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ハロー プリムラ!!
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窓の外の喧騒とスマホのアラームでジュリアンは重いまぶたを開けた。カーテンの隙間から細く射す光が雑貨でごった返す部屋を照らしている。
ジュリアンはまだ眠気が残る頭で時間を確認すると、9時……10分。
「やばっ!!遅刻じゃん!!」
ベッドから跳ね起き、慌ただしく部屋を駆け回る。髪を束ね、昨日のまま放置していたリュックを掴み、ドアに突っ込んだ。
「……ラジオの天気予報、今回は当たったみたいね!!」
ジュリアンは雲一つ無い青空を眩しそうに見上げ、そう呟きながら錆びた階段を駆け下りた。
アメリカ、ニューヨーク州。世界経済でもトップを争うこの大都市には、当然様々な公共機関や一流企業が集まる。
ジュリアンは物心ついたときから、この都市に憧れてきた。その憧憬は収まらず、ついには両親に懇願し、無事こちらの大学に進学することを許された。
受験に合格したジュリアンはさっそくひとり暮らしをするための物件を探し回った。だが、ジュリアンが求める部屋は少なく、ようやく見つけたのがこのアパートだった。
都心からは遠いが、大学には近い。家賃もバイトと仕送りを足せばなんとかなる。
即決だった。
「ああ!ヤバいよ……!!」
イヤホンから流れてくるアップテンポの曲に合わせてジュリアンは走る。
講義開始時間は9時30分。ジュリアンはスマホを確認する。
だが、無情にも目の前の信号は赤い手。
焦ったジュリアンの目に留まったのは、普段は行ったことのない、大人がやっと入れそうなくらいの路地だった。
幸いその路地は、大学方面に向かっており、上手く行けばショートカットにもなるだろう構造だった。
「……行くしかないでしょ!!」
そう言ってジュリアンは細い路地へ飛び込んだ。
やはり路地とは不気味なもので、足を踏み入れた途端、一気に別の世界へと引きずり込まれたようだった。
路地には使い古されたゴミ箱や生活用品、壁を這うように伸びる配管などがあり、それがなお一層のこと雰囲気を引き立てている。
ジュリアンは一瞬怯んだが、遅刻するか否かの瀬戸際なので、あまり周囲を見ずに一直線に走ることにした。
「まだ朝じゃない、何を怖がる必要があるのかしら?」
自分を奮い立たせ、イヤホンの音も大きくし、なるべく前方のみを見て走り出す。
ゴミやら何やらを飛び越え、出口を目指す。
背中のリュックも急かしているかのように踊り回る。音楽もそろそろクライマックスを迎える。
路地の暗さよりも明るさが勝ってきた、その時だった。
「……あれ?こんなところに家……?」
あまりにも異質な光景だったので、ジュリアンは思わず足を止めた。
今までとは違う、渋めな赤レンガ造りの建物がそこにひっそりと佇んでいた。
好奇心に駆られ、ジュリアンは建物をよく観察した。
ドア部分にはオーニング(雨よけ)があり、その下にはイーゼルに立て掛けられたブラックボードが置かれていた。
内容からして、カフェっぽいメニューが載っている。しかも可愛らしい絵のおまけ付きだ。
「……今日やってるのかな……」
遅刻のことなどすっかり忘れてジュリアンは向かって右の窓から中を覗いた。
窓ガラス越しからは詳しくは見えないが、店員らしき人影と客らしき人影が動いているのが見て取れた。
「入ってみようかな……まぁ、ダメだったら引き返せばいいもんね……」
改めて入り口に立ったジュリアンはイヤホンを引っこ抜き、髪を整え、少しの躊躇の末、思い切って扉を開けた。
チリリン、とドアベルが鳴り響く。
カフェ全体が、ジュリアンに注目する。
「あのー……今日ってやってますか……?」
