私を抱いて…離さないで

真田晃

文字の大きさ
80 / 118
第三章 パパ

80.

しおりを挟む

ドクン、ドクン……

一瞬で変わる空気。
いつもとは違う雰囲気の祐輔くんが、何処か大人びて見える。
だけどそれは同時に、私の知っている祐輔くんからかけ離れてしまったような寂しさも覚え……

「……」

隣にいる大山が、俯いた私を横目で見る。弾かれたと感じたんだろう。その視線が何処となく痛い。


「じゃあ罰として、琉偉はミネオンリーね」
「──、! あ、ハイ!」

それまでの態度がガラリと変わり、腰を低くする琉偉。
私にオレンジジュースを用意した後、ミネラルウォーターのペットボトルを遠慮がちに拾い、「いっただきま~す!」と言ってゴクゴクと喉を鳴らす。

その頃にはすっかり空気も戻り、美麗のフォローもあって大山と再び話に花を咲かせていた。


「……さっきはホント、ごめんね」
「あ、……ううん」
「……」
「……」
「でも、一言だけいい?」

目を伏せ、申し訳なさそうな表情の琉偉が、スッと私に顔を寄せる。

「果穂ちゃんは、美麗さんのランク知ってる?
──今、№5。アフターの予約も埋まる程、スゲェ人気なんだよ。
なのに……いつも安いセット料金だけっていうのは、美麗さんに失礼だと思わない?」

「──!」

片手をソファに付き、もう片方の手で口元を隠しながら耳先でそう囁く。
ふわりと香る、ローズの華やかな匂い。だけど、その言葉には棘しかなくて。

『いつも』──それは、この店で私は細客として有名だって証。
いたたまれなくなり、肩を丸めて俯く。

「……俺、まだ新人でバカだから言っちゃったけどさ。……これは、果穂ちゃんの為でもあるからね。
だって果穂ちゃんは、美麗さんがテッペンに立った姿、見たいと思うっしょ?」
「……」

それは、確かに。
……確かに思ってる……けど……

膝の上に置いた、バックの持ち手をギュッと握り締める。


「……キャア、嬉しい!」

隣から甲高い声が聞こえ、咄嗟に視線を向ける。と、テーブルにあったお菓子セットのポッキーを摘まんだ美麗が、向かい合った大山にその先を咥えさせ……

「……!」

その肩に片手を置き、少し首を傾げ、そのポッキーの反対側を咥える。

「……」


ズキ……ン……

まるでキスをするような二人の姿に、耐えきれず顔を背ける。

見たくない──でも、私が見なくても、時が止まる訳じゃない。
きっと祐輔くんは、普段からこういう事を、他の人にもしているんだろうな……

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

処理中です...