勇者の剣を折ったせいで奴隷落ちした僕は、公爵令嬢に買われてひのきの棒で戦うことを提案されました

いとうその

文字の大きさ
6 / 22

6.新たな体験

しおりを挟む
第6話

「学校ですか?」

 突拍子のない話題に首を傾げる。

「そ、ダイヤは他の国出身だから知らないかもしれないけど。この国では上流階級の貴族たちが通う学校はそれを守る騎士とともに通うのよ」

「それで僕が必要だったんですか」

 サクラが強い騎士を探していた理由がようやく分かった気がした。

「学校は来週から始まるわ、私はそれの1年生。新入生として入学するわ」

「来週からってギリギリじゃないですか!?」

「貴方が見つかって心から良かったと思ってるわ」

 サクラは「うんうん」と頷く。

「あの学校では強い騎士を連れて行くだけでステータスになるから、貴方のような逸材は最高なのよ」

 そう言ってダイヤの肩を掴む。

「そ、それは良かったですね」

 圧の強いサクラに思わず引いてしまう。

「にしても学校ですか…」

 そう言ってなんだかアンニュイな顔を見せる。

「ん?どうしたの?学校は嫌?」

「いえ、そんなことはないのですが…お恥ずかしいのですが、1度も学校と言うものに行ったことがなくてですね…」

「…そうなんだ」

「孤児院出身ですから文字の読み書きはなんとかできますが、これと言った教養を受けたことがありません」

「そいえば孤児って言ってたわね」

「はい…騎士団に上がっても魔獣狩りや戦争の毎日で、僕なんかが護衛とはいえ学校なんて神聖な場所に行って良いのか少し不安です」

 そう言いながら気まずそうに笑う。

「ふーん」

 サクラは腕を組む。

「本当にそれだけ?」

「え?」

 ダイヤは予想外の発言にキョトンとした顔をする。

「貴方は今まで戦争の毎日だった。逆にいえば、同じことの毎日だった。だから新しいことをするのが怖いんじゃない?」

 瞬間。ダイヤの目は大きく開いた。それは、ダイヤの心の奥にある核心をついていたからだった。彼自身、サクラに言われるまで気がつかなかったが、確かに新しいことをするのに抵抗を抱く自分がいることに気づいた。

 サクラに拾われた時に、護衛の任務を重ねて同じようなことをこなせば良いと思っていたが、護衛とはいえ、学校に行くと言われて心のどこかで不安に駆られる自分がいたのだ。

 それをサクラは当てて見せたのだ。剣の時もそうだが、彼女はそう言うことを察するのに長けているらしい。

「な、なんで分かったんですか?」

 確信を突かれ、思わずサクラに確認をしてしまう。

「言ったでしょ。私そう言う勘がいいって」

 サクラはにっこりと笑う。

「にしても困ったわね…このままじゃ1人で行かないと行けないわ」

 わざとらしくそっぽを向きながらそんなことを話す。

「い、いえ!僕のことはお気にせず!大丈夫ですので!」

 ダイヤは必死に訴えかける。それにニッと笑い出す。

「そうは行かないわよ。無理矢理行かせるなんてこっちも嫌だし…そうね…」

 少し考えて、サクラが喋りだす。

「私はね。この屋敷に引っ越してきたのも数ヶ月前なの。この屋敷に私以外の家族はいないわ。いるのはメイドと兵士だけ。家族は実家のある東の地域にみんないるわ」

「え?」

 言われてみれば、この2日間の間にサクラの家族に遭遇していたかった。紹介も1つもなかったから何かあるのかと思っていたが、メイドや兵士がいるとはいえ1人でこの家に住んでいるとは心労は計り知れないだろう。

「もちろん最初は不安だったわ。せめて兄様の1人くらいついてくれればいいのにって思ってた。けどね」

 サクラは満開の笑顔で話す。

「実際に1人で暮らしてみると、いろいろな発見があって楽しかったわよ。ちょっと無茶なことしても怒られないし。それに、ちょっと無茶したお陰で貴方に会えたんだからね」

 そう言ってサクラはダイヤの手を握る。思わずダイヤの顔が赤くなる。

「ま、私が言いたいのは新しい体験も、実際にやってみると大したことない。意外と楽しかったりするもんなのよ」

 サクラなりの説得はダイヤの心にしっかりと訴えかけられた。

「そう…ですね。そんな気がしてきました。ありがとうございます」

 ダイヤも笑顔で返す。

「うん!よろしい…そうだ!」

「?」

「折角だから新しい体験の練習をしてみない?」

「へ?」

 サクラは悪い顔をしていた。


「サ、サクラ様…これは…」

「うん!やっぱり似合うと思ったのよ!完璧に女の子にしか見えないわ!」

 ダイヤは青色のドレスを見に纏っていた。予想外のことでダイヤは混乱しているが、子犬のような瞳でサクラを見ている。

「サ、サクラ様…」

「きゃー!やっぱり可愛いわ!」

 この上なく高揚しているサクラ。後ろにいるメイド達もキャッキャしながら次の衣装の用意をしているし、更には兵士たちもドキドキしながら見ている。

「次の洋服を用意して!」

 サクラが命令すると、「かしこまりました」とメイド達がダイヤを囲む。

「や!やめ!あー!あー!」

 次にダイヤは真っ黒なゴスロリ風の衣装を着せられた。白髪と似合って実に可愛らしい。

「100点満点ね!」

 そう言って肩を叩く。

「どう?新しいことも、実際にやってみると大したことないでしょ?」

 サクラが優しい笑顔でダイヤに問いかける。

「サクラ様…」

 ダイヤは俯く。サクラなりに、ダイヤのためを思って考えてくれていたのかもしれない。

「いや!全然大したことありますよ!?」

 しかし、ダイヤは突っ込まずにはいられなかった。ダイヤにそっちの気はないし、そもそも絶対サクラは楽しんでやってる。

 ダイヤはサクラの話を聞いて不安が軽減されたが、これまたサクラのため、少しの不安を持って学校に行くことになりそうであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

【完結】悪役令嬢ですが、元官僚スキルで断罪も陰謀も処理します。

かおり
ファンタジー
異世界で悪役令嬢に転生した元官僚。婚約破棄? 断罪? 全部ルールと書類で処理します。 謝罪してないのに謝ったことになる“限定謝罪”で、婚約者も貴族も黙らせる――バリキャリ令嬢の逆転劇! ※読んでいただき、ありがとうございます。ささやかな物語ですが、どこか少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

処理中です...