一郎、次郎、三郎と音楽と貧乏

夫馬治之丞

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三郎と次郎 バンドを始める

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男は狂って死んだ。高いところと低いところを飛び回った。操縦席には誰もおらず、男はただ、流されてしまった。男は子供を世に残していった。子供は三郎と名付けられた。産んだ女は弱くて逃げた。三郎は捨てられた橋の下で、狂った男に拾われた。三郎は狂った男に音楽をあてがわれ、歌を覚えた。男は借金に追われ、どこかへ消えて行った。
そうして三郎のところには、エレキギターと一匹の犬が残った。



「ばかやろう!汚ねえ手で触りやがって。おい、まて!」
三郎は逃げた。楽器屋へ行って、ギターを眺めていたら、あまりに綺麗だったので、触っただけなのに、酷い剣幕で怒られた。
三郎は汚かった。何に使われているのかよくわからない工場に勝手に住み着いていた。
「なあ、そろそろ、水を浴びたいね」
ジョニは言葉を分かっているかのように三郎を見つめながら頷いた。
「夜が更けたら、公園に行こう。水を浴びたら、少しはマシになるから」
空気の溶けていく音が聞こえる。錆びた蛇口から流れ出る水をジョニが美味しそうに飲んでいるから、三郎も嬉しくなって、水を浴びていた。
“こんなに汚いこの僕が、こんなに汚い公園で、こんなに綺麗な感傷を!綺麗なギターが買えなくっても、こんなに汚いロックンロール、誰も聞いてないロックンロール!”
三郎が歌っていると、
「おーい、きみ!いい歌だね!素っ裸なのはいただけないけど、まあ、ともかく、僕はドラムをやっているから、うちにおいでよ!」
と、遠くの方で青年が声をあげた。
青年の家は綺麗だった。

「それで、君は工場に住んでるんだって?面白いな!」
「そうなんだよ、俺、犬とぎたあと、工場に住んでるんだ。だから汚いだろう」
「汚くないよ、三郎は。目を見ればわかる」
「次郎のドラムが聞きたいな、明日、聞かせておくれよ。今日はもう遅いから」
「いいよ。そのギターは、音は鳴るのかい?」
「わからないよ、これしか持ってないんだ」
次郎は三郎のギターを手に取り、あっちやこっちからねめわして、そして、うん、と頷いてから、
「わからないや、明日ためしてみよう」
と言った。ジョニは首を傾げ、三郎は笑った。
お酒の味が妙に美味しい夜だった。



次郎のドラムはとても上手だった。お金持ちのぼんぼんだった次郎は、小さな頃からいろんな楽器をやらされていたようだ。正確なリズムと次郎のグルーヴが防音の部屋に響き渡った。スネアの音が少しだけ畝っていることが、彼の人生の影を物語っていた。
「次郎、お前、最高だな!」
「三郎のうたも、こいつは、なかなかのタマだと思うぜ。なあ、バンドでも組んで、ライブをしてみようよ」
「俺、お金ないぜ」
「いいさ、僕には父さんが死んだ、その時のお金がたくさんあるんだ」
「俺も、働くよ。少しの間貸してもらうことにする。」

2人はバンドを組むことにした。

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