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「ティエサ! 支度は終わってるのよね!?」
店の奥の机に向かいっぱなしのティエサを一瞥して、母が太い声を飛ばす。お客さんのいない時はいつも勝ち気でせっかちだ。口でティエサをせっつきながら、木桶の切り花を一本ずつ確かめる手は止まらない。
「見ての通り仕上がってるよー」
裏口では、仕入れた花を仲買人の荷馬車から父が運び込み、兄は店の表に並べる桶を抱えていた。
ティエサの家は花屋だ。水仕事力仕事だらけだし、時には鉢物の土や、花や葉自体の色が付くこともある。
そのため、今日は聖女候補選別――通称「水鏡の儀式」に行くための一張羅を汚せない、とティエサは最も忙しい朝の開店準備に一切触らせてもらえない。それで仕方なく、奥の机で仕入台帳をめくっている。父の台帳管理は意外と穴があり、仲買人の検数も甘いので、最近は暇を見てティエサも台帳を見るようになっていた。
「城下町行きの馬車が教会前に来るんだから、乗り遅れたりしたらセリソールさんちに面目立たないよ」
「うん、もう行くわ」
この町の教会を管理しているセリソール家は、女神に供えたり、祭礼の飾り付けに使ったりする花々をうちの店に発注してくれる、代々のお客さんだ。水鏡の儀式は城下町の大きい教会で行われるため、この辺りの十六歳を迎えた娘たちは、教会が出してくれる乗り合い馬車で行くことになっている。
家族三人に見送られ、歩いてすぐのセリソール教会へ向かった。教会前の広場は、乗り合い馬車とそれに列を成す女子たちでひしめき合っている。そして馬の臭いが立ち込める教会前広場というのは、年に一回の奇妙な光景だ。
「ティエサー!」
広場の一角で落ち合う約束をしていた友人たちが、大きく手を振っている。一緒に並んで、同じ馬車に乗るためだ。
「遅くなってごめん」
「まだ全然平気だよ」
「あ、花飾ってる。可愛い!」
「カヤリーだ。ピンク以外の初めて見た~」
「今日入った中にたまたまあったの」
三人の幼馴染たちは集まるといつも賑やかだ。皆町でそれぞれ商売をやっている家の娘で、同い年で近所のため、教会で読み書きや計算などを習いながら自然と一緒にいるようになった。
八人乗りの箱馬車に無事四人で乗り込み、二人ずつ向かいで座る。残り半分には二人組が二組座り、道中の雰囲気は気を遣わなくてよさそうになった。
「そういえば、今日キアレン様に会えるかな?」
出た。うちの町の有名人。
「ね! もう随分大人になられたんじゃない?」
「見たい~!」
キアレン・セリソール。この馬車が出てきたセリソール教会の息子で、その優秀さから神学校に二年前倒しで入学し、本来神学校を卒業する二十二歳にして既に城下町の大教会での務めに服している――今日ティエサたちが水鏡の儀式を受けに行く、領地内一番の教会に。
あとは顔がいい方らしく、町にいた頃は教会に佇む姿がよく騒がれていた。
「ね、ティエサ、何か聞いてない?」
友人グループ間の薄い膜を破って、粉屋の娘が尋ねてきた。イアンヘンの花屋がセリソール教会と懇意なのはよく知れた話だ。
「うーん、特に何も。若いから教会の表じゃなく、裏で仕事してるかも」
「えー、そっかぁ」
家の使いでセリソール教会を訪ねることはよくあった。神学校に行く前のキアレンは聖堂を掃除したり、花を含む捧げ物の確認をしたり、書庫を整理しながら勉強したりしていた。祭礼の日に祭壇の前に立つのは、彼の父や祖父だった。
キアレンもまた、イアンヘンの店によくお使いに来ていたが、色褪せた修道服姿で駆け回っているのはあまり知られていないのか。顔がいいというのは理解しがたかったが、頭がいいというのはティエサにも分かった。
