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第54話:一時閉幕【第一部完】

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「あ、ごしゅじん……目が覚めましたか?」

 頭がぼーっとする。
 今まで俺は何をしていたんだったか。

「ごしゅじん、大丈夫ですか?」

 誰だこいつ。

 目の前には綺麗な水色の髪をした修道女のような女の子が俺の顔を覗き込んでいた。
 距離が近いよ。

 というかこの姿勢は……。

 俺の視界にはまず二つのふくらみが至近距離にあって、その向こうに彼女が心配そうに俺を覗き込んでいるのが見えた。

 ……膝枕?

 俺はどうやらベッドに寝ているらしいが、なぜこの少女はベッドで寝ている俺にわざわざ膝枕をしているのだろう?

「ごしゅじん、ごしゅじんってば! 大丈夫ですか? 私の事分かりますか?」

「……誰だっけ」

 途端に少女が悲しそうな顔になってその瞳に涙を溜めはじめ、やがて溢れて俺の顔に落ちてくる。

 剣聖の癖にこんな女の子を泣かしてしまうなんて俺はまだまだだな……。

 ……剣聖?
 いや、違うだろ何妙な妄想してるんだ?
 俺はただのへっぽこ冒険者だった筈だ。

「私の事、忘れちゃったんですか? 私ですよごしゅじん、ユイシス・ウィンザー・ニャンニャンですよう」

「にゃんにゃん……?」
 頭が痛い。確かに俺はこの子を知っている気がする。

「ごしゅじんは私の事いつも馬鹿ネコって……」

 なんだよそれ。女の子にそんな呼び方してたのか俺は。最低のクズ野郎じゃないか。

「お願いですよぅ、思い出して下さい……私、ごしゅじんに忘れられちゃったらどうやって生きていけばいいんですかぁ~っ!」

 彼女の頭、髪の毛の中からぴこんともう一つの耳が現れた。

 ネコミミ!

 気が付けば俺は勢いよく起き上がっていた。

「ごしゅじん、まだ無理しちゃダメですってば……」

「……ネコか。すまん、ちょっと記憶が混濁してて……」

 そうだった。こいつはユイシス。俺の事をごしゅじんと呼ぶ馬鹿ネコだ。
 食いしん坊で金が無くて卑猥な事ばっかり言ってるアホの子だ。

「思い出しましたか!? 私達恋人同士だったんですよ?」
「どさくさに紛れて適当な事言ってんじゃねぇよ馬鹿ネコが」

「えへへっ、よかったぁ……いつものごしゅじんだぁ」

 ネコはほっとしたように急に力が抜け、仰向けに倒れてしまった。

「私、怖かったです……ごしゅじんにもしもの事があったらって……だから、だから……」

「悪かった。あの戦いで少し無理をしすぎたらしい。もう大丈夫だ。……イリスはどこだ?」

 イリス。イシュタリス。俺の娘。

「というかここはどこだ?」

 俺はどうやらどこかの家の中に居るようだ。
 それなりに広く、調度品もシンプルだが品のある作りの物が多かった。

「えっと、一つずつ説明しますね」

 どうやら俺はキララとの闘いの後意識を失ってしまった。
 二人が俺を運び出して、転移装置を通ったあときちんと破壊してくれたそうだ。
 イリスが一生懸命殴り壊したというのだから驚きである。

 ……いや、イリスはキララの腹に風穴開けるくらい強かったんだった。

 その後、俺達は王都から来た兵に取り押さえられそうになったらしいが、商人のおっちゃんが馬車で突っ込んで来て俺達を乗せて逃げてくれたらしい。

 案の定俺達は大罪人として手配されてしまったそうだ。
 イリスは子供な事もあったからか手配書の中には無かったが、俺とネコは完全に犯罪者としてあちこちに手配書が張り付けられているそうだ。

「……じゃあここはどこだ? 誰の家なんだ? それにイリスは……」

「ここはシャンティアですよごしゅじん」

 シャンティアだと? 馬車でシャンティアまで戻って来たのか? 俺はそんなに長い時間気を失っていたのか。

「じゃあもしかしてここは俺達の家なのか?」

 貴族連盟のノインが用意してくれた家。

「だとしたら早くここを出た方がいい。ここは俺の家として登録されているしすぐにバレてしまうぞ」

「ここはごしゅじんの家じゃありませんよ」

 ……シャンティアで、俺の家じゃない?
 だとしたら、もしかしてノインの屋敷だろうか?