控えめにそう尋ねると、店員らしき人影の主(やはり店員だった)はジュリアンを驚きと困惑の表情で見つめたが、それもすぐに薄れ、朗らかな顔で出迎えた。
「ハロー!ようこそ、カフェプリムラへ!!」
ジュリアンはまだ眠気が残る頭で時間を確認すると、9時……10分。
「やばっ!!遅刻じゃん!!」
ベッドから跳ね起き、慌ただしく部屋を駆け回る。髪を束ね、昨日のまま放置していたリュックを掴み、ドアに突っ込んだ。
「……ラジオの天気予報、今回は当たったみたいね!!」
ジュリアンは雲一つ無い青空を眩しそうに見上げ、そう呟きながら錆びた階段を駆け下りた。
アメリカ、ニューヨーク州。世界経済でもトップを争うこの大都市には、当然様々な公共機関や一流企業が集まる。
ジュリアンは物心ついたときから、この都市に憧れてきた。その憧憬は収まらず、ついには両親に懇願し、無事こちらの大学に進学することを許された。
受験に合格したジュリアンはさっそくひとり暮らしをするための物件を探し回った。だが、ジュリアンが求める部屋は少なく、ようやく見つけたのがこのアパートだった。
都心からは遠いが、大学には近い。家賃もバイトと仕送りを足せばなんとかなる。
即決だった。
「ああ!ヤバいよ……!!」
イヤホンから流れてくるアップテンポの曲に合わせてジュリアンは走る。
講義開始時間は9時30分。ジュリアンはスマホを確認する。
だが、無情にも目の前の信号は赤い手。
焦ったジュリアンの目に留まったのは、普段は行ったことのない、大人がやっと入れそうなくらいの路地だった。
幸いその路地は、大学方面に向かっており、上手く行けばショートカットにもなるだろう構造だった。
「……行くしかないでしょ!!」
そう言ってジュリアンは細い路地へ飛び込んだ。
やはり路地とは不気味なもので、足を踏み入れた途端、一気に別の世界へと引きずり込まれたようだった。
路地には使い古されたゴミ箱や生活用品、壁を這うように伸びる配管などがあり、それがなお一層のこと雰囲気を引き立てている。
ジュリアンは一瞬怯んだが、遅刻するか否かの瀬戸際なので、あまり周囲を見ずに一直線に走ることにした。
「まだ朝じゃない、何を怖がる必要があるのかしら?」
自分を奮い立たせ、イヤホンの音も大きくし、なるべく前方のみを見て走り出す。
ゴミやら何やらを飛び越え、出口を目指す。
背中のリュックも急かしているかのように踊り回る。音楽もそろそろクライマックスを迎える。
路地の暗さよりも明るさが勝ってきた、その時だった。
「……あれ?こんなところに家……?」
あまりにも異質な光景だったので、ジュリアンは思わず足を止めた。
今までとは違う、渋めな赤レンガ造りの建物がそこにひっそりと佇んでいた。
好奇心に駆られ、ジュリアンは建物をよく観察した。
ドア部分にはオーニング(雨よけ)があり、その下にはイーゼルに立て掛けられたブラックボードが置かれていた。
内容からして、カフェっぽいメニューが載っている。しかも可愛らしい絵のおまけ付きだ。
「……今日やってるのかな……」
遅刻のことなどすっかり忘れてジュリアンは向かって右の窓から中を覗いた。
窓ガラス越しからは詳しくは見えないが、店員らしき人影と客らしき人影が動いているのが見て取れた。
「入ってみようかな……まぁ、ダメだったら引き返せばいいもんね……」
改めて入り口に立ったジュリアンはイヤホンを引っこ抜き、髪を整え、少しの躊躇の末、思い切って扉を開けた。
チリリン、とドアベルが鳴り響く。
カフェ全体が、ジュリアンに注目する。
「あのー……今日ってやってますか……?」
控えめにそう尋ねると、店員らしき人影の主(やはり店員だった)はジュリアンを驚きと困惑の表情で見つめたが、それもすぐに薄れ、朗らかな顔で出迎えた。
「ハロー!ようこそ、カフェプリムラへ!!」
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