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☆おまけ☆
閑話8:燃え尽きた魔王。
しおりを挟む「め、メイジ鍋……? なんでメイジ?」
「タケーノコには膨大な魔力が詰まっていまして、それを調理するには相当な魔法の才能が無いと難しいんですよ。特殊な工程で魔力の灰汁を抜かなければならないので。なので魔法使いしか作れない鍋、メイジ鍋と呼ばれているのです」
リィルが胸を張って説明してくれたけれど完全にこれは出来過ぎだ。
クラマですら口に手を当てて笑いをこらえている。
要するにこのメイジ鍋はきのことたけのこの終戦を意味するような平和的な料理って事だよね。うん、きっとそう。僕が決めた。
「さぁ、熱いうちに食べてくれ」
そう言ってラスカルがお椀にそれぞれよそってくれた。また更におかんポイントアップ。
しかし至近距離になると更にすんごいいい香りが……。
「……もう我慢できない。頂きますっ!」
まずは鍋の汁を一口。
「な、な、なんじゃこりゃぁぁぁぁぁっ!!」
あまりの衝撃が脳天を突き抜ける。
僕の急な叫びに驚いたのはクラマだけだった。
こういう反応になるというのをラスカルとリィルは分かっていたらしい。
「どうだ? 美味いだろう?」
「う、う、美味いなんてもんじゃ……なんちゅうもんを食わせてくれたんや……なんちゅうもんを……!」
「ゆ、ユキナ……どうした? 言葉がおかしな事になってるぞ?」
「言葉は不要! クラマも早く食べて!」
僕の様子に若干引きながらもそっと口をつける。
「なっ……!? うぇっ!?」
僕よりは相当控えめなリアクションだけど、目が飛び出しそうになってる。
こんなクラマは珍しい。
「俺は生まれてこの方こんな美味い物は食った事が無い……!」
クラマはそう呟くと物凄い勢いでガツガツと食べだした。
本当なら食べ方が汚いと怒る所なんだけど僕もそれどころじゃなかった。
「おかわりだ! おかわりをくれ!」
「ちょ、ちょっとズルいよ! 僕が先にもらうんだから!」
まるで脳内に危ない薬でも注入されたかのように僕はタケーノコの事しか考えられなくなっていた。
「慌てるな。まだまだあるからな」
「あぁ……私もタケーノコは久しぶりに食べましたがここまで濃度の高いタケーノコは初めて食べましたよ……ラスカルは料理も上手いのですね」
「そうだろうそうだろう! もっごも遠慮せずに沢山食べるのだぞ!」
もっごは自分用に小さな器に入れてもらっていて、そこに木の枝をちょんとつける事でそこから吸収しているらしい。
どういう食べ方なの?
いろいろ気になったけれど早く次が食べたい。
「おかわり! 早くちょうだい!」
「う、うむ……落ち着けユキナ、まだ沢山あるから」
美味すぎる。頭の中がとろけてしまいそうだ。
思考回路が鈍る。
頭がふわふわして本当に危ない薬でもやってるみたい。
「は、はやく……おかわりをもるのらーっ!」
「ユキナ!? 落ち着け、どうしてしまったのだ!?」
「やかましい! 俺にも早くおかわりをよこ、よこ、よこすのら!」
クラマも僕と同じでタケーノコの虜。
頭がおかしくなるくらい美味しいのだ。
「お、おい……さすがに様子が……」
「むっ……? この味……ラスカル、貴方まさかこの鍋にブルーボンの実とグリーコの葉を使ったんじゃ……」
「無論使ったが? 私の特製メイジ鍋には欠かせぬ食材だからな」
「な、なんてことをしてくれたんですか!」
リィルがガタンと大きな音を立てて立ち上がる。
「どうれもいいからはやくおかわりをよこすのらーっ!」
「俺にもよこすのら!」
「ほらやっぱり二人がおかしくなったのはそれのせいですよ!」
「ど、どういう事だ!? 私のタケーノコ鍋は完璧のはず……!」
「それはラスカルや私ならばこれが最高の味だと理解できますが人間には刺激が強すぎます! メイジ鍋にブルーボンの実とグリーコの葉を混ぜるなんて成分的に一番やっちゃいけない事ですよ!」
「な、なんだと? しかし私はいつもこれで……」
「だから人間には刺激が強すぎると言ってるんです! こんな人外じみた組み合わせの料理を食べたら頭の中であらゆる魔力と成分が戦争を始めておかしくなってしまいますよ!」
なんらそれは……あれこれとのうがきはどうでもいいのら!
「つべこべいわずにおかわりをよこすのらーっ!」
「よこすのらーっ!」
「ま、まずい……これ以上食べたら二人が中毒患者か廃人になってしまう!」
「な、なんだと……!? リィル、なんとかならんのか!?」
「今ならまだ間に合います! もったいないですがラスカルは早くそのメイジ鍋を処分するか二人の手の届かない場所へ!」
しょぶん!?
「いましょぶんっていっらのらー!? させないのらーっ! もっともっともっともっとぼくによこすのらぁぁぁぁぁっ!」
「うわやめろユキナ! これ以上はまずい、お前らの身体には毒になるのだ!」
「うるせーしらねー! はやくくわせるのらーっ!」
「俺にももっとくわせるのらおかわりくれなのらーっ!」
「く、クラマまで……止むを得ん。名残惜しいがこのメイジ鍋を消滅させる! リィル、二人を食い止めよ!」
「こんな猛獣の相手できませんよ! 早く処分してください!」
だれがもうじゅうらってーっ!?
目の前でメイジ鍋が。
ラスカルの魔法でボッて。
ボッてなって炎に包まれ消えてしまった。
鍋ごと消えた。
クラマはショックのあまりその場でひっくり返って気絶してしまった。
「な、な、なにしとんじゃおのれらーっ!」
僕の脳みそは激しくタケーノコを求めていた。
目の前で炎に包まれ消えてしまったメイジ鍋。
ほのお。
火事になる。
けさなきゃ。
めいじなべどっかいった。
かなしい。
「うっ……うっ……」
「リィル、早くこいつらをどうにかしろ!」
「分かってます! すぐに中和の魔法を……」
「おまえら……ぜったいにゆるさないのらーっ!」
そこから先の事はよく覚えていない。
気が付いたらやたらと風通しのいい場所に寝かされていて、「よかった、無事でしたか」とリィルに介抱されていた。
「……何があったの?」
って聞いてから、なんとなく察してしまった。
そこには、天井に大穴が空いて見るも無残になった魔王城ジャバル支部と、その中心で真っ白になっているラスカルが立ち尽くしていたから。
「う、うぅん……」
クラマも目を覚ましてのそりと起き上がる。
彼は僕よりも記憶が飛んでるみたいだった。
「何がどうなった……? いや、それよりも鍋はどうした? あんなに美味いもの、もっと食っておかなければ……」
「残念ながらもうあの鍋はありませんよ」
リィルの言葉に僕とクラマは絶望。
でも僕は、アレのせいでこんな事になったのを一応理解してるので複雑な気持ちだった。
その天井の吹き飛び方は、どう見ても……僕のアレだもんなぁ。
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