聖女の水鏡

七川湖穂 / 掛園湖冬

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(……花屋だ)

 商業区に入り、色々な店が並ぶ中でもティエサの目に飛び込んでくるのは花屋だ。実家とは違って都らしい店構え、並んでいる花材も薔薇などの高級品や、知る品種の中でも見たことのない色や形のものもあった。

 そこで思い出して、左耳の後ろに指をやる。

 今朝、家族がティエサの髪にカヤリーの花を挿してくれた。教会の祭礼規則で制限があるから、と言ったティエサに残る躊躇いを兄が見抜き、茎を挿しやすいようにと母が編み込みをし、父が入荷品の中からカヤリーには珍しい薄紫色の花を見付けてきた。

 カヤリーの花言葉は「保護」「守り」。花の色は淡いピンクが基本だが、たまに紫寄りのものが混じることがある。そして紫色は、カヤリーの花以外でも魔除けの意味を持っていて、宝石や教会の祭具でも信じられている。

 聖女候補に選ばれたら名誉なことだが、城下町の教会で選抜の儀式が続き、故郷には数ヶ月帰れなくなる。選ばれなければ家族の元には戻れるが、聖女候補という肩書きと都市での煌びやかな生活、というありふれた少女の憧れは破れることになる。

 自分がどちらを望んでいるのか、ティエサは分からないまま今日まできた。自分が特別な存在だなんて物語じゃあるまいしと思いつつ、もしも家に帰れなかったら――聖女に選ばれなくとも、馬車の事故などはある。

 道中だけでも、守ってもらえてよかった。編み込みを崩さないように押さえながら、花だけを引き抜く。馬車の左端に座っていたティエサが、薄紫のカヤリーをハンカチに包んで鞄にしまった時には、他の少女たちも各々の身なりや胸の内で手一杯のようだった。
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