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最終章:女神への願い。

第36話:僕の為に争わないでっ!(ご満悦)

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「……話は大体分かった。分かったが……理解は出来ても納得ができん。どうしてこうなった?」

 クラマが目覚めてから、僕は出来るだけ丁寧に情報を整理しながらその頭に情報を流し込んだ。
 一気にいろいろ言うとバグる事が分ったからね。

「それはさっきも言ったでしょ? ラシュカルよりラスカルの方が可愛いからそう呼ぶねって言ったらオッケーしてくれたんだってば」

「それで名付け親になって契約が成立してしまったと……馬鹿だ……馬鹿すぎて言葉も出ない……」

 クラマは胡坐をかいた状態で額に掌を当て、唸っている。

「なっちゃったもんはしょうがないじゃん。くよくよすんなって♪」

「お前が言うなお前が……っ!」

「だってもう開き直るしかないじゃん。僕は聖女で大魔王であるぞよっ!」

 クラマは僕を見て大きなため息をつき、ラスカルに視線を移した。

「お前魔王だろう? ほんとにこれで良かったのか?」

「良い悪いの問題ではない。契約は成立してしまった。それに……私は思ったよりこの状況を好ましく思っている」

「馬鹿な……」

 再びクラマが項垂れる。

「なんか苦労させてごめんね?」

「はぁ……もういい。分かった。しかし問題はお前が魔物の総大将になってしまった事だろう。これからどうするんだ? 魔物と戦う必要もなくなって一件落着か? この世界が平和になって俺達は元の世界に戻れるのか? だったら早く出てこいよ神様とやら」

「ちょっと落ち着いてってば。一気にいろいろ言われても困っちゃうよ。その辺についてはちょっとラスカルから話聞いてみてくれる?」

 クラマは不思議そうに首を捻る。

「どういう事だ? 魔王と大魔王が居るんだから魔物と戦う必要はもうないだろう?」

「……お前らが戦ってきた魔物の中に黒い影のような奴が居なかったか?」

 僕も昨夜ラスカルに言われて初めて気付いたんだけど、普通の魔物と影の魔物は明らかに別の種類なんだよね。

「今までに何度か遭遇した事はあるな……あのトンネルの中で最後にぶちのめした奴も確かそうだったな?」

「ああ、アレは魔物の天敵なのだ。勿論人間も襲う。人間と魔物は敵対するものだし人間がうじゃうじゃと戦場にでてこられてはみつどもえになってしまうので邪魔だろう?」

 そう、つまりラスカルは影の魔物との戦いに人間が邪魔だから全ての人間を隔離領域内に閉じ込めた。

 ラスカルは邪魔だったからだと言い張ってるけど、多分元々人間とあまり争う気は無かったんじゃないかな?

 その証拠に、小さな村や街、自給自足じゃまかなえない所には定期的に食材を届けてるんだってさ。
 魔物がわざわざ。
 勿論目立たないように魔王城にいるじいやって人が魔法で転送してるらしいけど、それって放っておけば死んで数が減るのにわざわざ保護してあげてるだけだよね?

 ラスカルはそれを認めようとはしなかったけれど、きっとこの子は優しい子だから。
 カイラって鬼みたいな魔物とのやりとり見てたら分かるよ。とっても優しいし、いい魔王だったんだなって。

「……なるほど。ではお前らが街を隔離した理由はそれか」

「話が早いな。戦力にならん人間は閉じ込めて私達だけで駆逐し、その後隔離は解除する予定だった」

「人間を守っているようにしか見えんが……?」

 ほら、やっぱりクラマもそう思うよね! よね!?

