勇者の剣を折ったせいで奴隷落ちした僕は、公爵令嬢に買われてひのきの棒で戦うことを提案されました

いとうその

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4.模擬戦

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第4話

「お屋敷に訓練所があるのですか…」

 食事を取ってから数分後、ダイヤは屋敷の中にある訓練所に来ていた。

「普段は兵士たちの訓練所よ。今日は兵長と模擬戦をして貰うわ」

「兵長…ですか」

 恐らくこの屋敷の中で1番の実力者なのだろう。ダイヤは身を引き締めた。すると、見たことある屈強な男が見える。

「どうも、3流兵士のベレスと申します」

 奴隷商人にお金を渡していたベレスと言う男である。しかもどうやらダイヤの言った3流と言う言葉を覚えていたようで、皮肉めいた言葉を放つ。

「ど、どうも…」

 ダイヤはベレスの目を見ることができない。自分で言ってしまったことだが、この屋敷の兵長を3流と言ってしまったのである。

「んじゃあ3流のベレスと模擬戦をやって貰うわ」

「そ、それやめて下さいよ…」

 そう言うわけで、ベレスとダイヤの模擬戦の準備が始まった。

「ダイヤ、好きな剣を使いなさい」

 他の兵士が大量の鉄で出来た剣を持ってくる。細剣、大剣、様々な剣が持ってこられる。

「えーと…ひのきの棒とかないですか?」

「は?」

 サクラはキョトンとした顔をする。

「ほう…」

 ベレスは舐められているのかと闘志を剥き出しにする。

「い、いや…どうせ何にも変わらないので…」

 しかし、ダイヤの言っていることは真実である。彼はそこら辺の棒で特大の斬撃飛ばすことが出来る。それは先のウルフ戦でサクラもベレスも見ていたものである。

「…ハハ。面白いわね。残念だけどひのきの棒は無いわね」

「そうですか…じゃあ1番安い剣はどれですか?」

「そうね…この短剣…あ、ちょっと待ってて」

 すると、サクラは訓練所を後にする。

「えっと…」

「………」

 ダイヤとベレス、気まずい空気が流れる。数分してサクラが帰ってくると、ナイフのようなものを持って来た。

「お待たせー」

「サクラ様。これは?」

「果物用のナイフ。料理場から貰ってきたわ。これがこの屋敷にある1番安い剣になるわね」

「これなら…ありがとうございます」

 そう言ってダイヤはナイフを受け取る。

「ほう…果物ナイフですか。どうなることやら…楽しみですな」

 そう言ってベレスは剣を構える。

「ベレスさん」

「?」

「気を付けてくださいね」

 天然な笑顔をがベレスに刺さる。

「いい加減にしろよ。小僧が!」

 ベレスは一足飛びでダイヤの方へ向かう。ダイヤはそれを紙一重でかわす。

「おおー」

 サクラはそれを見て感動してる。

「はぁ!」

 ベレスの袈裟斬りがダイヤを襲うがそれを右手の親指と人差し指で掴む。

「な!?くそ!」

 ベレスは足で攻撃するが、全く効いてないような様子である。ベレスは全身を鎧で纏っている。当然足にも鎧をつけている。だが、その足での攻撃でも、ダイヤは顔色ひとつ変えない。連続で攻撃しているが、無駄である。

「…気が済みましたか?」

「く!」

 ベレスは剣を手放し、腰につけてある短剣を手にして怒涛の攻めを行う。

 ガキン!

「え?」

 サクラは目を疑った。ダイヤは摘んだままのベレスの剣で、ツバ競り合いをしているのだ。2度言うが、剣は親指と人差し指しか握ってない。それでもガキン!ガキン!とベレスと張り合っているのである。

「…圧倒的すぎね。もういいわ!」

「そんな!?私はまだ!」

 ベレスはまだ戦意喪失していない。だが、戦力差は火を見るより明らかである。

「ベレス。貴方も分かってるんでしょ?ダイヤにはどう足掻いでも勝てないわよ」

「…くそぉ!」

 すると、ベレスはダイヤの背後から短剣を思いっきり振りがぶる。

「はぁ…」

 ダイヤが溜息を吐くと、振り向き、ベレスの足元に向けて先ほど貰った果物用ナイフを居合切りのように構え、放つ。

 すると、地面にとてつもない風圧が起き、石の破片などがベレスに直撃する。斬撃を直接当てると殺してしまう恐れがあるため地面に斬撃を放つことでその衝撃のみでベレスを吹き飛ばしたのだ。

 ベレスは後方へ吹き飛び、沢山の破片が肉体に食い込んでいる。

「不意を突くなんて。本当に3流ですね」

 そう言いながら、ダイヤは短剣を鞘にしまう真似をする。

「あ」

 真似をしたがそれは叶わなかった。果物用のナイフは跡形もなく砕けてしまったのだ。

「はぁ…やっぱりか」

「えーと」

 とりあえず、サクラは状況を整理しようとする。

「とりあえずベレスは医務室に運んで。それと」

 ダイヤの方に向けて指を指す。

「その、砕けたナイフを理由を教えてもらいましょうか?」

「え? いや、これは安物のナイフだったので…」

「貴方は初めから安物のものを用意させたわよね。それって、どんなものでも同じで壊れるからなんじゃない?」

「な、なんでそれを…」

「私は勘がいいからね」

 そう言ってにっこり笑う。

「…サクラ様には教えないといけませんね。僕が奴隷落ちをした経緯を…」

「え?教えてくれるの?」

「はい。そもそも隠すようなことではないので…僕はルドロフ国の出身でした」

「え?ルドロフってあの軍事国家の?」

「はい。僕はその国の騎士団長でした」

「…え?」

 そこからは今までのことを話した。どんな剣でも1度振っただけで粉々になってしまうこと、伝説の勇者の剣を粉々にしたせいで奴隷落ちをしたことを。

「そう言うわけなんです…」

「そっか…苦労したのね」

 ダイヤの肩をぽんと叩く。

「正直な感想いい?」

「? はい」

「ラッキー!」

「…え?」

「お陰で貴方に出会えたんですもの!こんな幸運はないわ!」

 サクラは数歩歩いて振り返る。

「これからよろしくね」

 とびっきりの笑顔をダイヤに送る。思わずダイヤの顔が赤くなる。

「で、でも、1度しか剣を振れない騎士なんて使い物にならないんじゃ…」

 後ろ向きな考え方をしてしまう、最悪返金なんてことも考えられたため、ダイヤは話すことを渋っていた節があった。だが。サクラはそれを否定する。

「大丈夫。私にいい考えがあるわ」

 サクラの顔は悪い顔をしていた。
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