ね』
「私もそう思います」
「あれ? ミノリは今回が初めてだよね」

 ダンジョンに入った経験なら、体験会、ヴィクトワール号での修行と複数回あるミノリだったが、モンスターと実際に相対するのは今回が初めてのはずだ。

「確かにそうなんですが、あれは妖怪の気配がありました」
「妖怪? って、ミノリの家が退治しているっていう」
「そう、その妖怪です」

 どういうことだ?
 ダンジョンは女神が作ったもので、モンスターもエリスなどの担当者が配置したものではなかったのか?
 混乱していると、その担当者本人が口を開く。

『なるほどね……あくまで予測に過ぎないけど……ねえミノリ、妖怪がいつの間にか発生している場所、っていうのは存在するの?』
「他ならぬうちの神社がそれですよ。だからその場所を封印して、湧いてきた妖怪を倒し続けるのが我が家の役目です」

 エリスは合点がいったという表情で説明を始める。

『ダンジョンは周囲の環境情報を収集して内部の構造を作るのよ。だからお墓のそばではお墓の形になるし、神社なら神社の参道、地下街にあれば地下道みたいにその特徴が反映されるわ。だから……妖怪の穴みたいなものがあったら、ダンジョン内の環境として妖怪の穴ができるのかもしれない』

 僕もミノリもすぐにその意味を理解することができなかった。
 しばし沈黙が続いたのち、僕はエリスに質問する。

「それじゃ、あのゾンビはモンスターと違うの? トラップ?」
『多分、そのどっちでもない。そうね……例えばこれ……』

 そこまで続けてエリスは壁に沿って並んでいる墓石の一つを指し示す。

『もしこの墓石が探索者に飛んで来たら、それは殺しにかかってくるわけだからトラップの一種に分類される。でも、探索者が戦闘中に勢いで墓石にぶつかってもケガをするわよね? その場合はトラップではなく環境による負傷、ということになるわ』
「でも墓石と違ってゾンビは動いて襲い掛かってきますよね」

 ミノリの疑問は当然だと僕も思う。

『だからこそ妖怪なんだと思う。ほら、物が勝手に動いて襲って来るとかいう話があるじゃない? 妖刀とか付喪神だとか、他にはポルターガイストとかね……これはそういうのと似た現象だと思うわ』
「面倒な……」

 普通のモンスターは情報が収集され、データベースが作られていて誰でも閲覧できる。出現場所や強さ、能力、そして弱点までも簡単に検索することができるのだ。
 ところが、こういうイレギュラーにはデータが存在しない。
 対策を立てようにも、妖怪の性質や弱点に付いて真面目にまとめられたデータベースなどこの世のどこにも存在しないだろう。
 おまけに強さもダンジョンの想定とずれているというのでは、探索者に死傷者が増えることにもなりかねない。

「今回はゾンビでまだ良かったってことですね」
『そうね、上位の、とはいえ既存のダンジョンのモンスターと似た性質だったから……』

 そして妖怪退治のプロフェッショナル(見習い)がこの場にいたというのも幸運だった。

『でも、あまり気にする必要は無いと思うわ。ダンジョンの調査をしたときに、ここみたいなイレギュラーはそんなに多くなかったから』

 そして、それらはここと同様に封印されているのだという。
 一般的な探索者が妖怪ベースのモンスターに合う可能性は0とのことだ。

「僕たちには関係あるよね?」
『そこは私が情報を持っているから、疑わしいダンジョンはちゃんと教えるわよ』
「それなら……いいのかな?」
「妖怪が出ても私がいれば大丈夫です。大概のものはうちに対処法が伝わっていますから」

 うーん、それなら何とかなるか。
 安心した僕は、ひとつ気になることを思い出した。

「ねえ、ミノリの神社の近くのダンジョンは大丈夫だったよね?」
『そうね……あれぐらいの距離だったら問題ないってことなんじゃない?』

 内部は参道だったしボスは天狗だったけど、あれは正常なダンジョンだったらしい。
 ミノリに聞くと、「うちの封印している妖怪の穴は神社よりもっと奥にありますよ」とのことだった。


*****


 そのあと、ゾンビはたびたび襲ってきたがすべてミノリに退治してもらった。
 これからはミノリ先輩と呼ばないといけないかもしれない。
 時折ミスをするが、そのあたりは僕のフォローが何とか追いつく範囲だった。

 そしてゾンビをかき分け、僕らは両開きの扉の前にたどり着く。

「これが?」
「そう、ボス部屋だね」

 いつもの洞窟型だが、ドアはふすまになっており、環境変化がここにも及んでいることがわかる。

「休憩しよう」

 僕自身はほとんど疲れていないが、それは道中でミノリが大活躍だったからだ。
 彼女は初めてのダンジョン攻略だというのに働き過ぎだ。
 適宜休憩をしてはいたものの疲労は蓄積しているだろう。

「はい、お茶」
「ありがとうございます」

 今回、僕は単独ではないので、そして念のためにいつもよりたくさんの物資を持ち込んでいる。
 今ミノリに渡したお茶も、魔法瓶で保温されたもので、湯気が立っている。

「はあ、やっぱり温かいものはありがたいですね」
「そんなに気温は低くないんだけどね」

 ダンジョン内は冬とはいえそこまで低温にはならない。
 確かにちょっと気温は低めだが、体を守るために厚着をしているので寒さは感じない。
 だけど、やっぱり温かいお茶というのは落ち着くのだ。

『どう? やっていけそう?』
「そうですね、結構スパルタでしたし……」
「ごめんね。ちょっと僕と相性が悪すぎた」

 危なくなったら介入するつもりではあったが、腐肉のシャワーというのは誰にとっても避けたいものだ。
 その分、ミノリに頑張ってもらうしかなかった。
 数少ないフォローは〈アイス・ワン〉による氷玉での攻撃だった。これなら腐肉は向こうに散らばるだけだ。

「やっぱり、僕も攻撃方法を増やさないとな……」

 特に、大勢相手に距離を取れるようなのを……
 僕は次の目標を定めるのだった。
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