35 / 56
最終章:女神への願い。
第35話:魔物の王の主。
しおりを挟む「もう一回言ってくれ……俺の聞き間違いか?」
ラスカルといろいろ話をしていて宿に戻るのが明け方になってしまった。
クラマに何も言わずに隣のベッドで寝るとか無理そうだったので叩き起こしたため、彼の頭は今働いていない。
「もうちょっと朝強くなってよ」
「いきなり叩き起こしておいてそれはないだろう……それで? なんだって?」
「僕大魔王になっちゃった」
「そうか……おめでとう。おやすみ」
ボサボサの頭をボリボリ掻きながらクラマは再び布団にぼふん、と倒れ込む。
「だーかーらーっ! 冗談じゃなくてさ、僕ってば本当に大魔王になっちゃったんだってば!」
「あぁもううるさいな……お前が大魔王だったら俺はクリア後の隠しボスだよ」
「話を聞けーっ!!」
まったく起きないクラマに腹がたってつい魔力が噴き出してしまった。
クラマのベッドのすぐ脇から聖女の噴水が立ち上り宿屋の屋根を粉砕。
「な、なんだなんだ何事だ!? 敵襲か!?」
「はぁ……やっと起きた。だからさ、僕は……」
「大丈夫ですか勇者様、聖女様ぁぁっ!!」
ドタバタと下の階から宿屋の主人が部屋に駆けこんできて話どころではなくなってしまった。
結果、僕がそりゃもうぺこぺこと頭を下げてなんとか許してもらった。
許して貰える事がびっくりだけど、「聖女様があけた大穴ならむしろこの閉鎖された街の中でも見物客から金をとれる!」とかで大喜びしてたのがなんだかデジャヴだった。
「……はぁ、朝からいったいなんだというんだ。いきなり破壊行動とはお前らしくもない……いや、こっちに来てからは割とあるか?」
「クラマが全然話聞いてくれないからでしょ!? もう何言っても無駄っぽいから一緒に来て!」
クラマの手を取り街を出る。
見張りの人が何か言ってたけどごめん構ってる場合じゃない。
後ろから「いってらっしゃいませーっ! お気をつけてーっ!」という声が聞こえてきたのでさすがに悪いと思って軽く振り返って手を振ってあげた。
「おい、俺をいったいどこへ連れていくつもりだ?」
「……魔王のとこ」
「……は?」
僕は困惑してるクラマを引き摺って例の小屋までやって来た。
「ここに魔王が居るって? なんの冗談だ?」
「冗談なんかじゃないから! ほら早く入る!」
クラマの背中を蹴り飛ばし小屋の中へと押し込むと、クラマがよろよろ体制を整えつつ……。
「よう勇者様」
魔王ラスカルと目が合った。
「ゆ、ゆゆユキナ! これはどういう事だ!? 魔王だ、魔王がいるぞ!!」
「だから最初からそう言ってるでしょ? いいから剣をしまって座りなさい」
「しかし魔王が……!」
「おすわりっ!!」
僕が本気で怒って怒鳴りつけたせいか、クラマだけでなくラスカルまで何かの重力に押し潰されたかのようにその場に崩れ落ちる。
「ぐえーっ! お嬢ちゃん、それはおいらにはキツイ……!」
どうやら大魔王としてのプレッシャーみたいなのを無意識にかけてしまっていたらしい。
なんだろうこの謎の力。
「ご、ごめん……」
「ふふ、いいザマだな勇者よ……」
「魔王こそ地面に這いつくばりながら何を偉そうな事を……」
「なんだと貴様!?」
「やるか!?」
「だまらっしゃいっ!!」
再びの圧力でその場の全員が言葉を失う。
「よっこいしょ……っと。ほら、みんな楽にして?」
僕の合図で皆への圧力が解かれる。どういう理屈だろうこれ。
「ゆ、ユキナ……納得のいく説明は、してもらえるんだろうな?」
「クラマってば狼狽しすぎー♪ 可愛い奴め♪」
そう言って頭を撫でてあげた。普段だったら嫌がるのにあまりの出来事にクラマもそれどころじゃないみたい。
「じゃあ改めて紹介するね? 僕らの新しい仲間……っていうか元々仲間だったんだけど、シュラ君改め魔王のラスカル君でっす♪」
「……?」
クラマがぐっしゃぐしゃに顔を歪めて固まってしまった。こんな酷い顔初めてみたかもしれない。
「おーいクラマー? もしもーし」
目の前で手を何度か振ってみたけれど反応は鈍い。
「ま、おう……? しゅら……? しゅらがまおう?」
