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第1章 狙われる花嫁
第1話 乱入者現る!
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「まったく、相変わらず騒がしいな王都は。俺はこんなところには来たくなったんだが」
黒髪に灰色の目の若い男は尊大な態度でソファに座り、愚痴を零す。そんな姿すら様になっているのだから、始末が悪い。
「それもこれもお前が手紙なんか寄越すからだ、トバイアス」
「済まないね、ケルン」
トバイアスと呼ばれた、もう一人の男が苦笑する。彼の顔は疲労の色が濃く、全体的にくたびれてみえた。
「それで、一体何だ、火急の用件とは?」
「あぁ、そのことだが……」
ベルファーレン侯爵家の庭で、夫人の私的なお茶会が催され、招待された貴族達がめいめい整えらえた庭や用意された食事を楽しんでいる。その中に、一組の男女がいた。女の方はイングリッドという名の金髪の若い令嬢で周囲の女性達よりもずっと控えめな緑色のドレス纏った令嬢で、男の方はヘルマン子爵で彼女よりも10以上は年上で、着ているものも上質で、如何にも裕福な貴族といった風だ。
「フロイライン・ベルク、綺麗な庭ですね」
ヘルマン子爵がにこやかにイングリッドに話し掛ける。
「えぇ、そう、ですね……」
イングリッドは遠慮がちに答える。ヘルマン子爵の態度は紳士的だったが、何か底知れぬ物を感じ、好きになれなかった。その目がまるで獲物を狙う蛇のように見えたからだろうか。
これは、私が先入観を持っているからだわ。きっとそうよ……。
ヘルマン子爵は結婚歴があった。それも2回、しかもどちらの妻とも死別だった。1人目は転落事故、2人目は病死だったが、それは子爵が妻を虐待していたからだと噂されていた。そこで、口さがない者達はヘルマン子爵に”妻殺し”のとあだ名したのだった。
そんな噂が耳に入って来たから、何だが不安な気持ちになっているのよ。
イングリッドはヘルマン子爵への嫌悪感を何とか抑え込もうとしていた。何故ならイングリッドの父はこのヘルマン子爵に娘を嫁がせようと考えていたからで、つまり彼は将来のイングリッドの夫になる者だった。そんな彼に誘われてこのお茶会に来たが、場違いも甚だしい気がした。
「おや、気分が優れませんか?」
「いえ……」
ヘルマンが気遣うようにイングリッドに手を握ろうとしたので、イングリッドは思わず手を引いて、視線を彷徨わせるとちょうどそこへ紅茶を盆に載せて運ぶ使用人の姿が見えた。
「紅茶でも頂きませんか。少し喉が乾いてしまって……」
「良いですよ」
2人は空いている丸テーブルに移動する。
「おい! 早く紅茶を持って来ないか。使えないメイドだな」
ヘルマンが横柄な態度で近くにいた若いメイドに命令すると、そのメイドが一瞬怯んだ顔をし頭を下げて急いで屋敷の方へ向かう。その様子を見て、イングリッドの彼への違和感がいや増す。彼はイングリッドには丁寧だが、度々こうやって使用人に高圧的な態度を取ることがあった。
「そんな言い方……」
「いや。使用人はきちんと教育しておかないと。主人の恥になりますからね」
ヘルマンが自慢げに笑う。その笑みを見れば、彼が目下の者達をどう扱っているのか、イングリッドには想像がついた。
「……」
こんな人と結婚するのは耐えられない。けれど、持参金もまともに用意出来ないような貧乏な我が家には選択肢がないわ。ヘルマン子爵は持参金も何も用意する必要はないし、実家の支援も惜しみなくすると言っているのだから。
イングリッドが小さくため息を吐く。そこへ入口の方から何やらざわめきが聞こえてきた。若い男達が4人ばかり乱入してきたらしい。
「イングリッド・フォン・ベルクは居るか?」
先頭に立つ黒髪に灰色の目をした背の高い男がそう問うと、お茶会に来ていた人々の視線が一点に集まる。その男達はイングリッド目掛けて大股で近づいてくる。その精悍な男達は、まるで先頭に立つ灰色の目の男をリーダーとする狼の群れのようだった。
