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第三章 パパ
109.見えない出口
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「……それじゃ、来週から。宜しく頼むね」
バックヤードでシフトの調整をしていた店長が、柔やかな顔付きで私の横を通り過ぎる。
「はい……」
先生と別れてから、それまでずっと決めかねていたシフト時間の繰り下げに、やっと応じる決心がついた。
あれ以降、問題の男が店に来る事はないみたいだけど。何かあってからでは遅いし。何よりもう、……これ以上稼ぐ必要は無いかもしれないから。
大学では、相変わらずな日々。
祐輔くんを愚痴っていた大山さんは、何事もなかったかのように私に代返を頼んでくるし。安藤先輩も、特に気にせず取り巻きの女の子達を引き連れている。
菱沼先生は……
先生は、講義の間も、廊下ですれ違った時も……一切私に視線を向けなくなった。
まだ、癒えない心の傷。
先生の姿を見掛ける度に、この胸がどうしても……高鳴ってしまう。
先生は、もう……上手く私を見限っているのに。
私だけが、まだ引き摺ってる。
全てが元に戻っただけ。
何度も心の中で、そう言い聞かせているのに。後から後から、気持ちが勝手に溢れてしまう。
涙で滲んだ瞳を片手で拭い、ロッカーを開ける。
扉に付いた、小さな鏡。
そこに映る顔は血色が悪く、隈もできていて……酷く窶れたように見える。
「……」
元に、戻った訳じゃない。
私だけが、周囲の流れから……取り残されてしまってる。
早く、追いつかなくちゃ……
溢れそうになる感情を、理性で抑えつける。
辛いのは、今だけ。
大丈夫。
時が経てば、これが当たり前に思える日がくるから。
そう何度も思い直そうとしても、今はただ、苦しいだけ……
子供の頃はもっと、毅然とした態度で現実を受け入れられたのに。
どうしてこんなに、弱くなっちゃったんだろう……
……パタン
ロッカーの扉を、そっと閉める。
鏡に映った現実から、目を背けながら。
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