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プロローグ
しおりを挟む禍々しくどんよりとした雲の中、二人の男女が意を決した表情で立っている。その目線はこの天気、そしてランチェード大陸にあるダリテール王国を壊滅させた元凶に対して向けられていた。
「ルージュ」
「はっ。ここにいます」
赤髪赤目を持った女は男にそう呼ばれる。
「見えるか。あれが禍々しく人智を超えた存在が住まう城だ」
「はい、はっきりと」
ルージュは男と同じ場所を見る。少し離れたところにはそこにあるにはとても不自然で異質感を漂わせる城があった。あたりを漂う不思議な気のせいなのだろうか、周りの木々は不自然に萎れていた。
「私はダリテール王国のため、死を決して闘いに挑む。ルージュはどうする」
「私の身は全て殿下のものであり、殿下を守護するためのものでございます。私より殿下が先に身罷るなどあり得ません」
「はっそうだったな。お前はそういう奴だったな…………だが、先に死ぬのは俺だ。もう先に死なれるのは懲り懲りだ」
「いえ、私の最期は殿下に看取ってもらいます」
男とルージュは少しの間、沈黙を貫く。これからは厳しい戦いになることを想定し、そしていつ灯火が消えてもいいように今までの思い出を振り返る。
「準備はいいか」
「私はいつでも殿下のおそばに」
決戦の前だというのに、淡々と答えるルージュに男は苦笑した。だがこれが落ち着く。そう言って走り始めた。決戦の地に向けて。
「ぐあああああああああああああああああああああ!!!」
声と表現するのも難しい叫び声があたりに響き渡る。
「どうした、ルージュよ。お前の大切な「殿下」は息をしていないようだな?」
禍々しい城の主の腕は殿下の腹を突き刺していた。殿下が息をしていないことを確認してから片方の腕で汚れを取るように殿下をもち払い捨てた。
「あぁ、少し時間をやろう。気持ちの整理が必要だろう?」
ルージュは城の主に捨てられた大切な人の元へ歩み寄る。そして長い髪を束ねていた髪留めをとり軽く口づけをしてから亡骸に添えた。
「あなたの無念は必ず。それとちゃんと私が見取りましたからね」
そう淡々と表情を崩さずに言った。
「つまらないつまらないつまらない!!」
城の主が顔を歪めて怒声を上げた。
「何がつまらないのだ」
「……っあぁやっぱり苦しいんだぁその顔今にも崩れそうだねぇ」
ルージュの顔を見て城の主は楽しそうに声を上げる。
「さぁ戦いを再開しよう。私は一刻も早く殿下を弔わなければならないからな」
「あぁあぁ!!さすがだルージュ。私をここまで追い詰めるとは!!」
あれからどれだけの時が経っただろうか。城の主とルージュは互角の戦い、いやルージュが少し押されている戦いをずっと続けていた。だが、もう人間であるルージュの身体は限界に近い。
「戯言を。お前は私が与えた傷をすぐに治してしまっているではないか」
「ルージュがせっかく傷を与えてくれたのだから残しておきたいのは山々だが、勝手に傷が治ってしまうんだ。すまんな」
そう一切傷のない城の主は微笑んだ。
「私はまだまだいけるが、ルージュはもう、限界そうだな……」
城の主の目線の先には肩を上下させながら剣を持つルージュの姿があった。きっともうそろそろ立っているのも限界になる頃だろう。
「そうだな、そろそろ限界だ」
「そうか……やはりお前にも私を倒すことは無理なのだな……あぁそうだ」
急に物憂げな表情をしたかと思えば、何やら覚悟を決めた表情をみせ自分の腕を噛みちぎった。
「――!?」
その狂った行動にルージュは目を疑った。だが何をしてくるかわからない、そう思い気持ちを切り替えようとしたその瞬間―――
「――――ぐはっ」
ルージュはいきなり血を吐き出していた。ルージュは必死に考えを巡らした。何をした。この急激な痛みはなんだ。いやそれよりも早くこいつを倒さなければ。動け動け動け。
「あとは、一応あいつの血も取っておこう。そうしたほうがきっとたのしい」
だが、ルージュの意識はだんだんと濁っていく。ただ楽しそうな城の主の声だけが頭に響く。
「はははっ準備はできた。そうだルージュ私の名前はヴォルトまた会った時呼んでくれじゃあまた――」
そこでルージュの意識は途切れた。
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