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このままアパートに戻るのは、心許なくて。大通りの明るいネオンに心を落ち着かせ、人々の往来に紛れながら凌のマンションへと向かう。
『貴方はくれぐれも、逃げる事などないよう……お願いしますよ』──ふと蘇る、水神の台詞。
あの場所で何が行われているのか。知っていてわざと、僕をそこに行かせたんだろうか……
「……」
今まであった出来事を、凌に話そう。
森崎の事も。パーティーの事も。AV撮影が行われていた事も。包み隠さず、全て。
凌ならきっと、僕の話をちゃんと聞いてくれる筈──
……はぁ、はぁ、はぁ、
マンションの入口に着き、不安の入り混じる呼吸を何度も繰り返しながら、凌の部屋番号を押す。
『こんな時間に、どないしたん』
「……」
『──まぁ、ええわ』
まだ息が整わず、何も答えずにいれば、凌がエントランスのドアを開けてくれる。
「……」
……もう、大丈夫だ。
中に入り、ドアが閉まるのを見届けると、ようやく追っ手から逃れられ、安全が確保されたんだとホッと胸を撫で下ろす。
エレベーターで最上階へと上り、凌の部屋前まで辿り着くと、チャイムを鳴らす。
ガチャ、
出てきたのは、普段とは違う風貌の凌──
ハーフアップにした金色の長髪。揺れるチェーンピアス。そして、高級そうな黒いスーツ。
切れ長の目尻が吊り上がり、何処となく怖い雰囲気を醸し出したその表情は、まるで裏社会に生きるヤクザのよう。
「入りや」
大きく開かれるドア。
玄関には、見覚えのない男性ものの革靴と女性用ヒール。
靴を脱ぎ、凌の背中を追ってダイニングキッチンへ向かうと、入って直ぐの所にスーツ姿の水神が立っていた。
「……」
僕を見るなり片眉をピクリと動かし、見下したような目付きに変わる。
何故、ここに来たんですか。……そう言いたげに。
ダイニングテーブルから離れた場所にある、黒革の応接ソファ。そこには先客が二人、此方に背を向けて座っていた。
「いいんですか、愛沢さん」
「……丁度えぇやん」
焦る水神を余所に、余裕気に答える凌。その声は不気味な程に低く、不穏な空気を孕んでいた。
少しだけ振り返った凌に腕を掴まれ、先客の斜め後方へと引っ張られる。
「この子が、その被害者や!」
凌が強くそう言い放つと、二人が振り返ってスッと立ち上がる。
「……!」
樫井、秀孝……
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