流刑島、運命の番

真田晃

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次いで白いカーテンの裾がはためく。

空気を切り裂いたそれは、ナイフのように暗闇を断ち切り、囚人に襲い掛かった。


ガッッ……

掴まれていた手が離れる。
その途端、濡れそぼつソコが淋しそうにキュッと締まった。

床を転がり、暴れ、肉を打つ鈍い音──それらが、膜を張られたように鈍く反響して聞こえる。
朦朧とする意識の中、耐えきれず……床に崩れ落ちた。


「ぎゃああぁあ──ッ!」


耳を劈く悲鳴に、目が冴える。
まだ熱くて気怠い体を起こし、声のした方へゆっくりと振り返った。


……え……


風貌の良い身体。銀灰色の体毛。
ピンと立った獣耳。太くて立派な尻尾。
しなやかな筋肉のついた、四肢。

僕を庇うようにして立ちはだかり、男に唸り声を上げるのは──


……狼……


図鑑でしか見た事がない。
……でも確かに、狼だ。


振り返った狼が、僕の顔を覗き込む。

大きな口。そこから覗く鋭い歯。
顎下の毛先から滴るのは、糸を引く鮮血。

僕を優しく見つめる、水色と琥珀色のオッドアイ──



……彼、だ……



そう思った瞬間。
ドクンッ……と大きく心臓が鼓動を打ち、毛細血管へと血潮が押し流される。
手を伸ばし、彼の美しい毛並みに触れる。

強くて、柔らかくて……温かい……


『どうしようもなく、魂と魂が……惹かれ合ってしまうんだよ』


その意味が、今なら解る。

彼に、惹かれる。
……どうしようも無い位に……強く……強く……




「………葵っ!」


彼の背中に跨ぎ、身を委ねれば……僕を気遣いながら、彼が窓枠にトンッと飛び乗る。


白金の、大きな満月。

その光が彼と僕を照らし、美しいシルエットを描き出す。


「待て、葵──!」


………ゆ、ぅ……? 


遠退く意識の中で、僕を呼ぶ祐輔の声が聞こえた気がした。

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