勇者の剣を折ったせいで奴隷落ちした僕は、公爵令嬢に買われてひのきの棒で戦うことを提案されました

いとうその

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22.三日月

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第22話

 ダイヤはサクラに奴隷になった時の話を話した。そして、サクラと女神を重ねて恋い焦がれていたことを伝えた。

「僕は、貴方のことが好きです。一生貴方を守ることを誓います」

 サクラの手を握って笑う。

「…そっか。ありがとうね」

 サクラはそっぽを向いて顔を赤くする。

「…返事はまだいいかしら?」

「…はい。今は戦争を阻止しないといけないですもんね」

 ダイヤはサクラの手を離す。

「何か考えがあるの?」

「はい。多分できると思います」

「多分?」

「やったことない力を使うので」

 そんなことをのほほんと答える。

「…本当に大丈夫なの?」

 サクラは目をジトっとしてダイヤを見る。

「大丈夫ですよ。僕にはサクラ様がいる限り、どんなことだってできる。そんな気がするんです」

「…そお」

 それを聞いてサクラは再び顔を赤くする。

「じゃあ、ちょっと行ってきますね」

 そう言って体育倉庫を出ようとする。

「…私も連れてって」

 手を握ってダイヤを引き止める。

「え?」

「私がいると力が出るんでしょ?だから私も連れてって」

「…分かりました」

 そうしてダイヤはサクラを抱えてとあるところに向かう。ちなみに、ダイヤは背負い籠を背負っているためお姫様抱っこで抱える。あまりに早く移動するとサクラはついて来れないので、ゆっくりとぴょんぴょん跳ぶように移動する。

 そして、ダイヤが行きたかった目的地へ着く。

「ここは…」

 そこは何もない荒野だった。

「ここがルドロフ国の軍進ルートです。ここしか今いる国に通じる場所はありません」

 ダイヤは軍進ルートを察知してそこに向かっていた。

「それがどうなるっていうの?」

「…サクラ様」

「ん?」

「手を握っていいですか?」

 ダイヤは跪いて尋ねる。

「は?」

「そうすれば力が出ると思うんです」

 ダイヤはにっこりと笑う。

「…さっきまでお姫様抱っこしてたでしょ?」

「それはそれ。これはこれですよ」

 ダイヤはそう言って手を差し出す。

「もう…仕方ないわね」

 サクラも手を差し出し、繋がる。それから実に数秒。だが、2人にとっては永遠を感じる時間だった。やがて、ダイヤからその手を離す。

「…ありがとうございます」

 ダイヤの顔は晴れやかだった。

「サクラ様は離れていてください」

「何をするの?」

「見ててください」

 すると、ダイヤは背中のひのきの棒を10本纏めて取り出す。

「10本…」

 10本のひのきの棒を握り居合斬りの構えをとる。

「全てはサクラ様のために…」

 そして、その剣を振るう。

 ドゴゴゴゴゴゴンッッッ!!!!!

 まるで爆発するような大きな音と爆風が起きる。

「な、なに!?きゃ!」

 その爆風で思わずサクラは吹き飛ばされる。ダイヤはすかさず回ってそれをキャッチする。

「大丈夫ですか?サクラ様」

「だ、大丈夫。それよりも、なにが…え?」

 サクラは目の前の光景を疑った。

 サクラがさっきまで荒野だったところを見渡すと、山ができていた。その山は高さは雲の上まで伸びており、長さも荒野の全域を及ぼすほどになっていた。

「こ、これって」

 サクラはいきなり出来た大山に驚きを隠せない。

「僕の剣撃ですよ」

 しかしダイヤはその正体をなんだか簡単に答える。

「ちょ、ちょっと待って。貴方の斬撃が凄いことは分かってるわ。でも、流石にありえないって言うか…」

 突然出来た大山にまだ混乱気味である。

「…そうだ!じゃあちょっと飛びましょうか!」

「え?」

 そう言ってダイヤはサクラを再びお姫様抱っこする。そして、膝を思いっきり曲げて垂直に跳ぶ。

「きゃあああ!!!」

 いきなりのことでびっくりしてダイヤに思いっきりしがみつく。上へ思いっきり飛んでやがて無重力になったのを感じる。最高点に着いたのだろう。

「サクラ様。目を開けて」

 ダイヤに言われて、ギュッと瞑っていた目を開ける。

「…これって!」

 サクラが一望すると、大きな山の全貌が見えた。そして、その山は三日月型の形を成していた。それを見ると、だんだん下に降りていく。「ドスン!」と音を立ててダイヤ地面に着地する。

