今回は必ず守り抜く

ボタニカルseven

文字の大きさ
1 / 3

プロローグ

しおりを挟む




 
 禍々しくどんよりとした雲の中、二人の男女が意を決した表情で立っている。その目線はこの天気、そしてランチェード大陸にあるダリテール王国を壊滅させた元凶に対して向けられていた。
 
「ルージュ」
「はっ。ここにいます」

 赤髪赤目を持った女は男にそう呼ばれる。
 
「見えるか。あれが禍々しく人智を超えた存在が住まう城だ」
「はい、はっきりと」

 ルージュは男と同じ場所を見る。少し離れたところにはそこにあるにはとても不自然で異質感を漂わせる城があった。あたりを漂う不思議な気のせいなのだろうか、周りの木々は不自然に萎れていた。

「私はダリテール王国のため、死を決して闘いに挑む。ルージュはどうする」
「私の身は全て殿下のものであり、殿下を守護するためのものでございます。私より殿下が先に身罷るなどあり得ません」
「はっそうだったな。お前はそういう奴だったな…………だが、先に死ぬのは俺だ。もう先に死なれるのは懲り懲りだ」
「いえ、私の最期は殿下に看取ってもらいます」

 男とルージュは少しの間、沈黙を貫く。これからは厳しい戦いになることを想定し、そしていつ灯火が消えてもいいように今までの思い出を振り返る。


「準備はいいか」
「私はいつでも殿下のおそばに」

 決戦の前だというのに、淡々と答えるルージュに男は苦笑した。だがこれが落ち着く。そう言って走り始めた。決戦の地に向けて。






「ぐあああああああああああああああああああああ!!!」

 声と表現するのも難しい叫び声があたりに響き渡る。

「どうした、ルージュよ。お前の大切な「殿下」は息をしていないようだな?」

 禍々しい城の主の腕は殿下の腹を突き刺していた。殿下が息をしていないことを確認してから片方の腕で汚れを取るように殿下をもち払い捨てた。

「あぁ、少し時間をやろう。気持ちの整理が必要だろう?」

 ルージュは城の主に捨てられた大切な人の元へ歩み寄る。そして長い髪を束ねていた髪留めをとり軽く口づけをしてから亡骸に添えた。

「あなたの無念は必ず。それとちゃんと私が見取りましたからね」

 そう淡々と表情を崩さずに言った。

「つまらないつまらないつまらない!!」
 
 城の主が顔を歪めて怒声を上げた。
 
「何がつまらないのだ」
「……っあぁやっぱり苦しいんだぁその顔今にも崩れそうだねぇ」

 ルージュの顔を見て城の主は楽しそうに声を上げる。

「さぁ戦いを再開しよう。私は一刻も早く殿下を弔わなければならないからな」





「あぁあぁ!!さすがだルージュ。私をここまで追い詰めるとは!!」
 
 あれからどれだけの時が経っただろうか。城の主とルージュは互角の戦い、いやルージュが少し押されている戦いをずっと続けていた。だが、もう人間であるルージュの身体は限界に近い。

「戯言を。お前は私が与えた傷をすぐに治してしまっているではないか」
「ルージュがせっかく傷を与えてくれたのだから残しておきたいのは山々だが、勝手に傷が治ってしまうんだ。すまんな」

