49 / 56
☆おまけ☆
閑話2:仁義なき男の戦い。
しおりを挟むまるで貴族が姫に挨拶でもするかのように華麗な動きでラスカルがアプローチしてきた。
さすがにちょっと照れちゃうよね。
「何が城ですか。ただのボロい小屋ではありませんか」
リィルはさっそくラスカルに食ってかかる。
もうちょっと落ち着いて仲良くやろうよぉ……。
「なんだ、誰かと思えばここのエルフではないか。貴様を呼んだ覚えは無いのだが?」
「あ、あのね、さっき偶然出会ったから僕が一緒に行こうって誘ったんだよ!」
なんでこんなちょっとした事で必死にフォローしなきゃならないんだろ。
「ふむ……ユキナから誘ったのならば仕方あるまい。それならば我が城でゆっくりしていくとよいぞ」
「だから何が城ですか。こんな所に勝手に……」
「いや、姫の許可は得ているが?」
「えっ」
それ以上何も言えなくなるリィルに勝ち誇った笑みを向けるラスカル。
あんまり煽んないでよ~?
「では貴様はここでゆっくりしているといい。私とユキナはこれから少し外出するからな」
えっ、何それ初耳。
「どこかいくの?」
パーティーって聞いてたんだけどピクニックの間違いだったのかな?
「うむ、実はとても重要な食材を切らしてしまってな。それを取りにいくのだ。ユキナも一緒に来るだろう?」
「待て待て、何故勝手にユキナがお前について行く事になってるんだ。誘っておいて材料を切らすとは愚か者め。一人で取りに行くか後日に仕切り直せ。俺とユキナはこれで失礼するぞ」
クラマが僕の手を取るけれど僕は動かない。
帰らないよそんな楽しそうな事チラつかせられたら行かない訳ないじゃん。
「ははは、図体がデカいわりに存在感が無いのでそこに居る事に気付かなかったぞ勇者よ。そもそも私はユキナだけを招いたはずだがな?」
「ユキナを一人でお前の所などに行かせられるか馬鹿め」
「そんなに心配ならば貴様も来るか? 歓迎はせんがな」
「だからユキナが付いていくの前提なのが気に入らん」
二人はまるでそのままキスでもするんじゃないかってくらい顔を近付けて睨み合っている。
その様子を見て少しドキドキしちゃうのは僕が悪い子だからですかね。
「どうなんだユキナ!」
「行かんのか?」
二人が僕に向き直って返事を待つ。
答えはとっくに決まってるんだけど……。
クラマ、ごめんね?
「僕は行くよ? 街の外どころか城の外にだって滅多に出てこないんだからさ、久しぶりに冒険したいな」
ラスカルはドヤ顔でふんぞり返り、クラマとリィルは揃って額に手を当てて顔を横に振ってた。
君達には好奇心ってもんが足りんのじゃよ!
愉しまなきゃ損でしょ♪
「楽しい冒険の始まりだっ♪」
この国はあれからかなり平和になったと思う。
魔物も、魔王軍から離れて勝手に行動しているはぐれと呼ばれる連中以外は人間を襲わなくなったし、基本的には上手く共存できている。
はぐれ魔物もわざわざ人里まで出てくる事は少ないので人間側から危険な場所に出向かなければ問題が起きる事もほぼ無かった。
敢えて魔王軍から離れるという事はそれなりの知能を有しているという事で、それなりに賢い魔物ならばわざわざ人間と魔王軍両方を敵に回してまで暴れまわったりしない。
もしかしたらはぐれ達にも多少僕の言霊の効果があったのかもしれないし。
「ふふふ、ユキナなら行くと言うだろうと思っていたのだ!」
何気に僕の性格をよく分かっているのだこの魔王は。
「で、だ……貴様等は居残りと言う事でいいんだったな?」
「行くに決まっているだろう」
「おやぁ? 先程まではついてくる気など微塵んも感じなかったがどういう風の吹き回しだ?」
「ユキナが行くならば俺も行く。それだけだ」
即答するクラマに対しリィルは結構悩んでいるようだった。
「リィルは行かないの? 前の時は一緒に冒険できなかったでしょ? だからリィルとの冒険も楽しそうだな~って思ってたんだけど」
「……行きます」
リィルは何故か眉間に皺を寄せて不機嫌そうに言った。
「ほう? 国一番の魔法使いと名高い賢者リィルもユキナの前では形無しだな」
「ふん、貴方達に彼女を任せるのが不安なだけです」
「その言い方だと俺の事もあてにならんと言っているように聞こえるが?」
「おや、そう聞こえませんでしたか?」
なんだかクラマがいちいちリィルに突っかかるしリィルもいつもより気が短いというか……。
それもこれもラスカルが煽り散らかしてるからかもしれないけど。
三人とも視線の火花が飛び散ってて割って入れる空気じゃない。
「やれやれコレだからさかりのついた野郎どもは……」
もっごが僕の足元でそんな事を言いだすもんだからめちゃくちゃ焦った。
「待って、もっごってメスなの!?」
「なっ、馬鹿言うんじゃねぇやい! おいらはれっきとしたおのこよ!」
おのこって……まぁ雄って事だよね?
「なんだびっくりしたー」
今更もっごが女の子とか言われたらどうしようかと思った……。
「でもおいらはここの色ボケどもと違って嬢ちゃんを純粋に慕ってるだけだからな! 一緒にするんじゃねーぞ」
「うんうん、分ってるよ♪ やっぱり一番安心できるのはもっごだよねぇ」
そっともっごが視線で合図してくれたのでいつものようにもっごの上に座る。
もっごの大きな瞳はキラキラしていてとても愛らしい。
「「「……」」」
ちょっと、なんか男子たちの視線が痛いんだけど……。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
253
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる