勇者の剣を折ったせいで奴隷落ちした僕は、公爵令嬢に買われてひのきの棒で戦うことを提案されました

いとうその

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第21話

 ダイヤが奴隷落ちした頃。それは最悪の環境だった。奴隷となる女性は綺麗にしておく必要があり、水浴びを許されたが、労働力になるだけの男にはそれは叶わなかった。

 その為、ダイヤはみるみるうちに泥だらけになっていった。匂いも臭かったがそれには慣れていって分からないほどになっていた。

 そして、もう1つ不幸なことはダイヤの設定された値段だった。2億という大金をダイヤには設定されていた。それは元騎士団長であると言う付加価値によるものである。

 だが、見た目の若いダイヤが騎士団長だと信じるものはおらず、誰もそんな高い奴隷を見る気もしなかった。

「お前だけどんどん売れ残ってる!こんなんじゃ赤字になるだけだ!」

 毎日毎日、奴隷商人から罵声を浴びせられた。その度に、自分の心がすり減って行くのを感じた。やがて、ダイヤは自分が屑であると考えるようになってきた。

「すいません…食料は10日に1度だけでいいので…それで許して下さい」

 ダイヤは特殊な訓練を受けている為、10日になにも食べなくても平気な身体をしていた。それを聞いて奴隷商人はびっくりしていたが、喜んだようにそれを了承した。

 馬車に揺られ、ダイヤは考える時間が増えた。自分はなぜこんな力を授かったのだろうか。1振りすれば地面が抉れるほどの斬撃を放つ代わりに、1振りでその剣は朽ちてしまう。

 そんな力、なんになるのだろ言うのだ。そんなことを考えていた。ダイヤは身体能力も優れていた。1歩でどんな距離でも跳ぶことが出来たし、例えば今繋がれている鎖もその気になれば紙のように千切れるだろう。

 だが、ダイヤはそれをしなかった。いや、出来なかった。力が入らなかったのだ。お腹が空いて力が入らないなんて、そんな簡単な理由ではない。

 今までダイヤは自分のために戦ったことなど1度もなかった。元々孤児だった彼は喧嘩を好まなかった。孤児だった彼を、国が認め、国の為に戦った。だから、とてつもない力が入った。

 だが、今は違う。国王から奴隷落ちの宣告を受け、国からいらなくなったダイヤはとてつもない脱力感を感じた。自分が萎んで居なくなるような、そんな脱力感を。

 ここまま自分は誰にも相手をされず、この世界から居なくなってしまうんじゃないだろうか。そんなことを考えていた時だった。

「だ、誰か助けてください!」

 少女の声がした。

 助けを求める少女の声がした。

 ダイヤの聴力はその声の元が馬車の後方にいることを教えてくれた。他に馬車にいる者は気づいていない。馬車の揺れが激しくその音で聞こえないからだろう。だが、ダイヤには確かに助けを求める声が聞こえた。

 ダイヤは馬車から身を乗り出し後方を確認すると、数キロ先でウルフ5頭に囲われている少女を見つけた。だが、ダイヤにとってその少女はただの少女ではなかった。

「め、女神様…」

 ルドロフ国では美しい金髪の長髪をした少女が女神とされる。そこにいたのは美しい金髪で長髪の少女だった。ダイヤにはそれはまるで女神様のように見えた。

 女神様がウルフに襲われている。それを考えると、ダイヤの中から何かこみ上げてくるのを感じた。入らなかった力が漲るのを感じた。

 ダイヤは馬車の中から一足飛びでその女神の元へ向かう。

「どうにかして助けないと!」

 ダイヤは繋がれている鎖を引きちぎると、その辺にあった太めの木を手に取る。

「女神様から!離れろ!」

 その木を一振りすると、ウルフは斬撃によって跡形もなく消し去り、地面は三日月型の跡を残した。

「え?」

 どうやら女神様は困惑している様子だった。

「大丈夫ですか!?」

 ダイヤは女神の安否を確認する。
 
「だ、大丈夫よ」

 どうやら無事のようで安心した。

「それにしても…おい!そこに隠れている兵士ども!」

 ダイヤは周りに兵士がいることが分かっていた。そして、女神を助けない彼らに怒りだしたのだ。そんなことをしていると、奴隷商人の馬車がやってくる。

「奴隷が勝手に抜け出すんじゃない!」

 当然の如く奴隷商人に怒られる。

「す、すいません…それに鎖を壊してしまいました…」

「上級魔獣すら千切れない鎖を…流石元団長…じゃなくて!さっさと乗れ!お前は奴隷だ!勝手な行動は控えて貰うからな」

「はい…私は屑です…命令に従います」

 するとダイヤは再び力が入らなくなって行くのを感じた。だが、女神様を助けられたのだ。その瞬間だけ、ダイヤは生きているのを感じることが出来た。今のダイヤにとってそれで十分だった。

「さっきの奴隷。私が買うわ!」

 耳を疑った。女神様からそんな言葉が聞こえたのだ。

「は?この奴隷を買うのか?」

「…助けたことで同情したのなら良いですよ。当たり前のことをしただけですから」

 だが、ダイヤはそれを否定する。それに値段を聞いたらすぐに拒否されるはずだ。ダイヤはこの女神様に拒否されるのだけは心から嫌だった。

「それで、いくらなの?」

「はぁ、2億ゴールドになりますが」

 値段を言われ、思わず目を瞑る。女神様に拒否をされたくない。やめてくれ。

「2億ね…」

 だが、女神様の反応は予想外のものだった。女神様は5億ゴールドを出し、ダイヤを買ってくれたのだ。受け入れてくれたのだ。奴隷商人は喜んで5億ゴールドを受け取り、去っていった。

「さてと」

「は!」

 するとダイヤはすぐさま女神様に跪いた。この瞬間。ダイヤに力が漲るのを感じた。ここでダイヤは確信した。これからはこの女神様の為に剣を振るのだと。

 それからはとんとん拍子だった。

「それが貴方の鞘になるからね」

 女神様から知恵をもらった。これで斬撃を幾らでも飛ばせるようになった。女神様に力を見せるために、森で全力で狩猟した。

「アハハハハ!」

 心の底から嬉しかった。力が漲る。どんな魔獣でも倒せる。女神様の役に立てる。

「3本…」

 ひのきの棒を3本まとめて振ってみた。竜巻が起きた。新たな力だ。これも女神様の力なような気がした。

「サクラ様…」

 森の中で、ダイヤは女神の名前を口にした。

「ありがとうございます。一生貴方を守り続けます」

 森の中で、祈るように誓ったのであった。
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