「ダメだこいつ頭バグっちゃった」
クラマにとっては衝撃が大きすぎたみたい。
シュラの正体が魔王だったっていうのもそうだろうし、急にこんな小屋の中に魔王が居て僕と仲良さそうにしてるのも重なって頭がショートしたっぽい。
クラマって頭いい癖に処理しきれなくなるとぶっ壊れるんだなぁ。新発見。
そこからクラマが立ち直るのにニ十分くらい要した。
「……シュラの正体が魔王だったというのは理解した。だがどうして魔王と分かってもまだ仲間でいるんだこいつは」
「こいつとはなんだ魔王に向かって……! 私が手を貸してやろうと言っているのだありがたく頭を垂れよ!」
「ふざけるな魔物の王が俺達の仲間にだと!?」
「君達、また押しつぶされたいのかね?」
僕の一言で一触即発の二人は一斉に黙る。
「あのね、クラマ。いろいろ処理が追い付いてないところ本当に申し訳ないんだけどさ」
「なんだまだあるのかよ……もう何がおきても驚かないから安心しろ」
「僕ね、魔王と契約しちゃった」
クラマの顔が再び歪む。
「馬鹿かお前は!? 魔王の従者になったのか!? なぜそんな馬鹿げた契約を……」
クラマめっちゃ怒ってる。でもそうじゃない、そうじゃないんだ……。
「ごめんクラマ、違うんだよ……」
「違うも糞もあるか! 聖女が魔王のしもべになるなんて……お前まさか命令されて拒否できない状態なのか!? やはりこの場でこいつを殺すしか……!」
ちょんちょんとクラマの肩をつつく。
「いったいなんだ!? 今それどころじゃないお前は少し引っ込んでろ!」
「だから違うんだってば……」
「何が違うというんだ!」
……うぅ、言い辛い。この雰囲気の中言うの気まず過ぎる。
「あの、ね? 僕が魔王と契約したのは本当なんだけど……」
「だけどなんだ!? はっきり言え!」
「あの、ね? 落ち着いて聞いてね?」
クラマは物凄い怒りの形相でラスカルを睨んでいる。
当のラスカルは事情を知ってるのでニタニタ笑っていた。笑いごとじゃないんだよなぁ。
「僕ともっごって契約してるでしょ?」
「それがどうした!?」
「だから、魔王ともそういう事なんだって」
「だから同じような契約を魔王にされたんだろう!?」
「ふん、馬鹿め。その逆だ」
そこでラスカルさん乱入してくる!?
「なんだと魔王め、いったいユキナに何をした……」
「クラマ、クラマ、いいから落ち着いて僕がこれからいう事をしっかり聞いてね? 僕は魔王と契約しちゃって……」
「……」
僕が敵にまわるとでも思ったのかクラマは今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「あー、えっとね、心配しないで。逆なんだってば」
「……だから、逆って……なんだよ」
「その、昨日の夜からね?」
「……おい、まさか」
「大魔王になっちゃった」
びだーんっ!!
勢いよくクラマがその場にひっくり返って気を失った。
だから大魔王になったって最初から言ってるのに……。
0
あなたにおすすめの小説
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました
かにくくり
ファンタジー
魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。
しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。
しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。
勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。
そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。
相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。
※小説家になろうにも掲載しています。
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる