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第二章 激情の通り雨

…俺と、付き合え

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……あ……


汗で湿った肌の上を、今井の舌が這う。


汚い……から……


そう思って今井の肩を摑んで押し返すも、簡単にその手首を掴まれ、引き剥がされてしまう。

「……今更、抵抗すんなよ」

そう囁かれた後、まだ芯を持ったままの乳首を食まれ、歯を柔く立てられる。





バイク事故の時、大空が大事そうに持っていたという形見の指輪は──ジュエリーショップで大空が買った、あの指輪だった。

数人のクラスメイトが、お線香を上げに大空の家へ行った時──『きっと、貴女へのプレゼントだったのかもしれないわね……』と、大空の母親から佐藤さんへ、その指輪が渡されたのだという。

キラリと光る、彼女の左手薬指。それが視界に入る度、ズキン…と胸が痛み、苦しくて。
堪えられなくて──


──もう、限界だった。





「……ありゃ、ねぇよな」

終業式が終わり、帰り支度をする僕に、そう今井が話し掛けた。


……ジー、ジー、ジー、

じっとしていても、汗ばむ教室内。
全開の窓から容赦なく入り込む、やけに煩い蝉の鳴き声。
僕を置いてけぼりにしたまま、通り過ぎようとしていく、大空との季節──

「………え」
「佐藤の事だよ」
「……」

何て答えたらいいのか、解らない。
心情を含んだ言葉を、例えその切れ端でも言ってしまったら……ギリギリに保っているこの心が、壊れてしまいそうで……

「……」

苦しい。
悲しくて、淋しくて、辛い……
それ以外の言葉が、見つからない。

──でも、佐藤さんは悪くない。
大空の事故は、色んな偶然が重なったもので、誰が悪い訳じゃない。
それに……失った辛さなら、きっと同じ……
僕だけじゃない。

解ってる。
そう、頭では解ってるけど……


大空の全てを持ってる佐藤さんが、羨ましい。

……僕には、何も無いから。
指輪も。肌を重ねた温もりも。
恋人としての、思い出も………


「おい、大丈夫か?」
「……」

暑さのせいか。
一瞬、視界が大きく揺れて暗転する。じりじりと頭が痺れながら、視界に色が戻っていき──映し出されたのは、上履きを履いた僕と今井の足元。


ジー、ジー、ジー、ジー……、


「………うん」

ゆっくりと視線を上げれば、鋭い目付きの今井が僕をじっと見据えていた。

「こんな時に言うの、卑怯かもしれねぇけど。……やっぱ、言うわ」

ガタイのいい今井が、体に似合わず小さな声でボソボソと呟く。後頭部を掻きながら、キョロキョロと辺りを見回すと、僕の二の腕をひっ掴んで乱暴に引っ張り、耳元に唇を寄せる。


「………俺と、付き合え」


唐突な台詞。真っ白になる脳内。
幻聴……かと、思った。
その言葉をどう受け止めていいのか解らなくて、じっと今井を見つめる。

「大事にしてやる」
「……」
「俺が実雨を、支えてやるから」
「………、うん」

まだ、人が疎らに残る教室。
大空のいないぼっちの僕と、特に接点のない今井が、親密な距離で話しているのを見られたら、どう思われるだろう……
そんな事を頭の片隅で思いながらも、もう、何もかもどうでも良くて。


目の前に差し伸べられた手を、条件反射のように──掴んでいた。



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