闇夜 -アゲハ舞い飛ぶ さくら舞い散る3-

真田晃

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×××


アパートに戻る。……と、玄関ドアの前に、黒スーツ姿の男性が立っていた。

「……」

遠くからでも解る。後ろに流した黒髪に、妙に背筋の良いその人物は──水神シンだ。

怯まずアパートの階段を上ると、その足音に気付いた水神が振り向く。

「もう、体調は良さそうですね」
「……」

僕だと解った途端、唇の両端を綺麗に持ち上げ、身体を此方に向き直す。

「この間のパーティですが、約束通り出席されましたか?」

インテリ眼鏡の奥に潜む、鋭い眼。まるで僕を試すかのように、冷ややかに見据えられる。

「……はい」
「嘘、付かないで頂きたいですね。
ものの数分会場に居ただけでは、出席したとは言えませんよ」
「……」

ピシャリと、上から言い放たれる。
それに負けじと目を逸らさず、じっと水神を睨み返す。

「……まぁ、いいです。
貴方も被害に遭われた様なので、特別に見逃してあげましょう」
「……」
「もう一度、チャンスを差し上げます」

そう言うと、此方に近付きながら、水神が内ポケットから何やら取り出す。

「森崎さんから今夜、ここに来るようにとことづかっています」
「……」

長方形の小さな紙──それは、森崎の名刺だった。裏返して差し出されたそこには、行き先のビル名と階、そして簡単な手書きの地図が書かれていた。

「愛沢さんから事件の概要をお聞きし、解決を依頼されています。相手方の樫井とは、先程連絡が取れましたのでご安心を」
「……」
「貴方はくれぐれも、逃げる事などないよう……お願いしますよ」

流暢に垂れ流される言葉の端々に、悪意めいたものを感じる。
そんなに恥を掻かされたのが嫌だったのだろうか。それとも、僕自身を最初から疑って──

「……」

そんなの、どうでもいい。
少なくとも、パーティー自体はまともそうだったし、会場での森崎は、少し常識のズレはあったものの、僕を貶めようとする悪意は感じられなかった。


「わかりました」


その名刺を受け取る。
もし、待ち構えていた森崎に嫌がらせをされたら、全てを凌に打ち明ければいい。

「……」

そう決意した僕の横を、水神が通り過ぎる。チラリと横目で僕を見た後、不敵な笑みを浮かべながら。


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