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第39話:お風呂地獄。

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「……ん、君か。おはよう」

 昨日夕飯の後俺はすぐに眠気にやられて爆睡してしまったのだが、少し早めに目が覚めたので朝風呂でも借りようかと思ってオリオンを探していた。

「昨日はうちの馬鹿ネコがすまなかったな」
「いや、好きなだけ食べていいと言ってしまったのはこちらだから気にしなくていい。まさかあれほど食べるとは思わなかったが……」

 そう言ってオリオンは苦笑いした。

「ほんとあの身体のどこにあれだけの食い物が入ってるんだろうな……。あ、そうそう風呂を借りたいんだけどいいだろうか?」

「む……それは構わないが……出来れば女性用の風呂を使ってはもらえないだろうか? この時間は多分執事が使っているだろうからな」

「あの執事さんか……別に男同士なら特に問題ないんじゃないか?」
「いや、君の外見に問題があると言っているんだよ」

「……え?」

 自分の身体を確認するために視線を下に移すと……一晩寝た後だというのに二つのふくらみがそこにあった。

「……あ? おいどういう事だこれは」
「それを私に聞かれても困るのだが……」
「あ、いやオリオンに言ってるんじゃなくてだな……」
「あぁ、頭の中のもう一人とやらに聞いているのか……なるほどな」

 なんとなくだけどこちらの事情を把握しようとしてくれているようでありがたい。

 ってわけでどうなってんだこれは?
『どうなってると言われてもねぇ……昨日はいろんな記憶を引き出したり私の力使ってる時間が長かったでしょう? それだけ反動も大きいって事よ』
 じゃあこの身体しばらく女のままって事なのか?
『うーん、もう少しって所だと思うわ。あと半日もかからないわよ』
 ……。

「まだもう少し身体がこのままっぽいから女湯の方に入らせてもらうけど、くれぐれも……」
「ああ、うちのメイド達には客人が使っているから入らないようにと言っておくよ。……一つ確認したいのだが、今は体は女性で中身は男性だと思っていいのかな?」

「はぁ……うん、その認識であってるよ」

 念の為もう一度誰も入ってこないように念を押して、風呂場の場所を聞いて向かうと、分かりやすく日本の温泉のように男と女で浴室が分かれていた。

 女湯の方へ入ると脱衣所があり、これまた日本の温泉のように籠が幾つも置いてあったのでそこへ服を放り込む。

 ……しかし、こうやって改めて自分の身体を見ると本当に完全な女になってやがる。
 胸はそれなりの物がついてるし下にはある筈の物が付いてないし。

『……まさかとは思うけれどまた自分の身体に欲情したりしないわよね?』
 うるせぇなぁ……もう見慣れたよ。さすがに女体に免疫の無い健全な男子なんだから最初は大目に見てくれ。

 ママドラの巣でしばらく過ごした時は風呂なんて立派な物は無く、水浴び場が用意されているだけだったので震えながら水を浴びていたのだが、最初自分の身体を見た時はさすがに……まぁ、分かるだろう?

『君はいったい誰に言い訳をしているのかしら』
 ほっといてくれ。とにかく、健全な男がいきなり女体を見たらいろいろ思う所があるんだよ。
 それこそ頭の中にママドラが居るって状況だからいろいろ思いとどまったが完全に一人だったら何をしていたかわからんぞ。

『……うぇ~っ』
 うぇ~っじゃないんだよそういう物なんだ男っていうのは。こればっかりは仕方ないんだって。

『それなら今からでも遅くないから試してみたら?』
 ば、馬鹿なのか? さすがにお前に見られながら何かする気にはなれん。むしろお前の視線を意識して自分の胸を洗う事すら躊躇うくらいなんだぞ?

『でも男の身体の時にも何も出来て無いみたいだからちょっと可哀想になって来ちゃったのよね』
 うるせぇなぁ!! さすがに人に見られながら処理する気になんかなれねぇだろ普通!

『君の記憶の中にはそう言うのを好む人も居たみたいだけれど……』
 だから過去の俺を引き合いに出すな頼むから……!

 はぁ……このやりとりももう飽きるくらい繰り返した。風呂に入るたびにいろいろ考えてしまうので頭の中が筒抜けのママドラにいつもからかわれてしまう。

 無心だ無心。それしかない。

 浴場に入ると湯気が物凄くて周りがよく見えないくらいだったが、ちゃんと身体を洗う場所は用意されているようなので日本の温泉の様式とさほど変わらないようだ。
 宿の風呂はそれこそ簡素な湯舟があるだけだったからな……。こういうのも久しぶりだ。

 大きな木製の浴槽、そして浴場の壁際には水路のようにお湯が流れていて、そこが身体を洗う場所のようだった。
 小さな椅子が用意されており桶が備え付けられていて、その水路のようなところからお湯を汲み取って浴びる事が出来る。
 流したお湯は再び水路に流れていって、そのお湯は湯舟とは別の場所へ流れていくようになっているらしい。
 よく出来た温泉じゃないか。

 この世界の石鹸は日本のやつのように柔らかくはなく、まるで石のようだったが、それでもぼちぼち泡は出る。それを使って頭も身体も全部ちゃちゃっと洗い、誰も居ないのを良い事に勢いよく湯舟へ飛び込む。

「ふにゃぁぁっ!?」

 ……今何か聞こえなかったか?
『現実逃避はやめた方が良いわよ』

「……ご、ごしゅじん?」

 やっぱり……湯気でよく見えないが大きな浴室の向こう端に馬鹿ネコが居るらしい。

「あ、あのっ、入浴中に来るなんて、その……まだ心の準備がっ」
「馬鹿野郎。俺はちゃんとオリオンに許可を取って入ってるんだ。どうせお前は勝手に入ってたんだろ」
「うにゃ……そうですけどぉ~」
「だったらしばらく目を瞑っててやるからさっさと出ろ」
「……」

 しばらく目を瞑っていると、ネコが移動する音がなんとなく聞こえてきた。

「もういいか?」

 ……反応が無いのを確認して目を開ける。
 目の前にネコが居た。

「うわぁぁぁっ!!」
「ごしゅじん……私、その……一緒にお風呂っていうのもいいかなって……」
「わ、分かった、分かったからとりあえず湯舟に入れ! 目の前に突っ立ってんじゃねぇよ丸見えだろうが!!」

『くくくっ、この子やっぱり面白いわ』
 馬鹿言ってんじゃねぇよこっちの健全な男子心がいい加減爆発しそうなんだよ!

『爆発……爆発ねぇ? どこがかしらねー』
 こいつ腹立つ……!

『我慢は良くないって事よ。ちょうどいいからこの子に手伝ってもらったら?』
 ……ば、馬鹿言うんじゃねぇよ。

『ちょっと考えてやんのバーカ!! 面白過ぎ!』
 この野郎……!!

「……ごしゅじん? 迷惑でしたか?」

 ネコが俺の隣に来て肩を寄せてくる。勿論浴槽内だから裸な訳で、湯気が凄くたってすぐ隣にいたらそれなりにいろいろ見える訳で。

「た、頼むからあまり寄るな。俺だって男なんだからな!?」
「あれ、もしかしてちゃんと女の子として意識してくれてるんですかぁ? 嬉しいです♪」

 そう言ってネコミミをぴこぴこさせやがる。
 クソが。結構可愛いじゃねぇかよ……!


『ひーっひひひっ!!』
 頼むから俺を弄ぶのをやめてくれ……!
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