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第一章 梅雨の幻影

元気でね

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「……驚いたよ」

住宅街から少し離れた喫茶店。
通された窓際のボックス席に、向かい合って座る。

あの日と変わらない、穏やかな笑顔。僕の緊張を解してくれた、樹さんの優しい眼差し。
だけど、あの時よりも……遠い。

「まさか、実雨とここで会うなんて」
「……僕も、です……」

声が、震える。

「まさか、樹さんが………」
「………」

初めて会った時から、似てると思っていた。
大空に──声も、笑顔も。

膝の上に乗せた手の指先。小さく震えながら感覚を失っていくのを感じ、キュッと握りしめる。


「──前に、話したよね。
学生時代に告白されて、付き合った彼女がいるって。
……その時彼女が妊娠して、それで生まれたのが──大空そら、なんだ」
「……」
「責任取って結婚するつもりで、式まで挙げたんだけど……入籍の直前になって、彼女の方から別れを告げてね。
……まだ小さかった頃に、何回か会わせて貰っただけで……今の大空を、僕は何一つ知らないんだ」

寂しそうな瞳。
僕には到底解らないものを……樹さんは抱えていた。

ネットで、僕の話を誠実に聞いてくれたのは……
僕を、大空と重ねていたから……?





店を出て、駅まで送って貰う。
この数日の間に、沢山の事がありすぎて……
頭の中がぐしゃぐしゃして、足元がぐらぐらする。

まともに立っていられる自信なんて、ない。
全てが夢ならいいのに──そう思ったら、頭の奥で鈍い痛みが走った。


「……ありがとう、ございました」

樹さんに深く頭を下げる。

「大丈夫……?」
「………はい」

俯いたまま、小さく息を吐く。
今までずっと聞けず終いだった事を……意を決し、思い切って樹さんに尋ねてみる。

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