「馬鹿を言うな。なぜお前までユキナと同じ事を……私達はあくまでも無駄な争いを避ける為にだな……」

 人間が出てくると魔物を退治しようとして数が減らされ、結果的に影の魔物と戦う時の戦力不足に陥るからだ、って昨日説明を受けた。

 よしよし。そういう事にしておいてやろう。
「ふん、そういう事にしておいてやる」

 めっちゃ気が合うじゃんクラマ♪

「ほらやっぱりラスカルがやってるのはそういう事なんだよ~。照れ隠しで悪ぶっちゃってかーわーいーいー♪」

「くっ……頼むクラマ、ユキナを黙らせろ……」

 ぽかっとクラマが僕の頭を小突いた。

「酷い! 暴力はんたーい!」

「大魔王様になってもお嬢ちゃんはお嬢ちゃんでおいらは安心だよ」

 ちなみに今もっごは僕の腕の中。座ってもっごを後ろからぎゅってしてる状態。

「ちなみに僕のしもべ一号がもっごでラスカルは二号だからね~♪」

「なっ、私をウッドバック以下にする気か!?」

「ウッドバックじゃなくてもっごですー!」

 ムキになるラスカルを見てクラマが笑った。

「くくくっ、いいじゃないか。ユキナから見たらお前はもっご以下なんだよ」

「なんだと貴様……勇者だからと言って調子に乗りおって……表に出ろ!」

「望むところだ!」

「おすわりっ!!」

 ずどん!
 再び小屋の中が重い空気に包まれる。
 というかほんとにこれなんなの?

 僕魔法とか使ってる訳じゃないんだけどな。

「わ、分かったからそれやめろ……!」

「もう喧嘩しない?」

 クラマに詰め寄ると、無言で頷いた。

「よっし♪ じゃあ許したげる」

「おそらくユキナのそれは言霊だろう。この世界においてそれだけ高位の存在として認識されたのだ。魔王すら従えた大魔王で聖女だからな。その言葉には力が宿る」

「そんな物なの?」

 話を聞いてもいまいち理屈が分からない。

「きっとユキナには元々そういう素質があったんだろう。言葉を発せずとも周りに人が寄ってきたのではないか?」

「うーん、自分じゃよく分からないけど、似たような事を言われた事はあるよ」

 リィルとかエイムさんとかに。

「それは存在自体が高位である証拠だ。私が魔王であり、多くの魔物が従うように……ユキナもまた人を統べる素質を持っていた。だから人々はユキナに惹かれるのだろう」

「なんと面倒な……」

 おいクラマ、そこで面倒とか言わないでくれる? 僕の特殊能力じゃん褒めてよ。

「あれっ、でもそれってもしかして僕の事好きって言ってくれてる人達はその能力で頭おかしくなってるだけなの? 結構ショックなんだけど」

 クラマとかラスカルとかが好きって言ってくれたのまでそんなよく分からない力のせいだったらつらい。

「それは違う。ユキナの能力はカリスマであって魅了ではない。誰しもユキナを慕うのは能力のせいかもしれないが好意を持つのはユキナの魅力だよ」

 そう言ってラスカルが僕の頭を撫でた。
 クラマという心に決めた相手が居なかったら完全にきゅんきゅん物だぞこれは……。

「ん、どうした?」

「そ、その……ありがと」

 そう考えるとやっぱりラスカルが好きって言ってくれたのも変な力じゃなくて本心からだったんだなって再確認しちゃって急に恥ずかしくなった。

「ユキナは俺のだぞ。勝手に触るな」

 クラマが僕の頭の上からラスカルの手を叩き落した。

「貴様……誰がお前の物だと決めた? ユキナは物ではないぞ」
「俺の物、なんて言ってないだろ。俺のだ、と言ったんだ」
「だから誰が決めた誰が」
「俺だ」
「表に出ろ!」
「望むところだ!」

 あぁ……僕って、めちゃくちゃ愛されてない?
 こんな時なら言ってもいいよね?
 こんな時くらいしか言えないあの憧れのセリフを。

「ふ、二人とも……僕の為に争わないでっ!!」


 気持ちよく憧れのセリフを言えたのに。
 その反応は思ってたのとちょっと違った。

「あ、うん」
「おう」

 二人とも静かにその場に座りなおす。

 ……何それ。
 僕の気持ちが昂ぶりすぎてそれだけ強力な言霊になっちゃったってこと?

 争わないで……か。
 はは、なんか虚しい……。

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