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第6話 煌めく蝶
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「そ、それでそのランタンは?」
「これは退魔の光を宿したランタンです。これを掲げれは魔物は近寄れません」
「それ、森に入ったときから使ってたら良かったんじゃ……」
「いやだわ、フリッツさん。ランタンは宵闇の中で光るものです。ですから、明るい内は効力が出ないんです」
「そう、なんだね……」
納得出来るような出来ないようなリーネの言葉にフリッツは頭を掻く。あまつさえ、もしかして自分が無知なのか、とさえ思った。
「でも、リーネさん度胸が据わってるね。魔物相手に怯まないなんて」
「冒険は初めてではありませんから。こういう展開になるのも何回か経験があります」
「なるほど。意外にワイルドだね」
ランプ屋だし戦うことはないと思っていたけど、彼女はちゃんと身を守る手段を持っていたわけだ。最初に出会ったときの大人しそうなイメージとは随分違う。意外な魅力っていうことかな。
「もしかしてそのランタンは自作?」
「えぇ、そうですよ。携帯用のランタンなので、それほど凝った物ではありませんけど」
そのランタンは六角形の角を金属で区切られ、頭頂部には網目模様の半円の丸い蓋がのっかている。
「もっと凝ったものもあるんだ。見てみたいね」
「精霊祭にはお店を出しますから、良かったら見に来て下さい」
「楽しみだね」
フリッツがランタンを見ながら微笑む。その顔にリーネはどきっとしながらも本来の目的を思い出した。
「あ、いけない。そろそろ始まっちゃうっ」
リーネは小瓶を鞄に詰めて、急いで立ち上がった。
「始まるって、何が?」
小走りになるリーネの後を追いながらフリッツが尋ねる。
「見れば分かりますよ」
彼女に導かれて辿り着いた先には、背の低い岩壁に囲まれた小さな泉があった。岩壁の一部から泉に向かって一本の細い糸のように水が流れ落ちている。さらに泉の周囲の草地には点々と奇妙に青白く光っている箇所があった。既に暗くなった森の中でその光が幻想的に周囲を浮かび上がらせている。
「間に合って良かった……」
リーネはほっと安堵のため息を漏らすと、鞄から空の硝子瓶を取り出す。
「これは一体……?」
フリッツが見たこともない不思議な光景に目を丸くする。
「こんなにたくさん、何が光っているんだい?」
「それは見てのお楽しみです。さぁ、そろそろ始まりますよ」
リーネが悪戯っぽく笑うと、それを合図にしたかのように地面の小さな光るたくさんの点が明滅し始めた。
二人が黙ってその様子を眺めていると、光の中から七色に輝く羽根の蝶が現れゆっくりと羽ばたくと、宙へと舞い上がった。他の光の玉からも次々と、まるで蕾から花が開くように、輝く美しい羽根が広がる。そして一斉に宵闇に飛び立った。羽ばたく度に、光る鱗粉が蝶達の軌跡を辿るようにふわふわと宙を漂う。まるで、光る殻の名残を振り払うように。
リーネは瓶の蓋を開け、何か唱えると、その鱗粉が独りでに瓶の中へと吸い込まれていく。
「これで良しっと」
瓶一杯になったところでリーネは蓋を閉めた。
「リーネさん、これは?」
フリッツは目の前で繰り広げられた美しいショーに圧倒されてまんじりとも動けない。
「これは月煌蝶の蛹が成虫になる瞬間なんです。水の綺麗な静かなところでしか見られないものなんです。毎年、この時期にここへ採取しに来てるんですよ」
「知らなかったな……」
リーネとフリッツは最後の蝶が鱗粉を撒きながら夜空へ昇っていくのを見つめ、しばし無言でその余韻に浸った。
「これは退魔の光を宿したランタンです。これを掲げれは魔物は近寄れません」
「それ、森に入ったときから使ってたら良かったんじゃ……」
「いやだわ、フリッツさん。ランタンは宵闇の中で光るものです。ですから、明るい内は効力が出ないんです」
「そう、なんだね……」
納得出来るような出来ないようなリーネの言葉にフリッツは頭を掻く。あまつさえ、もしかして自分が無知なのか、とさえ思った。
「でも、リーネさん度胸が据わってるね。魔物相手に怯まないなんて」
「冒険は初めてではありませんから。こういう展開になるのも何回か経験があります」
「なるほど。意外にワイルドだね」
ランプ屋だし戦うことはないと思っていたけど、彼女はちゃんと身を守る手段を持っていたわけだ。最初に出会ったときの大人しそうなイメージとは随分違う。意外な魅力っていうことかな。
「もしかしてそのランタンは自作?」
「えぇ、そうですよ。携帯用のランタンなので、それほど凝った物ではありませんけど」
そのランタンは六角形の角を金属で区切られ、頭頂部には網目模様の半円の丸い蓋がのっかている。
「もっと凝ったものもあるんだ。見てみたいね」
「精霊祭にはお店を出しますから、良かったら見に来て下さい」
「楽しみだね」
フリッツがランタンを見ながら微笑む。その顔にリーネはどきっとしながらも本来の目的を思い出した。
「あ、いけない。そろそろ始まっちゃうっ」
リーネは小瓶を鞄に詰めて、急いで立ち上がった。
「始まるって、何が?」
小走りになるリーネの後を追いながらフリッツが尋ねる。
「見れば分かりますよ」
彼女に導かれて辿り着いた先には、背の低い岩壁に囲まれた小さな泉があった。岩壁の一部から泉に向かって一本の細い糸のように水が流れ落ちている。さらに泉の周囲の草地には点々と奇妙に青白く光っている箇所があった。既に暗くなった森の中でその光が幻想的に周囲を浮かび上がらせている。
「間に合って良かった……」
リーネはほっと安堵のため息を漏らすと、鞄から空の硝子瓶を取り出す。
「これは一体……?」
フリッツが見たこともない不思議な光景に目を丸くする。
「こんなにたくさん、何が光っているんだい?」
「それは見てのお楽しみです。さぁ、そろそろ始まりますよ」
リーネが悪戯っぽく笑うと、それを合図にしたかのように地面の小さな光るたくさんの点が明滅し始めた。
二人が黙ってその様子を眺めていると、光の中から七色に輝く羽根の蝶が現れゆっくりと羽ばたくと、宙へと舞い上がった。他の光の玉からも次々と、まるで蕾から花が開くように、輝く美しい羽根が広がる。そして一斉に宵闇に飛び立った。羽ばたく度に、光る鱗粉が蝶達の軌跡を辿るようにふわふわと宙を漂う。まるで、光る殻の名残を振り払うように。
リーネは瓶の蓋を開け、何か唱えると、その鱗粉が独りでに瓶の中へと吸い込まれていく。
「これで良しっと」
瓶一杯になったところでリーネは蓋を閉めた。
「リーネさん、これは?」
フリッツは目の前で繰り広げられた美しいショーに圧倒されてまんじりとも動けない。
「これは月煌蝶の蛹が成虫になる瞬間なんです。水の綺麗な静かなところでしか見られないものなんです。毎年、この時期にここへ採取しに来てるんですよ」
「知らなかったな……」
リーネとフリッツは最後の蝶が鱗粉を撒きながら夜空へ昇っていくのを見つめ、しばし無言でその余韻に浸った。
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