 そう一切傷のない城の主は微笑んだ。

「私はまだまだいけるが、ルージュはもう、限界そうだな……」

 城の主の目線の先には肩を上下させながら剣を持つルージュの姿があった。きっともうそろそろ立っているのも限界になる頃だろう。

「そうだな、そろそろ限界だ」
「そうか……やはりお前にも私を倒すことは無理なのだな……あぁそうだ」

 急に物憂げな表情をしたかと思えば、何やら覚悟を決めた表情をみせ自分の腕を噛みちぎった。

「――!?」 

 その狂った行動にルージュは目を疑った。だが何をしてくるかわからない、そう思い気持ちを切り替えようとしたその瞬間―――



「――――ぐはっ」


 ルージュはいきなり血を吐き出していた。ルージュは必死に考えを巡らした。何をした。この急激な痛みはなんだ。いやそれよりも早くこいつを倒さなければ。動け動け動け。

「あとは、一応あいつの血も取っておこう。そうしたほうがきっとたのしい」

 だが、ルージュの意識はだんだんと濁っていく。ただ楽しそうな城の主の声だけが頭に響く。

「はははっ準備はできた。そうだルージュ私の名前はヴォルトまた会った時呼んでくれじゃあまた――」

 そこでルージュの意識は途切れた。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

転生皇女はフライパンで生き延びる

渡里あずま
恋愛
平民の母から生まれた皇女・クララベル。 使用人として生きてきた彼女だったが、蛮族との戦に勝利した辺境伯・ウィラードに下賜されることになった。 ……だが、クララベルは五歳の時に思い出していた。 自分は家族に恵まれずに死んだ日本人で、ここはウィラードを主人公にした小説の世界だと。 そして自分は、父である皇帝の差し金でウィラードの弱みを握る為に殺され、小説冒頭で死体として登場するのだと。 「大丈夫。何回も、シミュレーションしてきたわ……絶対に、生き残る。そして本当に、辺境伯に嫁ぐわよ!」 ※※※ 死にかけて、辛い前世と殺されることを思い出した主人公が、生き延びて幸せになろうとする話。 ※重複投稿作品※

後悔などありません。あなたのことは愛していないので。

あかぎ
恋愛
「お前とは婚約破棄する」 婚約者の突然の宣言に、レイラは言葉を失った。 理由は見知らぬ女ジェシカへのいじめ。 証拠と称される手紙も差し出されたが、筆跡は明らかに自分のものではない。 初対面の相手に嫉妬して傷つけただなど、理不尽にもほどがある。 だが、トールは疑いを信じ込み、ジェシカと共にレイラを糾弾する。 静かに溜息をついたレイラは、彼の目を見据えて言った。 「私、あなたのことなんて全然好きじゃないの」

モブ転生とはこんなもの

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。 乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。 今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。 いったいどうしたらいいのかしら……。 現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。 どうぞよろしくお願いいたします。 他サイトでも公開しています。

ついで姫の本気

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
国の間で二組の婚約が結ばれた。 一方は王太子と王女の婚約。 もう一方は王太子の親友の高位貴族と王女と仲の良い下位貴族の娘のもので……。 綺麗な話を書いていた反動でできたお話なので救いなし。 ハッピーな終わり方ではありません(多分)。 ※4/7 完結しました。 ざまぁのみの暗い話の予定でしたが、読者様に励まされ闇精神が復活。 救いのあるラストになっております。 短いです。全三話くらいの予定です。 ↑3/31 見通しが甘くてすみません。ちょっとだけのびます。 4/6 9話目 わかりにくいと思われる部分に少し文を加えました。

私は本当に望まれているのですか?

まるねこ
恋愛
この日は辺境伯家の令嬢ジネット・ベルジエは、親友である公爵令嬢マリーズの招待を受け、久々に領地を離れてお茶会に参加していた。 穏やかな社交の場―になるはずだったその日、突然、会場のど真ん中でジネットは公開プロポーズをされる。 「君の神秘的な美しさに心を奪われた。どうか、私の伴侶に……」 果たしてこの出会いは、運命の始まりなのか、それとも――? 感想欄…やっぱり開けました! Copyright©︎2025-まるねこ

婚約者を奪い返そうとしたらいきなり溺愛されました

宵闇 月
恋愛
異世界に転生したらスマホゲームの悪役令嬢でした。 しかも前世の推し且つ今世の婚約者は既にヒロインに攻略された後でした。 断罪まであと一年と少し。 だったら断罪回避より今から全力で奪い返してみせますわ。 と意気込んだはいいけど あれ? 婚約者様の様子がおかしいのだけど… ※ 4/26 内容とタイトルが合ってないない気がするのでタイトル変更しました。

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

処理中です...