勇者の剣を折ったせいで奴隷落ちした僕は、公爵令嬢に買われてひのきの棒で戦うことを提案されました

いとうその

文字の大きさ
19 / 22

19.訓練

しおりを挟む
第19話

 次の日に早速、ゼラによる体育の授業があった。

「それじゃあ剣術の訓練を開始します」

 どうやら剣術の訓練らしい。

「剣術は護身用にもなります。例えばその辺にあるただの鉄の棒でもきちんとした剣術のを使えば身を守る術になります」

 ゼラは21という若いこともあり、特に男子生徒に人気があった。特に問題の見えない先生である。

「そうですね…今日は私と貴方達の騎士で模擬戦をしてみましょう。実際に見るのも訓練の1つです。まあ楽しんで見てて下さい」

 すると、ゼラはにっこり笑って言葉を続ける。

「もし私に勝ったら…私の秘密を1つ教えてあげます。例えば…スリーサイズとか」

 それを聞いて男子生徒がざわつく。

「は、はい!俺の騎士が立候補していいですか?」

 すると、早速1人の生徒が手をあげる。

「いいですよ。貴方の騎士は…」

「私です」

 屈強な筋肉ダルマの様なガタイのいい男が前に出る。

「はい!よろしくお願いしますね」

 そう言って騎士とゼラの模擬戦が始まった。と言っても、ゼラは鉄の剣に相手は棍棒を使っている。本気の戦いと言ってもいい。

「…ゼラのやつ。手加減してますね」

「え?」

 そこにダイヤが小声で横槍を入れる。

「ゼラは細剣を得意としています。それが今は普通の剣です」

 ゼラの手元を見ると、一般的な鉄の剣を持っていた。だが、ダイヤはゼラの得意武器は細剣という。恐らくやりすぎない様手加減をしているのだろう。

「では…!」

 ガタイのいい男がゼラへ飛んで棍棒を思いっきり振るう。ゼラはそれをバックステップでかわす。そして、目では追えない手捌きで、男の武器を攻撃する。

「な!?」

 男の持っていた棍棒は細切れに砕かれる。

「はい。次の挑戦者はいませんかー?」

 ゼラは笑顔で呼びかける。武器がないのだ、もう男は戦えない。

「ダイヤ…今の剣技見えた?私はもちろん見えなかったけど」

 サクラがダイヤに質問する。

「17回棍棒に向けて攻撃しましたね」

 ダイヤはゼラの剣劇が見えたようで、解説する。

「…今の剣撃を見えた騎士はこの中に何人いるかしら…」

「いないでしょうね。ゼラの剣撃の速さは僕の比じゃないですから。ちなみに細剣だと、少なくとも倍の速さにはなりますよ」

 ダイヤはゼラを得意気で自慢する。

「…偉く機嫌がいいわね」

「そりゃ懐かしの相棒の剣技が見れたんですから」

 ダイヤはゼラのことを相棒と評価する。それほどまでに、団長と副団長は固い絆で結ばれていたのだ。

「…ふーん」

 サクラはそれを嫌そうな顔で見ると、手をあげる。

「はい。次は私の騎士が立候補します」

「はいはいいいですよって…」

 ゼラが快く引き受けようとした瞬間ダイヤが出ると、顔が変わる。

「ダイヤ…」

「ゼラ…」

 お互いが見つめ合うと、ゼラはやはり涙を流す。

「あれ?」

 拭っても拭っても涙が流れる。

「ごめん…ちょっとまってて」

 すると、ゼラはすごいスピードで校舎に戻る。あまりのスピードにざわつく生徒たち。

「お待たせ!」

 ゼラは細剣を持ってきて構える。

「本気ってことだね」

「折角ダイヤと戦えるんだもの!私も本気で…って」

 ゼラはここで、背中にある背負い籠の存在に気づく。

「なにそれ?」

「気にしなくていいよ。これが今の僕のスタイルってだけだから」

「ふーん。言っとくけど。手加減なんてしたら許さないから」

