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第77話:アリアの実力。

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「オネーサン達! 魔物ヨ! なんとかしてほしいネ!」

 やっぱりまた魔物が活発に動き出しているのだろうか?
 前の時は明らかにキララの影響だろうが、これは……?

 おっちゃんの要請に、馬車の中にネコを残し俺とイリス、アリアが外へ出る。

「……なんだ、これだけか?」

 どうやら今回は偶然魔物と遭遇しただけのようだ。
 馬車の行く先を塞ぐように現れ、唸っているそれはシェルリザードという魔物三匹。
 人型のトカゲみたいなのなんだが、全身が亀の甲羅のような固い殻に覆われていて、コツを知らないと剣が通らない。

 とはいえ、対処法さえ分かっていればそこまで苦労する相手ではない。勿論中級冒険者がパーティを組んでいれば、という話だが。

 こいつらの対処法は関節部分を正確に切りつけ、外殻の隙間を攻撃する事。
 或いは殻の上から強力な打撃をぶち込む事。
 今の俺やイリスならどうという事は無い。

「ミナト殿、ここは私に任せて貰えないだろうか? 同行するのであれば私の実力も知っておいてもらいたい」

「……騎士団長なんだから腕前は心配してないんだが……そこまで言うなら今回はお願いしようか。イリス、手を出すなよ」
「うん、分った♪ アリちゃん頑張ってね♪」

 イリスがにこやかに手を振りながら馬車の荷台に寄り掛かる。
 完全に傍観姿勢に入ったらしい。

「そのアリちゃんというのはなんだか気恥しいな……。しかしイルヴァリース様の娘から期待されてしまっては血がたぎるという物よ!」


 アリアは掌を上に向け何やら呟くと、その掌にいつの間にか剣の柄が握られていて、根本から上空へ向けて刀身が現れる。

 ママドラ、アレなに? どうなってんの?
『少しは自分で考えなさいよ……君がやってたのと似たようなものよ。規模は小さめだけどね』

 ……俺がやってたのと似たようなもの?
 って事はあれはマジックストレージか。自分の剣を別の空間にしまっておき、必要な時に取り出す……彼女の剣はかなり大振りの大剣なので持ち歩く不便さを考えると非常に効率がいい。

 彼女自身がマジックストレージを使うからこそ俺のやった事をすぐに理解できたのか。

『ほら、考えればちゃんと君にも分かるでしょう? なんでもかんでもすぐに私を頼るのはどうかと思うわ』
 お前はどういう立ち位置なんだよ……俺の先生か何かか?

『そんな事はどうでもいいじゃない。それより、始まるわよ』

 アリアは自分の身長ほどもありそうな大剣を掲げ、上段に構えたままシェルリザードを見据える。

 まず動いたのはシェルリザードの一体。槍を構えて一直線にアリアへと向かって来た。

 なかなか素早い動きでアリアへと槍を向けるが、それを彼女は上半身を軽く捻るだけでかわし、その隙を逃さず大剣を上段から斜めに一閃。
 無造作に振り下ろしたように見えたそれは、実際は肩の外殻の切れ目から肉を切り首胸元へと流れるように刃を滑らせながら逆側の脇腹へと振り抜く。

 一瞬でシェルリザードの身体が真っ二つになって崩れ落ちた。
 見事としか言いようがない。肩の外殻の切れ目から入り次の切れ目、切れ目へとスムーズにあの大剣を滑らせて反対側まで一瞬で切り裂いた。
 あれだけの大剣を扱うパワーもそうだがそれを操る繊細さは技量の高さを伺わせた。

「まずは一匹……! ミナト殿に私の力を理解してもらう為に次は違う方法で戦ってみせよう!」

 お、アリアの力はまだまだこんなものじゃないらしい。十分すげぇんだが。

「マッスルコンバージョン!」
 なんだその脳筋っぽい技は。

 しかし目に見えて何かが起こる訳では無かった。
「マッスルコンバージョン! マッスルコンバージョン! まっシュルコンバージョン!」

 お構いなしにアリアがその言葉を連呼する。
 そして大剣を地面に突き刺し、なんと剣を置いて次のシェルリザードへ素手で殴り掛かった。

『……あの子、面白い魔法を使うわね』
 あれ魔法なの?
『なかなか特殊な事やってるわよ。見てなさい』

 アリアは尋常じゃない動きでシェルリザードを攪乱する。
 身体能力強化系の魔法だろうか?

 それは広い意味では間違っていなかったようだが、思っていたよりも数倍物騒だった。

「うおぉぉあぁぁぁぁっ!!」

 次のシェルリザードは自分の外殻と同じような素材の大きな盾を持っていて、アリアの打撃を正面から受け止める。
 おそらく外殻の外から強力な打撃を与えようとしたのだろうが、あの盾に塞がれてしまっては……。

「砕け散れぇぇぇっ!!」

 そんな盾など有って無いようなものだった。
 というか、何をどうやったらそんな火力になるのか分からないのだが、素手でその盾を粉々に砕き、その拳は勢い止まる事なく、シェルリザードの腹部へと突き刺さる。

 ぱんっ!

 軽い音がしたかと思えば、シェルリザードの身体は中心部から捻るような力を加えられたようにあっちこっちに吹き飛んだ。

 ひぇぇ……!
『あの魔法は自身の魔力を筋力へと変換する物よ。昔魔力は高いけれど魔法適正が低い人間が似たような事をしていたのを見た事があるけれど、アレはそれの強化版のようなものね』

「私は魔法の類はあまり得意ではないので別の利用法を考えた結果こうなった。どうだろうミナト殿」

 そう言ってアリアは俺に力こぶを見せつけるようなポーズを取る。

「……こっわ」
「え、そんな反応!? これでも私は女だぞ!? ちょっと傷付いた……」

『馬鹿、デリカシー無さすぎ!』

「ご、ごめんそういう意味じゃないんだ。あまりに物凄い火力だったもんでつい」

「しゅん……でも私の力は分って貰えただろうか? ちなみにこの状態で剣を扱えば……!」

 アリアは地面に突き刺した剣を引き抜き、最後の一体に向き直る。

 シェルリザードは最後の一体になっても怯む事は無く、両手にもった剣をカチカチ鳴らしながら身を低く構える。

 で、何が起きたかと言えば……。

 アリアが物凄い怪力で大剣をその場でぶおんと振り回しただけ。
 それでシェルリザードは検圧による斬撃で外殻ごと真っ二つになって崩れ落ちた。

 剣振っただけで斬撃が飛ぶの……?
 アレも魔法?

『どちらかというと魔法以上の圧倒的なパワー、ってところかしら』

 ひぇぇぇ……。
 こんなの初見でやられたら気が付いたら死んでるぞ。
 王の傍にいたのが兄貴じゃなくてアリアだったらアドルフ死んでたんじゃないか?

「ふぅ、どうであろうか? 私の力見てくれたか? 凄いだろう♪」

「……こっわ」

 その後アリアがしょんぼりと膝を抱えて蹲ってしまったのでご機嫌取りに三十分ほど費やしたのは言うまでもない。

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