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「もしかして、こういう場所は苦手?」
「……」
「早くここを出たい、って。顔に書いてあるよ」
「……え、」
言われて僕は、片手で頬を覆い隠す。と、その様子を見た樫井がクスクスと笑う。
「ごめんごめん。……実は、俺も苦手なんだよ」
そう言って樫井が、憂いを帯びた笑みをみせる。
「俺さ、森崎さんにスカウトされてこの業界入ったし、その後も色々お世話になってるからさ。……無下に断れなくて」
「……」
「君は?」
ワァ──!!
キャァアア──!!
瞬間、背後から激しい歓声が上がる。
と同時に照明がパッと消え、妖しげな色のスポットライトに替わり、切り人々が押し寄せるDJブースから、ノリの良いアップテンポの曲とスクラッチ、そして重低音が響き渡る。
「君の名前、教えて」
一瞬で変わる空気。
それに飲まれ圧倒する僕に、樫井が顔を寄せて違う質問をする。
「……さくら、です」
ガンガンと響くアップテンポの激しい曲調。薄闇に、妖しげな光を放ちながら回るカラーボール。そのせいか、思考回路が次第に鈍っていく。
「さくら、か……」
穏やかで、柔らかな声。
クイとシャンパングラスを傾けた樫井が、僕に手を伸ばす。
「……」
その指先から腕の付け根へと、ゆっくり視線を辿っていけば……肩越しから眩い光が射し、思わず目を瞑る。
目の奥を突き刺す様な痛みに堪え、伏せ目がちに瞼をそっと開けると……頬に、樫井の指先がそっと触れる。
「少し、震えてる?」
包み込むような甘い声に誘導され、怖ず怖ずと視線を持ち上げる。
「……可愛いね」
綺麗に口角を持ち上げた唇が、甘い声で囁く。
「え……」
聞き間違い、だよね。
男の僕を、可愛いだなんて。
華やかな世界には、もっと可愛い子や綺麗な人がいるというのに……
──つぅ、
耳朶に触れ、きゅっと摘まんだその指が、肌の上を滑らせながら顎下へと移動する。
折り曲げた人差し指でクイッと顎を持ち上げられ、戸惑いながらも樫井秀孝を見つめていれば、その瞳が薄く閉じられ、唇が迫る。
「んっ、……」
抵抗するのも忘れ、重ねられる唇。
柔らかくて、甘い匂い……
誘導されて唇の門戸を僅かに開けば、そこから侵入する熱い舌。
「……ん、ゃ……、」
顔を少し傾け、拒絶の意思を示せば……僕の頬裏を柔らかく撫でた舌先が引っ込められ、ゆっくりと唇が離れていく。
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