悪役令嬢として断罪された過去がありますが、よろしいですか?~追放されし乙女は、そして静かに歩みだす~

宵森 灯理

文字の大きさ
41 / 109
第3章 アデレードの挑戦

第42話 行き倒れた男

しおりを挟む
 春が来た3月のある日の、闇が一番深い夜明け前のことだった。
 ディマが唐突に目を覚ました。伏せていた顔を上げ、耳をすまし、くんくんと匂いを嗅ぐ。丸めていた体を起こし、アデレードの顔を鼻で揺らした。

「うん……もう、朝?」

 アデレードが眠そうに眉根を寄せながら、目を薄っすらと開けるが、未だに真っ暗だ。

「ディマ?」

 ディマはアデレードを起こそうとするのを止めない。しょうがなく、アデレードが寒い中ベッドから起き上がった。ディマはベッドから降りて、部屋の入口に向かいドアを開けて欲しそうに引っ掻く。
 アデレードはランタンに火を灯しドアを開けるとディマは一目散に廊下を通り階段を下りていく、アデレードが後を追うと、玄関のドアをまた引っ掻いた。

「外に出たいの?」

 アデレードがドアを開けると、ディマが飛び出す。

「どうしたの、ディマ?」

 いつもと違う愛犬の様子にアデレードは戸惑う。ディマは玄関の少し先で立ち止まっていた。アデレードがランタンを掲げて近づくと、地面に黒い塊が見えた。

「きゃっ」

 アデレードが思わず小さく叫ぶ。その塊は人だった。恐る恐るアデレードが近づく。その人は男性のようでうつ伏せに倒れ、ぴくりとも動かない。それにずいぶん汚れ、服もあちこち破れていた。

 生きている、かしら……?

「あの……」
 勇気を出して声をかけ、肩を揺らすとぴくっとその人の体が動いた気がした。

「メグ、呼ばなきゃ……メグ!」

 アデレードは急いで家に入り、3階へ駆けあがりメグを起こした。主人のただならぬ様子にメグは驚きつつ一緒に外に出る。そして倒れている男性を一緒に運ぶことにしたのだが、女性2人で成人男性を運ぶのには難儀した。

「ディマが人間だったら良かったのだけど……」
「ホントですね……」

 2人は苦労して男性を談話室の暖炉の前に横たえた。2人は肩で息をする。空が白み始めていた。

「ラシッド先生を呼んできた方が良いわよね?」
「そうですね。私達だけではどうにも出来ませんし」

 アデレードが外に出ようとしてメグに止められる。

「お嬢さん、着替えないと」
「あっ!」

 2人とも夜着のままだ。急いで着替えて、アデレードはディマと共に走ってラシッドの家へ向かう。ドアを叩くと眠そうなラシッドが迎えてくれたが、事情を聞くと身支度を整え、アデレード達と共に家に入る。
 部屋の中ではメグは暖炉に火を入れ、布や包帯、桶に入った水など治療に使えそうな物を用意してくれていた。ラシッドは男性の服を脱がし外傷が無いか確認する。

「見たところは、命に関わる酷い怪我をしている様子はありません。ただ深いもの浅いものも含めてかすり傷や切り傷が多い上に、ずいぶん衰弱しているようです。山や森の中を駆けてきたような感じですね」
「山や森の中を? 熊や狼にでも追われていたのかしら……」
「うーん、もしそうなら密猟者かもしれません、お嬢さん」
「目を覚まさないことには何とも分かりませんが、とりあえず包帯巻くの手伝ってもらえますか?」

 ラシッドの指示で2人は怪我の治療の手伝いを始めた。しばらくすると乱暴に玄関のドアを叩く音が部屋に響き渡る。

「誰かしら……あ、2人はこの人の治療続けて。私が出ますわ」

 そう言ってアデレードが立ち上がる。ドアを叩く音は止まない。その様子にアデレードは、ドアを叩いている人物が村の住人ではないような気がしてきた。

 ……村の人ならこんな乱暴にドアを叩き続けたりしないわ。

 ディマがアデレードと一緒に玄関へ向かう。何だかぞわぞわと嫌な予感が彼女の心にせり上がってきていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『悪役令嬢は、二度目の人生で無言を貫く。~処刑回避のために黙っていただけなのに、なぜか冷徹宰相様から「君こそ運命の人だ」と溺愛さています~』

放浪人
恋愛
「もう、余計なことは喋りません(処刑されたくないので!)」 王太子の婚約者エリスは、無実の罪を着せられた際、必死に弁解しようと叫び散らした結果「見苦しい」と断罪され、処刑されてしまった。 死に戻った彼女は悟る。「口は災いの元。二度目の人生は、何があっても口を閉ざして生き延びよう」と。 しかし、断罪の場で恐怖のあまり沈黙を貫いた結果、その姿は「弁解せず耐え忍ぶ高潔な令嬢」として称賛されてしまう。 さらに、人間嫌いの冷徹宰相クラウスに「私の静寂を理解する唯一の女性」と盛大な勘違いをされ、求婚されてしまい……!? 「君の沈黙は、愛の肯定だね?」(違います、怖くて固まっているだけです!) 「この国の危機を、一目で見抜くとは」(ただ臭かったから鼻を押さえただけです!) 怯えて黙っているだけの元悪役令嬢と、彼女の沈黙を「深遠な知性」と解釈して溺愛する最強宰相。 転生ヒロインの妨害も、隣国の陰謀も、全て「無言」で解決(?)していく、すれ違いロマンティック・コメディ! 最後はちゃんと言葉で愛を伝えて、最高のハッピーエンドを迎えます。

