流刑島、運命の番

真田晃

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横峯が煎れてくれる珈琲は、美味しい。
香りも温度も口当たりも、全てが僕好みで……心を穏やかに落ち着かせてくれる。



早くに両親を亡くし、天涯孤独の身となった僕は、医療従事者である横峯に引き取られた。


『倫太郎……君のお父さんと啓介と僕の三人で、初めてこの島に足を踏み入れた時……元々棲みついていた狼の群れに、突然襲われてしまってね……』

まだ幼い頃、父の話を何度か聞いた事がある。

視察団の長だった父。
怪我人と医師を船に残し、三人で島に上陸した時の話だ。
この島に開拓移民達が安心して来られる様になったのは、父が命をかけて凶暴な狼と戦ったからだという。

名誉ある死。
αだった事もあり、父はこの島では英雄。


……だけど、僕はこの話を聞いた時……胸が酷く痛んだ。

どうして狼を殺さなくちゃならなかったのか。
そこまでしてどうして、この島を手に入れたかったのか。

殺された狼の事を思うと……僕はいたたまれなくなって、涙が溢れて止まらなくなってしまったのを覚えている。

一歩外に出れば『英雄が残した子』だと祭り上げられ、いずれαとなりこの島の未来を変えてくれるだろうと、期待に満ちた目を向けられた。

その度に僕は、胃の底から苦いものが迫り上がってくるのを感じていた。


十五才を迎えた運命の日。
属性検査を受けた僕は──平凡なβだった。

ホッとした。
だけど同時に、島民達の期待に答えられなかった重責感に嘖まれた。



「……まだ動かすと、痛みがある様です。それに、傷口が少し膿んでしまっているのも気になります」
「ありがとう。助かったよ」

珈琲片手にカルテを読み上げると、横峯が珈琲カップに口を付ける。



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