「ね?あの三日月型。僕の剣撃ですよ」

「どうやら、本当みたいね…」

 何度も見た三日月型の斬撃。その形の大山。どうやらダイヤことを信じるしかないようである。

「この山がある限り、ルドロフ国はこの山を登るか迂回するしかありません。山を登るにしても、迂回するにしても数十日かかるでしょう。そんな状態で僕だけのために戦争するとは思えません。それに。これは僕なりのメッセージのつもりです」

「メッセージ?」

「僕はルドロフにはもう戻る気はないし干渉する気はない。聡明な国王様ならきっと気付いてくれます」

 そういって自慢気に答える。

「そっか。自慢の国王様なのね」

「はい!」

 ダイヤは子供のように元気に笑う。

「…じゃ、帰りましょうか」

「そうですね」

 ダイヤ再びサクラをお姫様抱っこする。そして、サクラのペースに合わせて移動する。

「例の告白は、明日…」

 サクラが小声で呟く。

「え?何か言いました?」

 だが、風を切る後で聞こえなかったようである。

「なんでもない」

 そうして、2人は屋敷に戻った。


 次の日になると、当然の如く2人は学校へ行く。すると校門でゼラが待っていてこちらに気づくと目を輝せた。

「ダイヤ!」

 そう言ってダイヤに飛びついた。

「例の山の報告聞いたよ!ルドロフ国はこの国への戦争を取りやめにするって!」

 そう告げられる。昨日の今日で早いが、どうやらメッセージが届いたようである。

「そっか。良かった」

 ダイヤは優しい顔をしていた。

「しかも、私を経過観察係として置いとくんだって!これからも一緒にいられるよ!好き!ダイヤ!好き!」

 なんだかゼラのテンションがおかしい。だが、それほどまで喜ばしいことなのだろう。ゼラはダイヤに抱きついて離さない。

「分かった。分かったから離してよ」

 ダイヤがそう言うが、ゼラはダイヤを離そうとしない。

「ゴホン!」

 そこに、サクラが間に入る。

「残念ですけど、ダイヤは私のことが好きみたいですよ」

「え?」

 それを聞いてゼラの目が虚になる。

「本当なの?」

「え?う、うん」

 ダイヤの顔は赤い。

「わ、私は諦めないからー!」

 そう言ってゼラは凄いスピードで去っていった。

「サ、サクラ様…」

「えーとね。ダイヤ。昨日の返事だけど…」

 お互いの顔が赤くなる。そして、サクラが意を決して口にしようとする。

「あら。サクラさんじゃないですか」

 場の空気を壊すように聞き覚えのある声がする。振り向くとアケビが仁王立ちで立っていた。

「こんなところでどうしたんですか?遅刻してしまいますよ。ルーンライト家もあろう者が遅刻とは大それていますね」

「…あんたは空気を読まないのね」

 サクラは溜息を吐く。

「? なんのことですか?」

「もういいよ。行った行った」

「? おかしなサクラさんですね」

 そう言ってアケビは去っていく。

「はぁ…空気台無しね。返事はまた今度ね」

「…はい」

 ダイヤは残念そうな顔をする。

「はぁ…」

 溜息を吐くと、サクラはダイヤに近寄る。そして、頬にキスをする。

「…え?」

 あまりのことで固まるダイヤ。

「とりあえず。今はこれで。じゃあ行きましょ。遅刻するわよ」

 そう言って校舎へ向かう。

「…はい!」

 ダイヤも駆け出して行く。その足はいつもより早足だった気がした。
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