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☆おまけ☆

閑話6:激萎えクールダウン。

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「気を取り直してタケーノコ探しにいこっか」

 僕の提案にみんなちょっと気まずそうに同意し、山登り再会。
 しかし無言。

 空気が重い……。

「そういえばあの煙もっごは大丈夫だったの?」

「おいらはああいうのには耐性があるからよ。植物が出す毒の類はへっちゃらだぜ」

 植物が、って限定するあたり普通の毒物は効くのだろうか? 試そうとは思わないけど。

「ねぇ、タケーノコって地面に生えるんでしょ? 地面見ないでそんなサクサク登っちゃっていいの?」

「お前は何を言っているのだ?」
「そうですよユキナ、タケーノコが地面からだなんて」

 ……?
 ラスカルとリィルは呆れたような視線をこちらに向けてきた。

「待って、そもそもタケーノコって何?」

 タケノコみたいなもんじゃないの?

「タケーノコというのはだな……」

「待て、何か来るぞ」

 ラスカルの言葉にクラマが割って入る。

「何かって何? 魔物とかだったら別に心配ないんじゃ……」

 ぶわっ。

 最後まで言えなかった。
 凄まじい風圧が僕の口内に襲い掛かって巨大扇風機に煽られた人みたいになった。

 思わずもっごの上から後ろに倒れ込んでごろごろと山道を転げ落ちる。

「うわーっ!」

「ユキナ! 大丈夫か!?」

 凄い速さでクラマが回り込んで僕をがっちりlキャッチしてくれた。

「怪我は無いか?」

「……もう、こんな時だけ王子様みたいなのなんなの?」

 ちょっとかっこいいじゃんかよ……。

「何を言ってるか分からんが無事なら降ろすぞ。ちょっとまずい事になってるからな」

「そうだ、さっきの風は……って、うひゃーっ!」

 うひゃーっ! だようひゃーっ!
 それしか言葉が出ない。

「おおっ、今年のは想像以上にでかいな……!」
「これは大物ですね……! 見た事が無い程のサイズですよ……!」

 魔王と賢者は妙にハイテンション。

 そしてそんな二人よりも……。

「うおーっ! ど、どどどどどドラゴンだぁぁぁぁぁーっ!!」

 この場に居る誰よりも僕がテンション上がってる自信がある。

 目の前にはとんでもないサイズの真っ赤なドラゴンが降り立っていた。

 うおぉぉドラゴンだよドラゴン!
 あの見た目だったら火竜とかかな!?
 ブレス吐くのかな!?
 でっけーっ! かっこいーっ!!

 てかこんなでかいドラゴンが今までどこにいたの……!?

「今年は随分とマグマから栄養を吸収したと見える……これは狩り甲斐があるな」
「さすがにちょっとデカすぎる気がしますけどね……なんとかなるでしょうか?」

 なるほどなるほど!

「つまりこの山には火山口があってその中で力を蓄えたドラゴンって事だね!」

「ユキナ、なんでそんな事が分るんだ?」

 クラマは僕の前に立って守りながら不思議そうに聞いてくる。

「分かるに決まってるじゃんそんなの定番中の定番だよ! 名前はなんていうの!? レッドドラゴン? それとも赤竜?」

 こんなのを間近で見れるなんて思ってもみなかった。
 やっぱり冒険って最高だなーっ!

「リィル援護しろ!」
「言われなくとも!」

 ラスカルとリィルはクラマに「お前はユキナを守れ!」「ユキナを頼みます!」と同じような事を言って目の前の荒ぶるドラゴンに立ち向かう。

 だから名前はなんていうのか教えてよ!

「行くぞタケーノコノサート!」
「覚悟してくださいタケーノコノサート!」

 ……。

 興奮して振り上げた拳の行き場がなくなった。

 哀れむような目で僕を見ているクラマにどんな表情を返していいのかわからないままゆっくりと腕を下げる。

「なんというか……その、ここはほら、ファンタジーな世界だ。こういう事も……ある」

「……うん」

 僕らが冷めた目で見つめる中、リィルはラスカルに強化、防御魔法をかけ、ラスカルは拳に魔力を乗せ飛び掛かる。
 荒れ狂ったタケーノコノサートの咆哮が山を震わせ、翼から突風が吹き荒れ、鋭い爪が襲い掛かる。

 リィルが魔法で巨大な土の塊を飛ばし、タケーノコノサートの腕を弾き飛ばす。
 その隙に魔王の雷魔法がその脳天に突き刺さった。

「エレクトリックサンダーッ!」

 雲一つ無い空から突然ぶっとい雷が落ち轟音が響き渡る。
 それでも一瞬怯む程度ですぐに体制を立て直し、くるりと回転して尻尾を振り抜く。

 ラスカルはそれをかわしつつタケーノコノサートの頭部へ向けて飛ぶが、それを見越していたタケーノコノサートが強烈なブレスを吐いた。

「援護します!」

 リィルが強力な結界を張り、ラスカルはブレスの中を突き抜ける。

「これで終わりだぁぁーっ!」

 魔力を込めたラスカルの拳がタケーノコノサートの頭部へ叩きつけられ、とうとうタケーノコノサートは崩れ落ちた。

 凄い戦いだった。
 僕とクラマは何もしてないけれど、ラスカルもリィルも一緒に戦うのが初めてとは思えないくらい連携がしっかり取れていたし、タケーノコノサートもすっごく強かった。

 しかしそのタケーノコノサートよりもあの二人の方が断然格上だったみたいだ。

 繰り返す。凄い戦いだった。

 だけどどうしてかな。

 今でもやっぱり僕とクラマはその光景をどこか冷めた目で見つめていた。


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