 そう言ってダイヤに殺意を向ける。あまりの殺意に怯える生徒もいる。

「そっちこそ。本気でこないと痛い目見るよ」

 しかしダイヤはにっこり笑う。

「おーけー」

 すると、お互いが見つめだす。とても静かで、周りが邪魔をすることのできない空気が作られた。しかし、それをサクラが一言でぶち壊す。

「始め!」

 大きな声に反応してお互いが相手に向けて直進する。ダイヤはひのきの棒を1本取り、斬撃を放つ。

「!」

 ゼラはびっくりした表情をするが、それを紙一重でかわす。次にダイヤがゼラの攻撃圏内にはいる。ゼラは細剣での突きを一般人には到底見えないレベルで攻撃する。だが、ダイヤは最小限の動きだけでそれを全てかわす。

 そして。お互いがお互いを通り過ぎた頃には、ダイヤのところには三日月型の斬撃の跡ができており、ゼラのところにはいくつもの細い穴ができていた。

「へぇ…考えたね。なんでも壊れちゃうならひのきの棒でいいってわけか」

「あそこにいるサクラ様が考えてくれたんだよ。本当に感謝してる」

「サクラ様…ねぇ…」

 するとゼラはサクラの方を見る。なんとも言えない表情をしている。

「ま、言いたいことはいくつかあるけど。それは後でいいや。今はこの瞬間を楽しもう!」

 そう言ってゼラは細剣を再び構える。

「だね…でもこれは授業で時間があるから…」

 ダイヤは3本ひのきの棒を手で持って言葉を続ける。

「早めに決めさせてもらうよ…3本…」

 すると、3本合わせてひのきの棒を振るうと、大きな竜巻ができる。

「竜巻!」

 その光景にゼラも驚きを隠せないようだが、ゼラはその竜巻に突っ込む。

「はぁぁぁぁぁ!!!」

 全速力で突っ込んだゼラはその竜巻を潜り抜け、ダイヤのところへ一直線へ向かう。

「流石ゼラだね…でも」

 ダイヤが作った竜巻はダイヤの後ろに回っていた。そして、その竜巻にダイヤが巻き込まれる。

「はぁ!?」

 自ら作った竜巻に巻き込まれたダイヤに驚きながら、竜巻の上へと行きゼラの攻撃範囲へと離れる。

 そして、ダイヤはその竜巻の中で平然としていた。自分の作った竜巻など自分のものだと言っていたようである。その中から連続で斬撃を放つ。

 竜巻によって自身は守られ、斬撃での遠距離攻撃。これが今のダイヤの真なる力である。

「まいったね」

 ゼラは斬撃を全て避けるも、細剣を落として手を上げた。

「降参、降参。そんなことされたら。どんな奴だって敵わないよ」

「そっか」

 ダイヤは3本のひのきの棒を使って竜巻を相殺し、綺麗に着地する。瞬間。ゼラがダイヤに抱きつく。

「ちょ。降参って言ったでしょ?」

「違うの…」

 ゼラは涙を流していた。

「本当にダイヤなんだなって思ったら嬉しくて…ありがとう…私の前に現れて、ありがとう」

 それを見てざわつく生徒たち。斬撃や高速の突き。挙げ句の果てに竜巻に入るダイヤを見て驚愕したに違いないだろう。

「………」

 そして、サクラはダイヤたちをなんとも言えない様な表情で見ていた。

 その後、ゼラに挑むものはいなく、何事もなく授業は終わった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

私は愛する人と結婚できなくなったのに、あなたが結婚できると思うの?

あんど もあ
ファンタジー
妹の画策で、第一王子との婚約を解消することになったレイア。 理由は姉への嫌がらせだとしても、妹は王子の結婚を妨害したのだ。 レイアは妹への処罰を伝える。 「あなたも婚約解消しなさい」

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

処理中です...