イングリッドはきょとんとした顔でその闖入者を見ている。自分が狙われていることに気が付いていないようだ。そして彼女の前に灰色の目の男が獲物を見つけた狼のごとくニヤリと笑う。
「迎えに来たぞ、我が花嫁」
黒髪に灰色の目の若い男は尊大な態度でソファに座り、愚痴を零す。そんな姿すら様になっているのだから、始末が悪い。
「それもこれもお前が手紙なんか寄越すからだ、トバイアス」
「済まないね、ケルン」
トバイアスと呼ばれた、もう一人の男が苦笑する。彼の顔は疲労の色が濃く、全体的にくたびれてみえた。
「それで、一体何だ、火急の用件とは?」
「あぁ、そのことだが……」
ベルファーレン侯爵家の庭で、夫人の私的なお茶会が催され、招待された貴族達がめいめい整えらえた庭や用意された食事を楽しんでいる。その中に、一組の男女がいた。女の方はイングリッドという名の金髪の若い令嬢で周囲の女性達よりもずっと控えめな緑色のドレス纏った令嬢で、男の方はヘルマン子爵で彼女よりも10以上は年上で、着ているものも上質で、如何にも裕福な貴族といった風だ。
「フロイライン・ベルク、綺麗な庭ですね」
ヘルマン子爵がにこやかにイングリッドに話し掛ける。
「えぇ、そう、ですね……」
イングリッドは遠慮がちに答える。ヘルマン子爵の態度は紳士的だったが、何か底知れぬ物を感じ、好きになれなかった。その目がまるで獲物を狙う蛇のように見えたからだろうか。
これは、私が先入観を持っているからだわ。きっとそうよ……。
ヘルマン子爵は結婚歴があった。それも2回、しかもどちらの妻とも死別だった。1人目は転落事故、2人目は病死だったが、それは子爵が妻を虐待していたからだと噂されていた。そこで、口さがない者達はヘルマン子爵に”妻殺し”のとあだ名したのだった。
そんな噂が耳に入って来たから、何だが不安な気持ちになっているのよ。
イングリッドはヘルマン子爵への嫌悪感を何とか抑え込もうとしていた。何故ならイングリッドの父はこのヘルマン子爵に娘を嫁がせようと考えていたからで、つまり彼は将来のイングリッドの夫になる者だった。そんな彼に誘われてこのお茶会に来たが、場違いも甚だしい気がした。
「おや、気分が優れませんか?」
「いえ……」
ヘルマンが気遣うようにイングリッドに手を握ろうとしたので、イングリッドは思わず手を引いて、視線を彷徨わせるとちょうどそこへ紅茶を盆に載せて運ぶ使用人の姿が見えた。
「紅茶でも頂きませんか。少し喉が乾いてしまって……」
「良いですよ」
2人は空いている丸テーブルに移動する。
「おい! 早く紅茶を持って来ないか。使えないメイドだな」
ヘルマンが横柄な態度で近くにいた若いメイドに命令すると、そのメイドが一瞬怯んだ顔をし頭を下げて急いで屋敷の方へ向かう。その様子を見て、イングリッドの彼への違和感がいや増す。彼はイングリッドには丁寧だが、度々こうやって使用人に高圧的な態度を取ることがあった。
「そんな言い方……」
「いや。使用人はきちんと教育しておかないと。主人の恥になりますからね」
ヘルマンが自慢げに笑う。その笑みを見れば、彼が目下の者達をどう扱っているのか、イングリッドには想像がついた。
「……」
こんな人と結婚するのは耐えられない。けれど、持参金もまともに用意出来ないような貧乏な我が家には選択肢がないわ。ヘルマン子爵は持参金も何も用意する必要はないし、実家の支援も惜しみなくすると言っているのだから。
イングリッドが小さくため息を吐く。そこへ入口の方から何やらざわめきが聞こえてきた。若い男達が4人ばかり乱入してきたらしい。
「イングリッド・フォン・ベルクは居るか?」
先頭に立つ黒髪に灰色の目をした背の高い男がそう問うと、お茶会に来ていた人々の視線が一点に集まる。その男達はイングリッド目掛けて大股で近づいてくる。その精悍な男達は、まるで先頭に立つ灰色の目の男をリーダーとする狼の群れのようだった。
イングリッドはきょとんとした顔でその闖入者を見ている。自分が狙われていることに気が付いていないようだ。そして彼女の前に灰色の目の男が獲物を見つけた狼のごとくニヤリと笑う。
「迎えに来たぞ、我が花嫁」
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