断罪中、味方が多すぎて王子が孤立している件について

夏乃みのり
恋愛
バーンスタイン伯爵家の令嬢ラミリアは、魔力も剣の才能もない「ごく普通」の地味な女性。 ある日のパーティーで、婚約者であるジェラルド第二王子から「地味で無能で嫉妬深い」と罵られ、身に覚えのない罪で婚約破棄を突きつけられてしまう。 しかし、断罪劇は予想外の展開へ。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

婚約破棄されたのでファンシーショップ始めました。 ― 元婚約者が、お人形さんを側室にしようとして大恥をかきました ―

鷹 綾
恋愛
隣国の王子から「政略的にも個人的にも魅力を感じない」と婚約破棄された、ファンタジア王国第三女王タナー。 泣きも怒りもせず、彼女が考えたのは――「いつか王宮の庇護がなくなっても困らない生き方」だった。 まだ八歳。 それでも先を見据え、タナーは王都の片隅で小さなファンシーショップを開くことを決意する。 並ぶのは、かわいい雑貨。 そして、かわいい魔法の雑貨。 お茶を淹れてくれるクマのぬいぐるみ店員《テイデイ・バトラー》、 冷めないティーカップ、 時間になると小鳥が飛び出すアンティーク時計――。 静かに広がる評判の裏で、 かつての元婚約者は「お人形さんを側室にしようとして」赤っ恥をかくことに。 ざまぁは控えめ、日常はやさしく。 かわいいものに囲まれながら、女王は今日も穏やかにお店を開けています。 --- この文面は ✔ アルファポリス向け文字数 ✔ 女子読者に刺さるワード配置 ✔ ネタバレしすぎない ✔ ほのぼの感キープ を全部満たしています。 次は 👉 タグ案 👉 ランキング用超短縮あらすじ(100字) どちらにしますか?

婚約破棄された際もらった慰謝料で田舎の土地を買い農家になった元貴族令嬢、野菜を買いにきたベジタリアン第三王子に求婚される

さら
恋愛
婚約破棄された元伯爵令嬢クラリス。 慰謝料代わりに受け取った金で田舎の小さな土地を買い、農業を始めることに。泥にまみれて種を撒き、水をやり、必死に生きる日々。貴族の煌びやかな日々は失ったけれど、土と共に過ごす穏やかな時間が、彼女に新しい幸せをくれる――はずだった。 だがある日、畑に現れたのは野菜好きで有名な第三王子レオニール。 「この野菜は……他とは違う。僕は、あなたが欲しい」 そう言って真剣な瞳で求婚してきて!? 王妃も兄王子たちも立ちはだかる。 「身分違いの恋」なんて笑われても、二人の気持ちは揺るがない。荒れ地を畑に変えるように、愛もまた努力で実を結ぶのか――。

王子、おひとり様で残りの人生をお楽しみください!

ちゃっぴー
恋愛
「ラーニャ、貴様との婚約を破棄する!」 卒業パーティーの真っ最中、ナルシストな第一王子ウィルフレッドに身に覚えのない罪で断罪された公爵令嬢ラーニャ。しかし、彼女はショックを受けるどころか、優雅に微笑んで拍手を送った。 なぜなら、ラーニャはとっくに王子の無能さに愛想を尽かし、この日のために完璧な「撤退準備」を進めていたからだ。

捨てられた元聖女ですが、なぜか蘇生聖術【リザレクション】が使えます ~婚約破棄のち追放のち力を奪われ『愚醜王』に嫁がされましたが幸せです~

鏑木カヅキ
恋愛
 十年ものあいだ人々を癒し続けていた聖女シリカは、ある日、婚約者のユリアン第一王子から婚約破棄を告げられる。さらには信頼していた枢機卿バルトルトに裏切られ、伯爵令嬢ドーリスに聖女の力と王子との婚約さえ奪われてしまう。  元聖女となったシリカは、バルトルトたちの謀略により、貧困国ロンダリアの『愚醜王ヴィルヘルム』のもとへと強制的に嫁ぐことになってしまう。無知蒙昧で不遜、それだけでなく容姿も醜いと噂の王である。  そんな不幸な境遇でありながらも彼女は前向きだった。 「陛下と国家に尽くします!」  シリカの行動により国民も国も、そして王ヴィルヘルムでさえも変わっていく。  そしてある事件を機に、シリカは奪われたはずの聖女の力に再び目覚める。失われたはずの蘇生聖術『リザレクション』を使ったことで、国情は一変。ロンダリアでは新たな聖女体制が敷かれ、国家再興の兆しを見せていた。  一方、聖女ドーリスの力がシリカに遠く及ばないことが判明する中、シリカの噂を聞きつけた枢機卿バルトルトは、シリカに帰還を要請してくる。しかし、すでに何もかもが手遅れだった。

処理中です...