店の奥の机に向かいっぱなしのティエサを一瞥して、母が太い声を飛ばす。お客さんのいない時はいつも勝ち気でせっかちだ。口でティエサをせっつきながら、木桶の切り花を一本ずつ確かめる手は止まらない。
「見ての通り仕上がってるよー」
裏口では、仕入れた花を仲買人の荷馬車から父が運び込み、兄は店の表に並べる桶を抱えていた。
ティエサの家は花屋だ。水仕事力仕事だらけだし、時には鉢物の土や、花や葉自体の色が付くこともある。
そのため、今日は聖女候補選別――通称「水鏡の儀式」に行くための一張羅を汚せない、とティエサは最も忙しい朝の開店準備に一切触らせてもらえない。それで仕方なく、奥の机で仕入台帳をめくっている。父の台帳管理は意外と穴があり、仲買人の検数も甘いので、最近は暇を見てティエサも台帳を見るようになっていた。
「城下町行きの馬車が教会前に来るんだから、乗り遅れたりしたらセリソールさんちに面目立たないよ」
「うん、もう行くわ」
この町の教会を管理しているセリソール家は、女神に供えたり、祭礼の飾り付けに使ったりする花々をうちの店に発注してくれる、代々のお客さんだ。水鏡の儀式は城下町の大きい教会で行われるため、この辺りの十六歳を迎えた娘たちは、教会が出してくれる乗り合い馬車で行くことになっている。
家族三人に見送られ、歩いてすぐのセリソール教会へ向かった。教会前の広場は、乗り合い馬車とそれに列を成す女子たちでひしめき合っている。そして馬の臭いが立ち込める教会前広場というのは、年に一回の奇妙な光景だ。
「ティエサー!」
広場の一角で落ち合う約束をしていた友人たちが、大きく手を振っている。一緒に並んで、同じ馬車に乗るためだ。
「遅くなってごめん」
「まだ全然平気だよ」
「あ、花飾ってる。可愛い!」
「カヤリーだ。ピンク以外の初めて見た~」
「今日入った中にたまたまあったの」
三人の幼馴染たちは集まるといつも賑やかだ。皆町でそれぞれ商売をやっている家の娘で、同い年で近所のため、教会で読み書きや計算などを習いながら自然と一緒にいるようになった。
八人乗りの箱馬車に無事四人で乗り込み、二人ずつ向かいで座る。残り半分には二人組が二組座り、道中の雰囲気は気を遣わなくてよさそうになった。
「そういえば、今日キアレン様に会えるかな?」
出た。うちの町の有名人。
「ね! もう随分大人になられたんじゃない?」
「見たい~!」
キアレン・セリソール。この馬車が出てきたセリソール教会の息子で、その優秀さから神学校に二年前倒しで入学し、本来神学校を卒業する二十二歳にして既に城下町の大教会での務めに服している――今日ティエサたちが水鏡の儀式を受けに行く、領地内一番の教会に。
あとは顔がいい方らしく、町にいた頃は教会に佇む姿がよく騒がれていた。
「ね、ティエサ、何か聞いてない?」
友人グループ間の薄い膜を破って、粉屋の娘が尋ねてきた。イアンヘンの花屋がセリソール教会と懇意なのはよく知れた話だ。
「うーん、特に何も。若いから教会の表じゃなく、裏で仕事してるかも」
「えー、そっかぁ」
家の使いでセリソール教会を訪ねることはよくあった。神学校に行く前のキアレンは聖堂を掃除したり、花を含む捧げ物の確認をしたり、書庫を整理しながら勉強したりしていた。祭礼の日に祭壇の前に立つのは、彼の父や祖父だった。
キアレンもまた、イアンヘンの店によくお使いに来ていたが、色褪せた修道服姿で駆け回っているのはあまり知られていないのか。顔がいいというのは理解しがたかったが、頭がいいというのはティエサにも分かった。
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