「ここはレイラさんの別宅です」

 レイラ……レイラ……そうだ。ノインの娘だったな。

「ただいま」
「ただいまーっ♪」

 元気な女の子の声が聞こえてくる。多分一人はイリスだ。

「イリスちゃんは手配書に乗ってませんから、買い出しに行ってきてもらったんですよ」

 コンコン、とドアを叩く音がする。

「どうぞ。ごしゅじんが目を覚ましました」
「えっ、本当ですか!?」

 ガチャっと開けられたドアの向こうにはレイラとイリス、そして……もう一人女の子。

「あぁ、ミナト様……! お目覚めになられて良かったです!」

 レイラが大げさな動きで俺の傍らまで近付き、俺の手をぎゅっと握って自分のほっぺたへ持っていく。

 急にそんな事をするもんだからビックリと照れでどうしていいか分からなくなってしまった。

「まぱまぱーっ♪ 元気になってよかった☆彡」
「おう、イリス。随分待たせちまったみたいだな」

 イリスを手招きして呼び寄せ、空いている手で頭を撫でる。

「にへーっ♪」
 幸せそうなこの笑顔がまた見れてよかった。
 頑張った甲斐があるってもんだ。

「……レイラ」
「ひゃいっ!?」

 驚きすぎだろ……。

「俺達は今や大罪人だ。こんな所に匿って大丈夫なのか?」

「はい、勿論です。貴方には恩がありますから。それに、これはノインお父様、そして私……それに……そこにいる妹のレイン三人で決めた事です。後悔はありません」

 紹介された当のレインは恥ずかしそうにレイラの背中に隠れてしまった。

「君はあの時の……良かった、もう元気になったみたいだな」

 そう話しかけると、おずおずとレイラの背中から出てきて、指をもじもじしながら小声で「ありがとう」と言ってくれた。

 あぁ、これがあの時俺が守った物なんだな。

 レインにイリスがとことこと近寄り、にっこりと笑いかけると、レインも優しく笑いかえす。

 どうやら俺が眠りこけている間イリスと仲良くしてくれていたらしい。

「さて……匿ってくれてるのは嬉しいが、いつまでもここに居る訳にはいかないだろう。近いうちに出ていくよ」

「私としてはいつまでも居てくれていいんですが……そうですね、変装して、国外へ出た方がいいと思います」

 国外……か、それも悪くないな。
 ダリル王国を出てシュマル共和国あたりにいくのもいいかもしれない。

 追手から逃れ、別の国……それも田舎でのんびり暮らすんだ。

「おーっ、オニーサン目を覚ましたのネ! 心配したヨ!」

「おっちゃんも無事で良かったよ。無理させちまって悪かったな」

 ネコが言うにはおっちゃんも俺の一味という扱いになってしまったらしい。
 とは言っても商人らしき人物、としか分かっていないらしいが。顔が割れてないのはありがたい。俺に巻き込まれておっちゃんまで手配書扱いになるのは流石に申し訳ないからな。

「気にしなくてイイネ。これはワタシが自分で決めた事ヨ」

「じゃあついでにもうちょっと付き合ってくれるか? この国を抜け出してのんびり楽しく暮らそうぜ」

「ごしゅじん……私もついて行っていいんですよね……?」

 ネコが心配そうに俺の眼を見つめる。
 俺はその頭をぽんぽんと軽く叩いた。

「当たり前だろ? お前がこなきゃつまんねぇよ」

「ごしゅじん……!」
「やったー♪ にゃんにゃんも一緒だね♪」

 俺のやるべき事、やりたい事は終わった。
 あとはキララに見つからないようにひっそりと、のんびり楽しく余生を送るだけだ。

 新しい人生、そして俺の最後の人生。最高に平和なスローライフと行こうじゃないか。



――――――――――――――――――――――――――――


ひとまずここで一区切りです!
明日から第二部突入になりますが、ここまでお付き合い下さりありがとうございます♪
引き続き第二部も引き続きお付き合いくださいませ☆彡
今後とも頑張りますので応援よろしくお願いします♪
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