電波少年と幽霊マネージャーの迷宮探索裏街道

春池 カイト

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ご近所付き合いレベル1

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「ぜひ、お願いします」

 僕がさっきのスキルの応用で転移じみたことができるというのを知ったミノリが、見せてほしいとせがむ。

「じゃあ、やってみるよ……〈モジュレーション〉」

 僕はその場から5m程離れた位置をめがけてスキルを発動させる。
 全身がほどけ、そして再構成される。

「すごい、これで電車代浮きますね。東京に引っ越しても一緒に居られます」
「うーん、それはちょっと……」
「え? 私を仲間外れにするんですか? ひどい……」
「そうじゃなくて、この能力も限界があるんだよね。まず、基本ダンジョン内でしか使えない」
「あ、ああ……リソースの関係で……」
「そうなんだ」

 ダンジョン内でスキルを使用可能にするリソースは、外では大気に放出される。
 だからこその拘束施設であり、30分も過ぎればスキルはほとんど役立たずになる。
 だから、僕が地上のどこでもワープして交通費を浮かすというのは不可能だ。

「あと、今のところは目視範囲でしか使えない。それと、これは僕の体を変化させているわけだから、他人を連れていくこともできない」

 きっと本来は自分の肉体だけ、というような能力だったのだろう。
 だけど、最初に使ったときに服も巻き添えにしたのが良かったのか、身に着けているものは自分自身扱いになっている。
 自転車を連れて移動もできなかったし、サイズ制限もあるのかもしれない。

「そうか……じゃあテレポートで大儲け、とかも無理ですね」

 僕とミノリの共通点は、「金がない」ということだ。
 僕の方は食費がかさんで大変だし、ミノリは実家が苦しい。

 そんなわけで、前に思いついたチップの換金計画にはミノリも乗り気だった。
 本当なら瞬間移動が使えれば交通が楽になるし一か所で目立つことも避けられるのだが、それはかなわないということにミノリはがっかりする。

「今度善光寺ダンジョンに連れて行ってよ」
「まさかデートですか! でも行き先がボウズの巣窟なのはちょっと……ダメですよ、相手の好みのリサーチ不足です」
「だって他にダンジョン無いでしょ?」

 まだ近くの善光寺ならば言い訳ができても、他県に連れ立って行くというのは受験生としていかがなものか。
 そのように言ったところ、今の今まで受験のことを頭から追い出していたようで動きが止まる。
 前は楽勝とか言っていたのに、やっぱり不安なんじゃないか……

「じゃあミノリはこれ以降しっかり勉強してね。受験まではダンジョンのことなんて考えちゃだめだよ」
「はあい、わっかりました」


*****


 ダンジョンを出てもまだ昼前だ。
 今日は朝から動いているので、休日がつぶれるということにはなっていない。

「どこかで昼ごはん食べていきません?」
「いいけど、おうちには?」

 今日は午前中の予定だった。
 昼には帰るとおうちの方でも考えているはずだ。

「ふふん、ついに私も手に入れたのですよ」

 そうしてミノリがリュックから出すのはスマートフォン。

「あ、スイッチ入れるならちょっと待ってね」

 僕は端末を操作して電波スキルを無効にする。

「いいよ」

 そしてミノリがスマートフォンのスイッチをいれ、自宅の固定電話にかける。

「あ、おばあちゃん、うん、大丈夫……あのね、お昼ごはん外で食べてきたいんだけど……うん、わかってるよそんなの……え? うん、ちょっと待ってね」

 通話中なのでちょっと離れていた僕の方にミノリがやってくる。

「何?」
「おばあちゃんが、先輩に代わってって」
「僕に?」

 手渡されたミノリのスマホを受け取り、僕は電話に出る。

「代わりました、宗崎です」
『ミノリがいつもごめんなさいね。それで、お昼ごはんをご一緒するそうだけど、先輩だからってミノリにおごったりはしないでちょうだいね』
「え? どういうことですか?」

 いくら金欠だって、年下の、それも中学生の女の子なのだから僕がごちそうするつもりだった。

『今からそんな甘えたことを考えるようになってはいけないと思うの。ただでさえ町に出るんだから、いろいろ変な誘惑があるかもしれないでしょう? 私としては心配で……』
「はあ……そういうことなら……はい、わかりました」
『あんまり遅くならないようにお願いするわね。あの子受験なんだし……』
「もちろんです。昼ごはんを食べたらすぐに変えるようにしますよ」

 そして再びスマホはミノリの手に渡る。

 僕はすでにミノリの祖父母とも顔を合わせている。
 僕のことは「幽霊が見えてダンジョンのことをよく知っている近所の人」という紹介がされ、先方も僕の祖父のことを知っていたので初対面から歓迎ムードだった。
 「そうか、宗崎の孫か」と昔のことを思い出すミノリのおじいさんには、僕も自分の体質の事情を話してあり、突然この辺りに住み始めたことを納得してもらった。
 ミノリと交際しているのではないか、という指摘はあるものと思っていたがそれもなかった。

 後でミノリに聞いたところ、そちらには確認があったようだが、ミノリ自身春から遠くに行ってしまうので、今後付き合うこともないだろうと納得していたそうだ。
 ミノリが祖父母に隠すのではなく、むしろ僕と祖父母の間で仲良くしてほしいという雰囲気で話したのも良かったのだとのこと。

 あるいはミノリのお父さんが居れば違ったのかもしれない。
 しかし彼は現在、ミノリのお母さんのところに滞在して、町での仕事を探している最中だ。
「何ともならなかったらうちで雇う」とミノリ母は言っているようだが、ミノリ父としては男の威厳の関係で首を縦に振らないそうだ。
 僕とおじいさんは男なのでなんとなく気持ちがわかったのだが、ミノリとおばあさんの同意は得られなかった。
 男女の隔たりは大きい。

 ともかく、そんな風にミノリの実家とはあいさつ程度の近所付き合いを始め、初詣には山返神社に行くことも約束してある。

「お待たせしました。じゃあ行きましょう」

 電話を終えたミノリの声に、僕は物思いをやめて合流する。

「あ、しまった」
「どうしたんです?」
「いや、僕の荷物が……」

 ミノリは武器も含めてリュックに収まっているが、僕の方はカトラスを持ったままだ。
 服装はいまさらだから目をつぶるとしても、(知られた)ダンジョン近くでもないこんな場所で武器を持ち歩いているのは職質案件だ。

『じゃあ私が預かっておくわよ』
「え? いいの?」
『どうせ、外で食事できるような体はまだないしね。私はヴィクトワール号で留守番しているから二人で行ってらっしゃい』
「そうか、ごめんね……やっぱりやめようか」

 エリスの事情を忘れていた。

『気にしないで、家に帰ったらちゃんと埋め合わせはしてもらうわ』
「あ、でも……どうせこんな山奥じゃ店も無いでしょうから結局船で送ってもらうんですよね? じゃあハンバーガーのテイクアウトとかでもいいんじゃないですか?」
「あ、そうか、それが良いかも」

 どうせヴィクトワール号で移動するなら、テイクアウトで船に戻ってから食べてもいいはずだ。
 ミノリの思いつきに助けてもらった。

『そうね、そうしてもらえるなら私もうれしいわ』

 その後、僕たちはちょっと郊外のハンバーガー屋でいろいろ買い込み、人目を避けてヴィクトワール号に乗り込んで、楽しい昼食を3人で取ったのだった。
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